健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
「おどかしちゃったみたいで……ごめんね」
「キャーッ!お願い。こないでよ!」
私は畳に伏せて亀みたいに頭を抱えた。それなのにそいつは、どんどん近づいてきて、私の肩をとんとんとたたいた。
「だいじょうぶ?」
「だいじょうぶなわけ、ないでしょ!」
ぶるぶる震えながらその妖怪を肩越しにちらりと見て、力がぬけた。だって立ってたのは、白いひげにちょっとはげぎみの頭の、やせたサンタさんみたいな人だったもの。子犬みたいなうるんだ目で私を見てた。
「せっちゃん・・・」
おじいさんは私を見てぼそりとつぶやいた。
「も、もしかしておばあちゃんの知り合い?」
「えっ? あ、そうか。あんまり似てたから」
せっちゃんってのはおばあちゃんの名前。でもいくらなんでも、年が違いすぎるよ!
「おばあちゃんはこの前亡くなりました」
「そう……でしたか」
おじいさんはそう言って、しょんぼりうなだれた。
「ごめんなさい。知らなかったもんで。せっちゃんは、このあたりじゃたった一人の話のできる人だったから」
おじいさんは、私から隠れるみたいにして手で目のあたりをこすってた。
「せっちゃんがいないと、すぐ草が茂っちゃうね。野菜畑か草かわからなくなってるよ」
おじいさんが指さしたところは、庭のすみっこで、一段と草が勢いよく生えてるところ。そう言えば確かにあのあたりに畑があった。
「今年はせっちゃん、スイカも植えて楽しみにしてたけど」
おじいさんは勝手に畑に近寄って、草を手でかき分けてた。
「あ、でもね、今度ママ除草剤まくって。そうすれば草も枯れるからって。それに池も埋めることになったの。蚊がわいてご近所に迷惑だからって」 私がそう言うと、畑に向いてたおじいさんは、さっとこっちをふり向いた。目が怖い。
「だめだめ、除草剤なんて。土が死んでしまう。池も埋めるだなんてとんでもない。ここを追い出されたら、トンボ達は行き場がなくなるよ。ぼうふらだって、カエルやメダカたちがほとんど食べてくれてるよ。そんなこと絶対やめないと!」
ひょろりとしたおじいさんが、急に真っ赤になって怒りだしたから、私は口を閉じた。
「いや……ごめん。でもそんなこと、せっちゃんなら絶対反対するよ。私でよければ草取りや庭の世話くらい手伝いにくるよ。だから頼むからそんな話、もう二度としないでくれ」
おじいさんは草の中から、赤い実のついたトマトをみつけ、もいで私の手にのせた。
「スイカだってきっと草に隠れて育ってるよ」
スイカが家の庭になってるってのは、ちょっと素敵に聞こえた。それを除草剤でだめにしちゃうのはもったいない気がした。
「私、花坂と言います。よろしく」
「えっ? ハナサカじいさん?」
それが花坂さんとの出会いだった。
その日から、花坂さんはしょっちゅう、うちへやってくるようになった。なぜかいつもママがパートに行ってるときなんだけど、すごい勢いで草取りしたり肥料をやったりして、みるみる庭が生き返っていった。
「すっきりしちゃって、違うお庭みたい」
「いやいや。せっちゃんがいたころは、いつも庭の木や花がもっと生き生きしてたんだよ。このあたりで最後に残った緑だから、いろんな鳥やら蝶やらがやってきてたし」
確かに、近くの公園だってこんなに大きな木はないし、根元までコンクリートやレンガでおおわれてる。
「でもさ、いい虫ばっかじゃないもの。クモとかムカデとか。家の中で出たら、背中がぞーっとして足がすくんじゃうもの」
花坂さんは、私が真剣に言ってるのに、おもしろそうに笑った。
「クモやムカデね。そいつらだって小さな虫やゴキブリを食べてくれたりして、ひとくくりに悪いっていうわけでもないんだけどね。よしわかった。私から虫たちに、家の中には入るなって言っとくよ」
本気かと思っちゃうほど真顔でそう言うと、倉庫の中から白い粉の入った袋を探してきた。そしてもごもご何か唱えながら、家の周りを一周して細い線を引いた。
「それなあに」
「おまじないだね。これでもう家の中には虫は出ないと思うよ」
「ふーん。花坂さんていろいろ知ってるんだ」
ききめはわからないけれど、とにかく何かしてくれたことで、私はうれしかった。
「でもそれ、妖怪にはききめないよね」
「妖怪?」
花坂さんは持ってた袋を下に置くと、よっこらしょと背筋を伸ばした。私は小豆とぎの話をした。