ミツバチの童話と絵本のコンクール

ハルやベーカリーのお客さま

受賞もも 様(福岡県)

「ハルやベーカリー」に狐のお客さまがくるようになって一年がたちました。一月に一度、スズラン商店街の春の旅行記念写真に写っている人たちになりすましてやってくることはもうハルさんとつるへいさんにはちゃんとわかっていました。
「一番目は魚正の大将でしたね。ほら、お財布忘れたって顔して」
「うん、そうだった。魚正がネクタイしめて背広なんか着てるのは変だと思ったけど、コイズミ写真館の写真を見たとき、あ、これだってわかったよ」
 ハルさんは金庫に入っていたいろんな森の木の葉を十一枚、ちゃんと押し葉にしてしまってありました。
「あの記念写真、先月の野上佛壇店のご隠居で終りましたね」
 ハルさんとつるへいさんは顔を見あわせました。
 今日、お昼にハルさんは大切なアルバムの中から一枚の写真をもってコイズミ写真館にいきました。そうしてその写真を一番いい場所にかざってもらうようにお願いしました。
 コイズミ写真館もやっぱり二代目の息子がやっています。
「これ、親父がとった写真ですね」
「そうよ、お父さんにとっていただいた大切な写真よ」
 それは七五三の男の子の写真でした。さっそくウインドのまん中に写真は額縁にいれてかざられました。
 夜になりました。コツコツ、ハルやベーカリーのガラス戸をたたいてお客さまがやってきました。
 ハルさんとつるへいさんの店に入ってきたのは、昼間、ハルさんがかざってもらった七五三の男の子でした。
 半ズボンに白い靴下、赤い蝶ネクタイを結んでいます。
 男の子のまんまるな顔はつるへいさんにそっくりです。びっくりしたように大きな目はハルさんとおんなじです。
「いらっしゃい、なにを上げましょう」
 そういいながらなぜかハルさんの目からポロポロと泪がおちてきました。
 目のまえに立っている七五三の男の子はハルさんとつるへいさんの息子のターくんでした。
 でも、ハルさんとつるへいさんにはわかっていました。それはターくんに化けている狐なのです。ターくんは小さいまんまで病気になり死んでしまって、もういないのです。
 この日、スズラン商店街の春の旅行記念の写真に写っていた人にすっかり化けてしまってどうしようかなあと若い狐は思案しながらやってきました。すると、コイズミ写真館のウインドに新しい写真がかざってありました。若い狐はラッキーとこの写真の男の子に化けてハルやベーカリーにきました。

 でも、ターくんに化けた若い狐はハルさんの目からポロポロとおちる泪をみてびっくりしました。だって、泪なんてはじめてみたのです。いつもニコニコしてるおばあさんはどうしちゃったのかと思いました。
 ハルさんはエプロンで泪をふくと、紙袋にいつものように棚からハチミツパンをいっぱいいれました。
「あの、明日もきてもらえないかしら。あんまりぼくがかわいいからもう一度、会いたいの」
 若い狐はうなずきました。
「約束よ。待ってますからね」
 若い狐はハチミツパンをかかえて森に帰ってきました。
 男の子に化けたら明日もきてくれなんてこんなラッキーなことがあるなんて信じられません。でも、ひとつだけわからないことがありました。それで長老狐にききました。それはおばあさんの目からおちてきた泪です。
 長老狐はコホコホと咳をしていいました。
「それは泪といってな、人間は悲しいときに泣く。なくとその泪というやつが出る。しかし、やっかいなのはその泪が嬉しいときにも出るんだ。人間はいろいろ複雑でよくわからん」
 そこで若い狐は今夜、ハルやベーカリーで化けた男の子にもう一度化けて長老狐に見てもらいました。
 長老狐は老眼鏡をかけてシゲシゲと見ていましたがハタと膝をたたきました。
「思い出した。あの夫婦の子供だ。おまえはその子供に化けたんだ。だからハルさんは泪がでてきたんじゃ」
 長老狐はだからもう男の子に化けるのはよしたがいいといいました。
 でも、次の日、風にのってパンの焼けるにおいがやってくると若い狐はこっそり男の子になってハルやベーカリーにやってきました。だって、またくるって約束したんですから。

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