健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
ハルさんとつるへいさんの店「ハルやベーカリー」はスズラン商店街の中にある小さなパン屋さんです。
ハルさんもつるへいさんも四十年お店をやってきてすっかり年をとってしまいました。
やっぱりスズラン商店街の三村精肉店、友田酒店、野上佛壇店、コイズミ写真館、村尾医院、魚正鮮魚店はみんな二代目になりました。でも、ハルさんとつるへいさんにはあとをついでくれる子供がいませんから二人で頑張っているのです。
このごろ、つるへいさんは朝早く起きてパン生地をこねたり、オーブンをのぞいたりすると腰が痛くなりました。
ハルさんはそんなつるへいさんを見ると辛くてたまりません。
お店が終ってヤレヤレと腰をおろして、お茶をのみながらハルさんはつるへいさんにいいました。
「つるへいさん、もうそろそろお店、やめましょうか」
「そうだねえ」
「そうしましょう。二人でゆっくり温泉めぐりでもしましょうよ」
そのとき、表のガラス戸をコツコツとたたく音がしました。
ハルさんとつるへいさんは顔をみあわせました。
「ほら、いつものお客さまですよ」
はあいとハルさんがお店のガラス戸をあけると三軒先の野上佛壇店のご隠居でした。
「こんばんは、ハチミツパン下さい」
ハルさんはクリームパン、ジャムパンとならんでいる、まるでミツバチのように丸いハチミツパンを紙袋に入れました。そして残りのクリームパンやジャムパンもおまけだと入れてあげました。
ご隠居はピカピカのお札を一枚出してふくらんだパンの袋を受けとるとさっといなくなりました。
「今日はだれだったかい」
つるへいさんがききました。
「野上佛壇店の安太郎さんでした」
二人はクスクスと笑いました。
ハルさんがどっこいしょと持ってきた手提金庫をあけると、今、ご隠居が払っていったピカピカのお札がアララ、楓の葉っぱに変っていました。「先月は村尾医院の大先生、そのまえはえっと、そうそう友田酒店のおじいちゃん」
「ほら、町内会長さんがきたときはびっくりしたねえ」
ハルさんとつるへいさんはおなかをかかえて、あっはっは、おっほっほと笑いだしました。
「町内会長さんに長い長いフサフサのシッポがあったのには驚いたのなんの」
つるへいさんは思わず入歯が外れそうになるくらい口をあんぐりましたし、ハルさんはヘナヘナと腰がぬけてしまいました。
二人はそれでどうやらスズラン商店街の人たちになりすましてお店にやってくるのが、町はずれのお稲荷さんをおまつりしてある森に住んでいる狐にちがいないと思いました。
「昔から狐はあぶらげが好物だっていうのにハチミツパンが好きだなんておかしな狐もいたもんだ」
「だってつるへいさんが発明したハチミツパンはハルやベーカリーのナンバーワンですからね、狐だって一度食べたらやみつきになっちまったんですよ」
そして、ハルさんとつるへいさんにわかったこと、それは月に一度だけ、スズラン商店街の人たちにうまく化けてくるのは、コイズミ写真館のウインドにかざってある(スズラン商店街春の旅行記念写真)を見たんだということでした。
「ハルさん」
つるへいさんがいいました。
「お店をやめるのはあの写真にうつってる商店街のみなさんがお店にきてからってことにしませんか」
「それはつるへいさんがそういうんならそれでかまいませんけど、腰がねえ心配です」
つるへいさんはなあにまだまだ大丈夫ですといいました。
「ねえ、つるへいさん」
今度はハルさんがいいました。
「あたし、もう一枚だけコイズミ写真館にお願いしてかざってもらいたい写真があるんです」
「わかった、ハルさんが若くて、とびっきりの美人だったころの写真だね」
ハルさんは笑ってくびをふりました。
「ちがいますよ、だってあの狐はどうやら男の人にだけ化けるみたいですからね」
「そうか、じゃ、その写真をみた狐がその人になってやってきたらってことにするとして、いったいだれの写真だね」
「ナイショ。楽しみにしててくださいな」
ハルさんはいいました。
「わかりました。狐がやってきてのお楽しみだ」
つるへいさんはウーンと背のびをしました。もうひと頑張り、明日も早起きしてパンづくりです。