ミツバチの童話と絵本のコンクール

きみは、もう独りじゃないんだ

受賞徳崎 進 様(青森県)

 次の日は雨だった。
 昼休みは外に出ずに、教室の窓際で、悟くん、優人くんと話してた。
 そこへ剛一くんが近づいてきた。
「おい、クラゲ。また転校してきた日みたいに倒れてみせろよ」
 剛一くんは、悟くんをいきなり「クラゲ」と呼び捨てて命令した。
 悟くんは嫌な顔をしたけれども、いわれるままに、その場でへなへなと倒れてみせた。転校してきた日と同じように。
 周囲のみんなは、それを見て笑った。
 でも剛一くんは一回だけでなく、何回も何回も、同じ事を強要した。そして「クラゲ人間」と冷やかした。
 はじめは笑っていたみんなも、これは意地悪なんだと気付いて、誰も笑えなくなった。笑っているのは剛一くんだけだった。
 悟くんは目に涙をためていた。
「悟くん、かわいそうだね」
 優人くんは、ぼくの耳元でささやいた。
 ぼくはうなずいた。
 剛一くんが教室を出て行ったあとで、ぼくは悟くんの傍に寄った。
「大丈夫?もしかして昨日もこうだったんじゃないの?」
 悟くんは泣いているだけで、何も答えなかった。ぼくが、肩にふれると乱暴に払いのけた。

 それから一週間ほど過ぎた夜だった。おじさんが、ひさしぶりに家にたずねてきた。
 おじさんは山がすきで、暇を見つけては山登りに出かけている。
 以前、「どうして山がすきなの?」とたずねたら、おじさんはビールをごくりと飲み込んでからこういってた。
「山の中にいると、自然の中で生きている自分を実感できるんだ。それはとても大切な事だから、山に行くんだ」
 ぼくには、おじさんの言葉は難しくて、よく分からなかったけど、いつか、わかる日が来るような気がしてる。
 その晩、おじさんは、ぼくの部屋に泊まった。明かりを消して、床に入ると、おじさんはいった。
「照秋は、今年でいくつだっけ」
「十一だよ」
「十一といえば・・・五年生か」
「うん」
「五年生といったら、一番学校が楽しい時期だなぁ」
 おじさんはしみじみした調子でいった。きっと自分が五年生だったころの楽しかった情景を思い出しているのだろう。

 でも、ぼくは、おじさんの回想には素直にうなずけなかった。頭の中には悟くんの事があった。
 あれから、もう一週間になるけど、悟くんはいくら話しかけても、返事さえしてくれなかった。以前は、誰とでも気さくに話していたのに、今は誰とも口をきかなかった。
 そんなことを考えていたら、おじさんが不意に半身を起こしていった。
「おい、どうした。元気ないな。学校で何かあったか」
「・・・」
「なんだいってみろよ。おじさんは頭が良いから、悩みなんかバンバン解決してやるぞ」
 おじさんは笑った。なんだかそんな風にいわれてしまうと、自分の悩みが小さく見えてくる。ぼくは悟くんのことを話した。
 おじさんはうなずきながら、黙って聞いてくれていたが、話が終ると、「なんだそんなもん」と笑った。
「それだったら。もう結論は出てるじゃないか。照秋は、いじめがいけないことだと分かってるんだろう。だったら、いじめを止めさせたらいいだけじゃないか」
「でも下手に注意したら、剛一に恨まれて、今度はぼくがいじめられるかもしれないよ」
「そうなったら、返り討ちにしてやればいいさ」
「それは無理だよ。剛一は、すごくケンカが強いんだから」
「そんなら負けちまえばいいさ」
「おじさん、むちゃくちゃ言ってる」
「むちゃくちゃだろうが何だろうが、間違ってることは間違ってるし、勝てないなら負けるしかない。悩むことなんか無いじゃないか。友達を見捨てるより、タンコブの二つや三つこしらえる方が気楽なもんだよ」
「・・・」
 ぼくはもう何も言い返せなかった。

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