ミツバチの童話と絵本のコンクール

はちみつの思い出

受賞米沢 百輝 様(山梨県)

 日本の軍隊が中国大陸で、中国の軍隊と戦争をしていたころの話です。
 そのころ、ぼくは衛生兵として、最前線ではたらいていました。
 戦場で傷ついたり、病気になった兵士を、たんかにのせて、救護所にはこび、そこで応急手あてをしたのち、後方の野戦病院に送りとどけるのが、ぼくたち衛生兵のしごとでした。
 ぼくたち衛生兵は、手助けをしてくれる、心強い仲間がいました。それは軍用犬です。軍用犬には、ほかの部隊につたえる手紙をとどける伝令犬、兵士といっしょに夜のパトロールをするパトロール犬、戦場をかけまわって傷ついた兵士や、亡くなった兵士の、いどころをしらせる犬など、さまざまな、しごとを、てきぱきと、やっていました。
 犬が戦場で重い傷をおって動けない兵士を見つけたときと、すでに亡くなっている兵士を見つけたときとでは、しらせる鳴きごえがちがうのです。
 傷ついた兵士を見つけたとき、犬は力強いこえで、
「わん、わん!」
 と、ふたこえ、ほえますが、亡くなった兵士を見つけたときは、空をむいて、いかにも、かなしそうに、
「きゃうーん!」
 と、鳴いて、ぼくたちに、しらせるのです。
 犬はぼくたち人間よりも、はるかに、するどい感覚をもっているので、生きている兵士と亡くなっている兵士を、ちょっと、かぐだけで、くべつできるのです。
 しかし、軍用犬のすべてが、すぐれた力をもっていたとは言えません。頭の良くない犬、物ぐさな犬、おく病な犬などは、すぐれた軍用犬とは言えません。
 戦場でもっとも役に立つ犬は、血統の正しい、ドイツシェパードでした。ドイツシェパードは、どんなしごとでも、りっぱに、やってのけたものです。
 しかし、ドイツシェパードは、数が少ないために、ほかの、しゅるいの犬も、軍用犬として、くんれんしなければ、なりませんでした。
 ポインターやセッターなどの狩猟犬は、おとなしくて、おく病で、軍用犬にはむいていません。
 秋田犬は体が大きすぎて、のんびり屋で、敵の鉄砲玉に当たりやすくて、これもだめ。
 中型の日本犬は頭も良く、すばしこくて、いいのですが、あきっぽくて、わがままな犬が多く、軍用犬として、つかいこなすのに、たいへん、くろうしました。
 そんなある日。いままで見たこともない、めずらしい犬が、ぼくたちの部隊に送られてきました。 正方形の体で、長方形の顔は、ひげでおおわれ、長いあごひげをはやし、短いしっぽは、ぴんと立っています。
 全身が茶と黒のばりばりの毛でつつまれ、耳ははんぶん、たれ、中型犬のくせに、大型犬のように大きいキバを、きらきらと光らせています。

 犬にくわしい隊員が、この犬をひと目見て、言いました。
「こいつはイギリスのエアデールテリヤだ。
 猛獣狩りに使う、きもったまの、ふとい犬だ。頭もいいし、体もがっちりしているし、ちょいと、くんれんしてやれば、いい軍用犬になりそうだ。」
 犬のくびわに、金太郎という名前が、記入してありました。どうして、こんな、りっぱな名前が付けられたのか、ぼくたちは、くびをかしげました。
 だが、そのわけは、すぐわかりました。ぼくは子どものころから、どんな犬とも、すぐ仲よしになれたものですが、この犬も、ぼくをひと目見て、百年も会わなかった友だちみたいに、じゃれついてきたのです。
 彼はぼくの顔を、肉のかたまりと、かんちがい、したみたいに、大きいしたで、ぺろぺろなめまわしたのち、ぼくの足くびのゲートルをくわえて、すごい力で、ぐいぐい、ひっぱりました。
「おい、やめろ!」
 と、さけんだときは、もうおそく、ぼくはあおむけに、ひっくりかえっていました。
 彼はそれだけでは、まんぞくせず、ぼくの体にのしかかって、完全に、くみふせてしまいました。
 それを見ていた隊員たちは、大よろこびで
「金太郎、やれやれ!」
 と、犬をけしかけました。そんな隊員たちも、ぼくと同じ手口で、かたっぱしから、ひっくりかえされてしまったのです。
 そうです。この犬は、足柄山の金太郎のように、すもうが大すきだったのです。
 それで、金太郎という名前をつけられたのでしょう。
 金太郎が、たちまちのうちに、部隊の人気者になってしまったのは、言うまでもありません。
 ほかの犬たちは、隊員たちに、もてている金太郎を、うらやましそうに、よこ目で、ながめていましたが、どうすることも、できませんでした。
 金太郎のように、ふうがわりな芸を身につけている犬は、ほかにいなかったからです。
 また、金太郎のように、重い傷をおって生きている兵士と、死んでいる兵士を、くべつして鳴いてしらせる、むずかしい芸を身につけている犬も、ほかにはいませんでした。
「金太郎は人間に生まれてくるはずだったのに、なにかの、まちがいで、犬に生まれてきてしまったのさ。」
などと、まじめな顔をして言う隊員もあれば
「もしかしたら、足柄山の金太郎の生まれかわりかもしれないぞ。」
 などと、うで組みをして言う隊員もいました。若林部隊長どのは、きっぱりと、こう言ってのけたものです。
「わが部隊で一番優秀な兵士は金太郎だ。」

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