健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
冬休みが終わった。
三学期がはじまった日、麻衣ちゃんは学校に来ていなかった。
「突然ですが、町田麻衣さんが神戸の学校に転校することになりました。つらい経験を乗り越えた麻衣さんは、きっと幸せになってくれると思います。ほんとうに突然決まったことなので、先生もおどろいています。短い間でしたけど、みなさんがやさしく迎えてあげたこと、先生はとってもうれしく思っています」
先生は涙ぐみながら伝えてくれた。でも先生は、麻衣ちゃんが転校した理由を一言も話さなかった。加奈は、麻衣ちゃんはお母さんと暮らすことに決めたのだと思った。
さびしさが胸にこみ上げてきて、もっとやさしくしてあげればよかった、今ごろになってどうしょうもない気持ちになった。みんなもうつむいたままだから、きっと同じ気持ちなのだ。
町田のおばあさんが家に訪ねて来たのは、その日の夕方だった。
「麻衣には、新しいお父さんができました。みんな幸せになってくれるでしょう」
そう言っておばあさんは泣いた。麻衣ちゃんのお父さんは、町田のおじいさんとおばあさんの息子さんだ。神戸に地震があったのは十一年も前だという。加奈は、今でもそのときの悲しみを持った人々が、身近にいたことを知った。
「急に神戸に転校することになって、麻衣が謝っていました。加奈ちゃんに、さようならを言えなかったからね」
大人の人に、ていねいに頭を下げられて加奈はびっくりした。
「割れなくて残念と言っていましたけど、さて何のことだかね」
帰りがけにおばあさんは、外の風の冷たさに、毛糸の肩掛けの中に首を突っ込むようにして言った。
あのとき、手伝ってでも氷を割った方がよかったのだろうか。氷を割って、麻衣ちゃんはスカッとした気持ちになりたかったのかもしれない。加奈は、おばあさんを見送りながら、麻衣ちゃんの気持ちを考えていた。考えても涙があふれるだけで、麻衣ちゃんは強いなあと思うしかなかった。
「こんな田舎にも友だちがいるから」
加奈は、ブルッとふるえて肩をすくめた。
今年の春も、麻衣ちゃんがいつ来てもいいように、おじいさんは黄色い菜の花を咲かせるにちがいない。
早く春が来てほしい。
麻衣ちゃんが言っていた空中ブランコみたいにゆれる花に、ミツバチが何度もとまろうとするのを、加奈も見てみたいと思った。