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ぼくと彼女の出会いはグランドだった。
ぼくは小学六年のとき、山手町に引っ越してきて地元の野球チームに入った。
「今日からこのチームに入部します野田健太です。前のチームではライトを守っていました。よろしくお願いします。」
そう言って自己紹介をした。まさかはじめから補欠だとも言えず外野手ということにしてしまった。
ぼくのお父さんは転勤族で、ぼくもそれについてひっこしを重ねた。野球チームもこれで三つめだ。少しなれてくると引っ越すのでなかなかうまくならないんだ、と自分では思ってた。
監督がチームメイトをひとりずつ紹介してくれた。
「キャプテンの勇次。それから、ピッチャーの卓也。それから…。」
ひときわ体格がよく真っ黒な選手を
「ファーストのふみ子だ。おれの娘だ。」
と紹介した。
(ええ、娘ってことは女の子?)
健太は驚いた。
チームにもなれてくるといろいろなことがわかってきた。
彼女の名前は羽仁文子。「ふみ子」と読むのにみんなは「ブン子」と呼んでいるとほかの選手からきいた。
ブンブンブン、羽仁が飛ぶ。
彼女はみんなにそう言ってからかわれていた。
でもみつばちみたいなのは名前だけではないようだ。
ブン子はちょっとだれかがエラーするとすぐとんでくる。みつばちのようにとびまわる。
「あんた、ボールは真正面でとらないと。」
そう言ってとんできては注意する。
どこでもとんでくる。トイレに行った先まで追いかけてきて
「あんたたち、水飲んでさぼってるんじゃないわよ。」
と注意する。
注意されるたび、みんなはブン子をからかった。
ブンブンブン、羽仁が飛ぶ。
からかわれるたび、ブン子は少し悲しそうな顔をした。
ハチのような理由はほかにもあるみたいだ。
「あいつ、ほんとにみつばちみたいなヤツなんだ。あいつの言葉、ハチのようにグサッとつきささるんだよ。」
スパイクにはきかえているとそばにいた勇次がつぶやいた。
「たしかに。監督が細かいこと言わないかわりにあいつが言ってるみたいだね。」
ぼくも同意した。
「でも言われてみればそのとおりなんだ。なんか不思議と納得してしまうんだ。」
勇次はくつひもを結ぶ手をとめてそう言った。
たしかにそうだった。
「どうしてバット、そんなに長く持ってんのよ。あんたみたいに小さいのは短く持ってコンパクトにふらないと、当たるわけないじゃん。」
ぼくが空振りしたとき、ブン子はそういった。もっともなだけに心にチクチクきた。やっぱりあいつはハチなんだ。
でもブン子がたまに作ってきてくれるはちみつレモンは最高だった。輪切りのレモンにはちみつをかけただけのものだが、これがとてもおいしい。
ぼくなんかたいした練習もせず、試合にもあまり出てないのに、このはちみつレモンだけはみんなの倍ほど食べた。
「レモンと、はちみつの甘さが絶妙なハーモニーなんだよなあ。それにこの香り。」
ぼくがみんなに隠れて食べようとしてたら、ブン子にみつかってしまった。
「だめ、死ぬほど練習してからよ。」
こわい顔でそう言ってグランド10周を命じた。
(お前は監督か。)
そう思いながらもはちみつレモンのために必死で走ったぼくだった。