ミツバチの童話と絵本のコンクール

魔女のミツバチ作戦

受賞北野 玲 様(埼玉県)

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王様はベッドのむこうに立っていた老女にききました。
「この青年のしたことはただしいのか?」
「めっそうもない」と老女。「ハリをぬくなどとんでもない。
この男はなにかたくらんでおりますぞ」
画家はじっと老女をみていました。
「あなたは魔女ですか?」とシン。
「きやすく声をかけるでない」と老女。
「わたしは王につかえるこの国いちばんの魔女であるぞ」
「この国いちばんの魔女にしては、ミツバチのことはとんと知らないようですね」
魔女はいかりでまっかになりました。
「だまらっしゃい。ミツバチのハリぐらい知らんでどうする」
「ではききますが、どうしてすぐにハリをぬかなかったのです」
「ふんっ」魔女は水晶のついたつえを突きだしました。
「ミツバチめは姫様にほれたのじゃ。恋のハリはぬいてはならん」
「あっははは」大声でわらったのはシンでした。
「それはおかしな話だ。ハリをもっているのは働きバチか女王バチだ。両方ともメスなのだ」
これをきいて王様は感心しました。
「この国いちばんの魔女でもまちがいはあるらしい。そなたはさがってよいぞ」
王様は魔女を退室させ、画家とバルコニーにでました。
「みなのもの」王様は人々をみまわしていいました。「姫はだいじない。いわいをつづけよ」
人々は歓声をあげました。

画家は船に帰ろうとしました。すると王様がひきとめました。
「今夜の夕食会に招待したい。ぜひ泊まっていきなさい」
「わたしは旅の身」とシン。「おさそいは光栄ですが、
このように立派な城ではおちつきません」
「しかしこのままではわしのきがすまぬ。姫にもおれいをいわせたい」
「ではこうしましょう。城まで船をもってきます。ねむるときは船にもどります」
シンはゆるしをえて城からでていきました。

魔女は塔のてっぺんにある自分のへやにいました。
イライラと歩きながらひとりごとをつぶやいていました。
「ええい腹のたつでしゃばりものめ。どうしてくれようぞ」
魔女はお姫様の首にふれるふりをして、ミツバチのハリからとった毒をぬっておいたのでした。
ミツバチはそのにおいにきがつくと、そこにさしにくるからです。
そうです。魔女は悪いことをたくらんでいたのでした。
「ミツバチのことをもっとよくきいておくのであったわ。とんだ恥をかいたものよ」
魔女は窓際に立って思案しました。
「ともあれ、計画どおりミツバチは姫をさしたのじゃ。つぎの作戦にかかるとしよう」
画家の船がゆっくりと空を飛んで城にむかってくるのがみえました。
「あの邪魔者はそのあとでゆっくりと料理してやる」
魔女は王様のところにいきました。

王様はお姫様のベッドにつきっきりでした。
お姫様は目をさましたところでした。静かにほほえんで王様のはなしをきいていました。
「ああ、その画家に早くあいたいわ」とお姫様。「おれいをいうのが楽しみ」
そのとき魔女がつかつかとへやにはいってきました。
「王様、重大なことをおしらせにまいりました」と魔女。
「ふむ。ここできこう」
「姫様がミツバチにさされたのはよくない予兆です。なんとかしなくてはなりませぬ」
「おおそうか。どうすればよいと考えるのか?」
「ミツバチをすべて殺さねばなりません」
これには王様もおどろきました。
「ミツバチをみな殺す!そのような必要があるのか?」
「はい」と魔女。「これはミツバチ界がわが王国に反抗しはじめた証拠。そのきざしです」
「ふうむ。たしかに姫をさすとはとんでもないミツバチだ」
「わが王国はミツバチ界に報復しなければなりません。断固とした態度をみせるのです」
王様は腕をくんで考えていましたが、お姫様の髪をなでながらいいました。
「わかった。そのことはそなたにまかせよう」
へやをでていく魔女をみおくったあとで、お姫様がいいました。
「わたし、ミツバチをうらんでなんかいないわ。ミツバチを殺すなんてよくないわ」
「うむ」と王様。「まあすこしようすをみようじゃないか」

画家は船をのんびりと走らせて城にもどってきました。
城にはいろうとすると、どやどやと大勢の兵隊たちが城からでていくところでした。
「なにごとです?」シンは先頭の兵隊にききました。
「ミツバチを殺しにいくのだ」と兵隊はいいました。「王様の命令だ」
シンはびっくりしました。ミツバチを殺す?王様はきでもくるったのだろうか。
画家は大きく両手を広げ、兵隊たちの前に立ちました。
「お待ちください。あなたがたは罪のないミツバチを殺しにいくというのですか?」
「しかたがない」と先頭の兵隊がいいました。「これは王様の命令なのだ」
「たとえ王様の命令といえど、おかしいとは思わないのですか?」
先頭の兵隊はめんどうくさくなったようでした。いきなり画家にやりを向けました。
「これは王様の判断だ。
われわれはとにかくミツバチめを殺しにいけばいいのだ。そこをどいてもらおう」
「どきません」シンはぐっと兵隊をにらみました。
「わたしはミツバチを愛しています。
このようなおろかな行動を見逃すわけにはいきません」
「たかがミツバチではないか」と兵隊。
「なぜそのようなことに命をなげだすことができるのだ」
「たかがミツバチ」シンはゆっくりとくりかえしました。
「それはミツバチが小さい存在だからですか?
わたしはこの星のような小さい星をいくつもみてきました」
兵隊はだまってしまいました。
「みな心やさしい人々が住んでいましたよ」とシン。
兵隊たちはこまりはててしまったようすでした。
「少し時間をください」とシン。「わたしが王様に会って、その理由をきいてきます」
「うむ、それならばわれわれも命令違反ではない。ではすこしまつとしよう」
もともと命令に不服だった兵隊たちは、ホッとしたようすでその場にすわりこみました。
シンは城にはいり、王様のところにいそぎました。

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