ミツバチの童話と絵本のコンクール

山の神さまのこども

受賞乗松 葉子 様(東京都)

 帰る前の日、リュウにさよならがちゃんと言いたくて、ぼくはもう一度山へ行った。
「リューウ。ぼく、明日帰るんだよ」
 何度、山に向かって呼びかけても、リュウは姿をあらわさなかった。
 ぼくは切り株の上に、野球帽をおいた。リュウがくれた、たくさんのもの。ぼくもリュウに何か渡したかった。でも、ぼくが大切にしているものなんて、これしか思いつかなかったんだ。


 次の日の朝、おじさんとおばさんに見送られて、療養所の前からバスが出発した。 ゆっくりとバスが山道をおりていく。 最初のカーブを曲がった時、高い木の上にちょんと座っているリュウが見えたような気がして、ぼくは窓に顔をおしつけた。 リュウだ。やっぱりリュウだ!リュウがぼくの白い野球帽をひらひらとふっていた。 リュウ、さよなら、さよなら。 胸がつまって、言葉が出ない。木の上のリュウはどんどん小さくなっていく。 次にカーブを曲がって、リュウの姿が見えなくなっても、ぼくの目の中には、リュウがふっていた白い帽子が、いつまでもいつまでも、ゆらゆらと揺れていた。

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