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あいかわらず、ぼくは野球がへただ。いつもたいていベンチをあたためている。たまに代打で出してもらうが、きまって三振か、ぼてぼてのサードゴロだ。
守備にいたってはもっとひどい。練習のときでさえ、ポロっと落球、トンネルは日常茶飯事。まして試合のときなんて緊張しているもんだからまるで球が手につかない。 この前なんかぼくの目の前に落ちた球が大きくはねて、ぼくの頭上を越えていった。ぼくはばんざい状態。あわててうしろにころがるボールを追いかける自分自身がなさけなかった。
怒る監督に
「もう少し背が高かったらうまくとれたんですが…へへ。」
と言うと監督の怒りは爆発、ライトのポジションはすぐさま下級生にかえられてしまった。
それにくらべてブン子はすごい。この日もセンターオーバーの長打を打った。かと思ったら絶妙な送りバントも決めた。
試合が終ってぼくはブン子に言った。
「おまえ、すごかったなあ。やっぱ野球のセンスあるわ。あの監督の娘だしな。」
監督は高校生のころ、野球ではちょっとした有名選手だったらしい。しかし肩をこわしてやめてしまったそうだ。
ブン子のセンスは誰もが認めるところだし、ほんとにそれがうらやましかったぼくだったので、なにげなく言ってしまった。
するとブン子はぼくの目を見つめて言った。
「センスとかパパの娘とか関係ないよ。私、努力してるもん…。」
ぼくはその言葉を聞いてハッとした。
この前、公園でつつじの真っ赤な花を口にくわえ、ブン子が言った。
「このみつ、おいしいんだよ。健太も吸ってみて。」
そう言ってブン子はつつじの花を手のひらにのせて差し出した。その手のひらはまめだらけだった。硬くなったまめがいくつもあった。
とても女の子の柔らかな手のひらとは思えなかった。
(ぼくはどうなんだ…。)
自分の手のひらをみた。小さくて白くてつるつるでまめなんかひとつもできていなかった。思わずその手をにぎりしめた。情けなくて涙がでた。
からだの小さいことや引越しばかりしてることを上達しないせいにしていたのはまちがいだったことに気がついた。その日からぼくはかわった。
いよいよ六年生最後の大会を迎えた。チームは順調に勝ち進んで決勝戦まできた。
キャプテンの勇次を中心にみんな士気が高まっていた。
「みんな、がんばれ〜。」
スタメンからはずれたぼくだけど、チームの勝利に貢献したくてベンチから大きな声でチームメイトをはげましていた。
試合は一対〇で負けていた。九回裏二アウト、いよいよあと一人となったとき、監督がベンチから出てきて審判に告げた。
「代打、野田。」
びっくりしたのはぼく自身だ。
勇次がぼくにバットを差し出し、声をかけた。
「健太、思いっきり振ってこいよ。」
「うん。」
ぼくはうなずいてバットをうけとり、その場で素振りした。
「あんた、ホームラン打とうなんて思ってないよね。」
こわい顔をしてブン子がそう言った。あいかわらずその口調はきつい。
ぼくはひとにぎりバットを短く持ってバッターボックスに入った。胸が高鳴った。
(シャープに!、コンパクトに!)
心でとなえながらかまえた。ピッチャーが投げた。
(来た〜〜。)
カキーン
金属音が響いた。鋭い打球がセカンドの頭を越えていった。
「走れ〜。」
ベンチでみんなが叫んでる。
(いける!ヒットになる!)
と、走り出したとたんライトがつっこんできてそのまま捕られてしまった。
試合は終った。相手チームが喜んでいるのを、じっと見ていた。自然と涙がほおを伝った。
(みんな、おこってるだろうな。なんの役にもたてなくって…。)
相手チームに挨拶したあと、ぼくはみんなの顔をまともに見ることができなかった。
「健太、お前惜しかったな。今日チームで一番いい当たりだったじゃないか。」
勇次がそう言っていきなりぼくの手をつかんでみんなの前にかかげた。
「ほら、健太のこの手、まめだらけだ。お前、知らないところでがんばってたんだな。」
健太はブン子を見た。
「あんた、ちいちゃいんだから、あれで上等よ。」
ブン子は言った。かわいくない口調だがぼくにはブン子のせいいっぱいのほめ言葉に聞こえてうれしかった。
「はい、はちみつレモン。」
ブン子がくれたはちみつレモンの甘ずっぱい味がのどを心地よく通っていった。
ぼくはみんなと野球ができたことを幸せに思った。