ミツバチの童話と絵本のコンクール

魔女のミツバチ作戦

受賞北野 玲 様(埼玉県)

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王様はお姫様とおやつを食べていましたが、画家がはいってきたのをみて喜びました。
みずから席を立ち、お姫様とシンをひきあわせました。
お姫様はシンがすぐにきにいったようでした。
ほほをかすかに赤くそめながら、おれいをいいました。
シンは笑顔で王様とお姫様に誕生日のお祝をいい、それから真顔になりました。
「王様、国中のミツバチをみな殺せというご命令はほんとうですか?」
「ああ、そのことか」
王様にはのんきなところがあって、ミツバチのことなどきにもしていませんでした。
ついさきほど、魔女にまかせたこともすっかりわすれていたぐらいだったのです。
「ミツバチなど、この国からいなくなってもどういうことはなかろう」
「王様、それはちがいます」とシン。テーブル上のクロワッサンをゆびさしていいました。
「ミツバチがいなくなれば、このクロワッサンにハチミツをぬることもできません」
「それはちとこまるな」
「ミツバチを飼っているハチミツ職人は仕事をうしない、生活にこまるでしょう」
「む、それはいかん」
「ミツバチが花粉をはこんでいた花のおおくは、この国から姿をけしてしまいます」
王様はついにだまってしまいました。ことの重大さが、やっとわかったのです。
「王様、自然は微妙なバランスの上になりたっています。ミツバチも大切な一員です」
「そのとおりだ」と王様。「ミツバチに罪はない。兵隊をもどすことにしよう」

魔女は塔のてっぺんにある自分のへやから兵隊たちのようすをみていました。
いよいよミツバチを殺しにでていくかと思いきや、兵隊たちは動きませんでした。
画家にとめられてのんびりとすわりこみ、しばらくして城の中にもどってしまいました。
「なんとあの画家め、またじゃまをしおったわ」魔女はほそい肩をふるわせておこりました。
そのときです。赤い目の大きなカラスがビュッと飛んできて、魔女の肩にとまりました。
「ガア、ミツバチはみな殺したか?」
「やかましい!」魔女は水晶のつえをふりまわしてカラスをおいはらいました。
「これからやるところじゃ。そうつたえてこい!」
魔女の様子では、カラスは伝言をはこぶ役割のようでした。

ところがそうではなかったのです。
赤い目のカラスは空中でクルリとまわり、ボンッと音をたてて老女のすがたになりました。
魔女はびっくりしたようでした。頭をたれておじぎし、ひくい声でボソボソといいました。
「これはおねえ様。いえ、黒魔女様。おんみずからのおこしとは思いませんでした」
「ふんっ」と黒魔女。「そなたの失敗は、もうみあきたわ」
「こ、これからが正念場でございます」
「もう正念場はとっくにはじまっておる。そなたは役たたずじゃ」
黒魔女は大きなルビーのついたつえをサッとふりました。
すると妹の魔女はカラスになってしまいました。
「ガア!」
妹の魔女はかなしげにないて飛んでいってしまいました。

夕食の会がはじまりました。
りっぱな衣装にきかざった人々が王様のまわりにすわりました。
長いテーブルにならんだごちそうは、どれもこれも大変に手のこんだ料理ばかり。
しかしシンはたのしい気分になれませんでした。
それにじつは、真正面にすわっている魔女が、どうにもきになっていました。
ほんとうにそっくりだ。でもさっきの魔女じゃない。なんどもそう思いました。

「そなたはミツバチにくわしい」と王様。「前から興味があったのか?」
「いえ、それほどでもありません」とシン。
「巣箱の近くでねころび、ハチミツ職人となのる人からはなしをきいたことがあるのです」
「なるほど」王様は少年のように目をかがやかせました。「話はおもしろかったかな?」
「それはもう。その人は春になると南のはしから出発し、花を追って北にいくのです」
「ほう。巣箱を持って移動するのか?」
「はい。働きバチが花に不自由しないように、荷車に巣箱をつんで旅をするのです」
「ふうむ」と王様。「巣箱のまわりのけしきがかわっても、まよわないのか?」
「ちゃんともどってきます」とシン。
「入口で羽をふるわせて、においをだして、巣箱を教える働きバチもいるのです」
「ほほう。たいしたものだ」
「しかも働きバチは、花がさいているところを仲間に教えるそうです」

「仲間に教える?どうやって?」
「ダンスをして教えるとか」
「ダンス!こりゃたまげた。ミツバチを飼っている男がそういったのか?」
「はい」とシン。「ハチミツ職人はミツバチをこよなく愛していました」
「ふうむ、ハチミツ職人か。さまざまな仕事があるものよ」
王様はためいきをつきました。
「わしとて草の上にねころび、そのようなはなしをきいてみたいと思うことがある」
「ぜひやってください」
「そうはいかん。わしのような身分は、それができん」
「王様、それはちがいます」とシン。「身分が王様をとめるというのですか?」
王様はおどろいてシンをみました。
王様にむかって「それはちがいます」とはっきりいった人はいませんでした。
けれどよく考えてみると、画家のいうとおりなのでした。

楽隊がダンス音楽を演奏しはじめました。
人々はさそいあっておどりの輪を作りました。
これはいいチャンス。
シンは王様におじぎして席を立ち、お姫様の手をとりました。
じつはおどりながらお姫様にききたいことがあったのです。

「さきほど、魔女があなたの首になにかぬりましたね?」とシン。
「はい」とお姫様。「ハチに刺されたときのぬりぐすりだといってました」
シンはお姫様の首をみました。ぬりぐすりをぬったところはうっすらと赤くはれていました。
「ちょっと失礼」
シンはおどりながらお姫様の首にさっと手をのばし、指についたぬりぐすりをなめてみました。
思ったとおり、お姫様の首にキスをして毒を吸いだしたときとおなじあじでした。
「よくきいてください」とシン。
「そのぬりぐすりは危険です。ミツバチがおなじところをさしにきます」
「まあ!」
「魔女にわからないようにして、そのぬりぐすりは全部ふきとってください」
「はい」
「魔女はそのぬりぐすりをどこからだしたのですか?」
「つえの先でした」とお姫様。「ルビーがふたになっています」
「なるほど、つえがかくし場所か」
シンとお姫様はおどり終わって王様におじぎし、席にもどりました。
魔女のねらいはなんだろう、とシンは考えました。
やはりこの国のミツバチを殺すことにちがいない。どうしてそんなことをのぞむのだろう。

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