ミツバチの童話と絵本のコンクール

きみは、もう独りじゃないんだ

受賞徳崎 進 様(青森県)

 休み時間、優人くんと話している時だった。ぼくは偶然、教室内を歩いていた悟くんが、剛一くんに足をかけられて転ばされるのを見てしまった。
「痛っ!」
 けれども悲鳴を上げたのは、悟くんではなく剛一くんだった。
「今、おれの足、踏んづけたろう。痛いじゃないか。あやまれよ」
 剛一くんは怒鳴った。立ち上がった悟くんが困ったようにうなだれていると、
「聞こえないのかよ」といって、悟くんの胸を突いた。
 クラスのみんなはこの騒ぎに気づいて、二人の周りに集まってきた。
 剛一くんが悪いのは明らかだった。ぼく以外にも、剛一くんが足を出すところをみた者はいるはずだった。でも誰も何もいえなかった。剛一くんがこわいからだ。
 ぼくの頭の中では、おじさんの言葉が鳴り響いていた。何をすればよいのかわかっていた。でも、それができなかった。こわかった。
??ごめん。
 ささやくような、たよりない声が聞こえた。声のする方を見ると、悟くんが頭をたれていた。
「ちぇっ、そんなんじゃ聞こえねえよ」
「ごめん」
 悟くんは、剛一くんに怒鳴られて、もう一度、前より大きな声でいった。
(なぜ?)
 なぜ何も悪くない悟くんがあやまらなくてはならないんだろう。
 でも悟くんがあやまってしまうと、それまで周囲に集まっていたクラスメイトたちはそれぞれの場所に散りはじめた。みんな何もかも済んでしまったとばかりに、背中を向けてしまった。
「そんなの絶対、絶対、おかしいよ」
 ぼくは自分でも気づかないうちに、大声で叫んでた。
「なんだって、文句あるのかよ」
 剛一くんは噛み付きそうな勢いでいった。
 ぼくは思わず、一歩、後に下がってしまった。でも、もう逃げたくなかった。だから、必死に叫んだ。
「悟くんはあやまることなんかないよ。ぼくは剛一がわざと足を出すところをちゃんと見てたもん。悟くんを転ばした剛一の方があやまるべきだ」
「なにいってんだ。おれが引っかけた証拠があるのかよ」
「ぼくは見たんだ」
「そんなの証拠になりっこないだろ」
「・・・」
 ぼくは言葉に詰まって、周囲を見回した。みんなは、ぼくと目が合いそうになると、そっと目をそらしてしまった。
 この時、ようやく悟くんの気持ちが分かった。
(悟くんは、こんなに心細かったんだ。独りぼっちだったんだ)
 そう思うと涙がこぼれた。
 と、その時だった。誰かが声を上げた。

「ぼくも見たよ」
 声を上げたのは、優人くんだった。優人くんははっきりいった。
「確かに、ぼくも見たよ。剛一が悟くんを転ばすところ。剛一はわざと足を出したんだ」
 これを切っ掛けに、他のクラスメイトたちも口々にいいはじめた。
「わたしも見たわ」
「ぼくも……」
「剛一は、悟くんが、おとなしいからってやりすぎだよ」
 剛一くんは顔を真っ赤にして、何かいいたげな様子だった。でも結局、何もいわずに教室を出て行ってしまった。
 ぼくは悟くんの傍により、その肩に手をおいた。
「大丈夫?」
「うん。ありがとう」
 悟くんは涙をふいていった。なんだか悟くんの言葉が胸にしみた。ぼくの方が、ありがとう、といいたかった。

 放課後、悟くんの家に誘われた。
 悟くんは、いろいろな種類のハチミツをごちそうしてくれた。昨日、おじさんが来て、お土産にくれたのだという。
 ハチミツを味見すると、前に聞いた通りに、どれも風味がちがっていて、それぞれおいしかった。
 ぼくはハチミツをなめた後、前から気になっていたことを話した。
「ハチすくいだけど、あれ、ちょっと可哀想だよ。ハチは一生懸命生きてるんだもん」
 悟くんはちょっと驚いたようだったけど、すぐにうなずいてくれた。
「そうだね。あんなに小さくても生きてるんだし、いじめたら可哀想だ。もうやらない。約束する」
 それから、また二人でハチミツをなめた。パンにつけると、いくらでもパンが食べられそうだった。
 外の天気はくもりだったけど、ぼくの心の中は、まちがいなく雲ひとつない快晴だった。

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