ミツバチの童話と絵本のコンクール

雨のふる日に

受賞並村 有華 様(京都府)

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 ところで、この一族のなかに ノロブンと よばれている子がいました。
集めるみつの量が ほかのハチより少ないため、なにかしら ゆっくりに思われ、そのようによばれていました。
ほんとうは けっしてゆっくりなわけではありません。ていねいに みつを集めていただけの話なのですが。
 ほかのハチが、乱ぼうにとったあとの花や 小さな花を まわっているのです。
「せっかく お花さんが つくってくれたみつだもの。ざつに あつかっては もったいないよ」
 ノロブンは、みんなでする 木のそうじも、ひとり遅くまでしていました。
「いつも ぼくたちを 守ってくれる木だもの。もっとていねいに きれいにしてやらなくちゃいけないよ」
 そう言いながら、皆が見のがした 小さなごみまで拾っていました。

ある 急に 雨の降りだした午後、ノロブンは、遅れて帰って来ました。
いつも 女王さまに「雨にぬれては いけませんよ。体が 弱ってしまいますからね」と、言われていたのですが。
 大変、もう木は 消えかけています。
ノロブンは、もやの中に思い切って飛びこみ、まだ 色のついている一枚の葉に むちゅうでしがみつきました。
 すると、あらら、ふしぎ。木は、土の中へ するすると すべりこみ、下へ下へと もぐっていきました。

 木は、ついに 丘の下に出来た 広いどうくつに 着きました。
ワッハッハッ。ヒッヒヒッ……。
そこでは 色んな笑い声が、まわりの岩に ひびきあっていました。
 ノロブンは、何事だろうと、そっと 木の葉から 顔を出してみました。すると、ギラギラと光るおそろしい目が あらわれました。
「グオーッ」
 地なりのような うなり声に、ノロブンは もうびっくり。
「わぁーっ、トカゲの ばけものだぁーっ」

 あわてて 葉のかげに かくれ直すと、木が、大きな体をゆすって 笑いました。
「ノロブンだったのかい、わしの頭の中に いたのは」
 天にもとどくかと思われるほど 大きなトカゲは、奥に逃げこんだノロブンに 息をふきかけました。
「わっ、ひどいっ」
 生臭い息に 目もあけていられません。トカゲのばけものは、もっとよく見ようと、木の枝に 顔を近づけました。
「木のじいさん、この ちっこい虫を ひねりつぶしてやろうか」
 木は、ゆかいそうに また 体をゆすりました。
「許してやっておくれよ。この子は ノロブンといってな、毎日 わしのうでや手のよごれを とってくれるんじゃから。ていねいに ていねいにのぅ」

「ノロブン、雨に ぬれたんじゃないかい。わたしの 毛の中に おはいり」
 おそるおそる 見てみると、大きなキバをもった 毛むくじゃらな生き物が、立っていました。
 ノロブンは こわかったけれど、その毛の中に とびこみました。思ったほど 暖かくはなかったのですが、毛で よけいな水てきをとって ほっと しました。それに 何より、毛の中に もぐりこむと 落ち着きました。
だって、とほうもないほど 変わったものに 出会ったんですもの。
 はっ、はっと、息をととのえて 頭を出すと、まわりを キョロキョロと見まわしました。
「こわくないのかい。以前 ここに来たミツバチは、まっ青になって ふるえてたぜ」
 大きなキバの下で、こわい顔をした犬が ほえるように 言いました。

 ノロブンの目が かがやきました。
ここには ふしぎな動物ばかりがいました。
ノロブンは、毛の中から とび出すと、変わった生き物 それぞれの顔を見ながら あいさつをしました。「えぇと、耳の短い ウサギさん。大きなネズミさん。こわいお顔の犬さん」
 オオカミは、苦笑しながら 頭を下げました。
「頭に のってるのは……鼻の長い ネズミさん。大きなキバと 毛のはえた……おじさん」
 マンモスも 鼻をのばして あいさつしました。
「大きな大きなトカゲさん……大きなトリさん。リスのような おサルさん」
 そして、さいごのかげを見て まゆをひそめました。
「あ、犬のようなクマ」
 大きな笑い声が また どうくつにこだましました。
「ノロブン、ここにいる皆は、昔 この丘に住んでた 仲間なんだよ」

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