ミツバチの童話と絵本のコンクール

きらきら

受賞赤星 浩志 様(東京都)

 翌日、ひこうきを作り上げて学校に持ってきたのは、ぼくひとりだったので注目された。あの子がくれたそれと同じようにはちの色にぬって。つばさの裏にはイニシャルをいれた。なかなかよい仕上がりではないか。
「はっちのだから、はちなんだ」
「うん。吉井くんち、養蜂場だからね」
「ビデオ見たら吉井くん、おーって思うよ、きっと」
 みんなのもみつばちみたいにぬってさ、窓から飛ばしたら、きっとすごいよ。みつばちが一斉に巣箱から飛び立つみたいでさ。
「あ。いいね、そのアイディア」


「勝手に決めて、いいのかよ」
 大人みたいに腕をくんだ広川くんがつっかかってきた。いつか、こんな面倒なことになるんじゃないかとは思ってたんだけどさ。
「べつに、何も勝手に決めたりなんか、してないよ」
 いやだなあ。
「調子に乗りすぎなんだよ。お前のせいで、なんだか面倒くさいことになってんだからよ。お前、オレのひこうきも作ってこいよ。お前、作るの早いんだろ」
 面倒くさいことになってるのは、君だろう。しかし、言うべきことは、言わねばなるまい。
「お前のせいとか、言うなよ。たしかに言い出したのは、ぼくだけどさ。みんなで決めたことだろ。それと、ひこうきは自分で作れ」
 席に戻ろうとしたぼくは背中をドンとけられ、机といすの間に左肩と鼻を打ちながらたおれた。引き出しから飛び出したはちの紙ひこうきが、目の前でぐしゃりとみじめにふみつぶされた。


 帰り道、ぼくの後ろを桑田さんはだまってついてきた。困った顔してんだろな。
 ぼくのこと、みっともないと思ってるんだろな。
 やはり、男は強くなければならんからな。
「ひこうきは?」
 桑田さんは、いつも以上に小さな声をかけてくれた。
「も一個、つくるよー」
 むりやり明るく応えたら、声がひっくり返っちゃった。

 厚紙に重ねたカーボン紙を型紙にそってボールペンで強くなぞる。全てのパーツをはさみで切り離したら、四枚の胴体部分を貼り合わせる。プロペラを固定する虫ピンのための細い切込と垂直尾翼があるのは真ん中の二枚。色をぬるのは主翼と尾翼を接着する前。仕上がりがきれいだから。主翼を指先で軽くカールさせる。90度ねじった小さな短冊は中心に虫ピンを刺し、本体に固定。息を吹きかけてうまく回転すれば、プロペラひこうきは一応、完成。後はテスト飛行と微調整の繰り返し。


 その日の朝は、少し遠回りして吉井養蜂場の前を通っていくことにした。
 歩きながら垣根の向こう側を見ると、おじいさんが巣箱を運びだしていた。少し歩いてからもう一度見たとき、置いていった巣箱の周りを七、八人の小さな子供たちがかけ回っていた。
 ぼくの視線に気付いたその中のひとりの子が元気よく手を振ってきた。何度か会った、あの子だ。ぼくは手を振りながら、ああ、あの子は吉井くんの妹じゃないな、と思った。


「もう一度、自分のひこうきに名前が書かれているか、確認すること。教室をでるのは、校内放送の後。走っていいのは、校庭にでてから。廊下は走らないこと。それと、絶対にほかの生徒を押したり、むりに追い抜こうとしないこと」
 はーい。いつもは退屈な朝会も、今日はなんだか楽しいぞ。


 桑田さんと並んだ窓際で空を見上げる。藤野先生は校庭の奥でビデオカメラを片手に手を振っている。ぼくの後ろに並べたいすの上に立ったのは、広川くんだ。だまってひざをチョンと背中に当てたのは、あやまっているつもりなのかな。桑田さんは右手に黄色いひこうきを、左手には吉井くんの机の奥に入っていた、ヨレヨレのひこうきを持っている。
 吉井くん、学校にきたら、前よりもっと、仲良くしよう。体を動かせないのなら、君んちでマンガを読もう。

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