健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
初めてだぞ、友達と病院に来るのは。なんだかドキドキするね。
女のひとに案内された吉井くんの病室は、子供ばっかりの四人部屋。
「やっぱり窓際なんだ」
色紙とマンガとお菓子を受け取った吉井くんは、ありがとうと言いながら、泣いてるような笑っているような、変な顔をしてる。
「おばさんは?」
「病院の中にいるよ」
ぐうっと色紙に顔を近づけている吉井くんを、三人で囲んだ。
「『がんばって』が八人もいるね」
「工夫がないよね」
「『窓からひこうき飛ばすなよ』が十二人いる」
「あーみんな、思ってるんだ」
「いつから学校に来れるの?」
吉井くんは
「うー」
と犬みたいにうなって、わかんない、と言った。
「吉井くんって、ずっと机の中にぼろい紙ひこうき入れてるよね」
なんで今、そんなこと言うの?
「火曜日の二時間目が、いいんだ」
吉井くんは、掛け布団を鼻の下まで引っ張り上げた。
「体育やってるクラスがないからさ。ひこうき取りにいってさ。誰もいない校庭を走るんだ。みんな勉強しているのにさ。気分いいんだ」
吉井くんはこれから先、だんだん歩くことのできなくなっていくことを、クラスのみんなは知っている。
「また、やりたいなあ」
「いつも仲良くしてくれて、ありがとうね。落とさないでね」 おばさんは、ぼくらに小さな紙袋をひとつずつくれた。
「あー、はちみつだ」
ガラスびんは、はちみつがいっぱいで、金ぴかピカピカ。
「そ、はちみつ。うちでつくったんだよ」
病院の外に出ると、小さな女の子がぼくらを追いかけてくる。吉井くんちで会った、あの子だ。女の子は持っている黄色くぬられた紙ひこうきを、ぼくにくれた。見ると後ろ半分がしまもよう。羽は空色。
「あ、はちだ」
へえ、これ君がぬったの?上手だね。この前、会ったよね。
何を言ってもニコニコしているだけの女の子は、ぼくの紙袋の中を気にしている。
「君のお母さんがくれたんだ。君んちのはちみつだよ」
びんを目の前にかざすと、しばらくじっと見て、病院の中へかけていった。
「吉井くんちの子?」
そうか、桑田さんは会っていないんだ。
「妹。じゃないかな、たぶん」
黄色い紙ひこうきは、見るとけっこうヨレヨレ。汚れの上から色をぬってんのかな。
「引き出しにあった紙ひこうきじゃないかな、それ」
塩津さんが不思議そうに言ったけど、言われてみれば授業中に飛ばしていた紙ひこうきかも。
「コンビニでアイス買おう。オゴるからさ」
厚紙を貼り合わせてプロペラを虫ピンで留めた。吉井くんが作った紙ひこうき。なんであの子がこの紙ひこうき持ってたのかな。
「夕焼け、すごい」
小さくそう言った桑田さんの横顔ったら真っ赤っか。誘ってよかった。
クラスのみんなで、吉井くんのために何ができるか話し合った。
たくさんの千羽鶴を折る。
一枚の模造紙に描いたみんなの絵を、病室にはる。
「紙ひこうき飛ばそうよ。窓からみんなで」
一応、言ってみる。
「えー」
「でさ、先生。校庭から撮ってよ、ビデオで」
吉井くんの、一番やりたいことだからさ。
「で、走って取りにいくんだよね」
うん。みんなでやったら、おもしろいよね。
ビデオ観たら、元気がでるよ、きっと。
先生はみんなに厚紙を貼り合わせた紙ひこうきの作り方を教えてくれた。吉井くんがいつも飛ばしていた紙ひこうきと同じだ。よし、ぼくは厚紙で作ろう。
「それとね」
先生は鼻の穴をくーっと広げてクラスのぐるりを見渡した。
「校長先生に許可をいただいた後、職員会議でこの話しをしました。少しうるさくしますけどご理解下さいって。そしたらね、他の先生方が賛同して下さって、学校全体で行うことになりました。予定では今週木曜日の全校朝会の後、一時間目です。
「学校全体って、全校生徒ってことですか」
「そうだよ。すごいね、ね」
本当にすごいことになってきた。