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ミツバチの童話と絵本のコンクール

友の震災

受賞神盛 敬一 様(兵庫県)

 加奈は五年生になった。
 日本海に近い山間の小学校は、五年生になってもクラスは四年生のときのままだ。
 今年も町田さんの畑に、黄色い菜の花がいっぱい咲いていた。ずっと前にお母さんから聞いた話によると、神戸に住んでいるおじいさんの孫が、「黄色い花が好き」と言ったそうだ。それからのおじいさんは、菜の花を毎年咲かせ続けている。菜の花畑は町田さんの家の前にあって、加奈の家からも小さく見えていた。
 加奈が一年生のころ、県道に行く道できれいな女の人とすれ違ったことがある。女の人は、加奈と同じくらいの女の子と手をつないで、町田さんの家の方に行った。加奈は女の子の後ろ姿を見ながら、「黄色い花が好き」と言った子かも知れないと思った。
 毎年お正月に、お墓参りに来ているとお母さんが言ったのを覚えている。いつもすぐに帰ってしまうというから、おじいさんがせっかく咲かせた菜の花を、女の子はまだ見ていない気がする。加奈は春になると、いつもそのことが気になった。
 菜の花が終わると、夏の野菜が植えられていた。
 夏休みが終わって、二学期がはじまった日だった。神戸から女の子が転校してきて、クラスが二十人になった。
「町田麻衣です」
 あいさつで礼をしたとき、束ねた長い髪が肩から転がるようにして胸でとまった。加奈は、黄色い花が好きだという女の子だとすぐにわかった。
「神戸の子は違うなあ」
 麻衣ちゃんはオシャレで、とってもかわいいと、女の子たちがヒソヒソと言うのが聞こえた。
 休み時間に、いつも教室の中で走り回る男の子たちが静かにしている。女の子たちは、麻衣ちゃんを囲んで話し掛けていた。加奈が割り込んで話すチャンスがなく、麻衣ちゃんと目が合ったとき、小さく胸のあたりで手をふってみた。麻衣ちゃんは少し笑って、手の指を動かしただけのあいさつをしてくれた。
 その日の学校は昼までで終わった。
「いっしょに帰ろう」
 加奈は麻衣ちゃんをさそった。
「仲よくしてあげてね」
 帰る用意をしているとき、先生が言った。
 加奈は道草が好きだ。バッタやカエルを見つけると、女の子なのにつかまえるまで追いかけたりする。麻衣ちゃんは、最初の友だちがこれではかなわないという顔をして、じっと待っていてくれた。
 でも麻衣ちゃんは、加奈のすることがきらいではなかったらしい。バッタやカエルはきらいと言って触ったりしなかったけど、道草をするのは大好きだと言った。
 何日かすると、色白だった麻衣ちゃんも日に焼けて、加奈と変わらなくなった。

 学校の帰り道、加奈はとっておきの場所に麻衣ちゃんを案内した。山に沿った通学路の途中に、山が引っ込んで野原になったところがある。春は花見、秋には紅葉狩りや木の実拾いをして、昔から地域の人が楽しむところだ。その野原の真中に浅い沼があり、六月にはショウブの花が咲いている。沼の周りは自然に咲いた花がいっぱいで、今はタデが赤い色を競い合い、その向こうにはツリフネソウの赤も点々と広がっていた。
「あっ、ミツバチ」
 麻衣ちゃんがおどろきの声をあげて、加奈の肩をたたいた。加奈は「どこに?」と探していると、麻衣ちゃんが「あそこ」と言い、はしゃぐように指さした。
 ツリフネソウの花をかすかにゆらして、ミツバチが花にもぐるのをやっと見つけた。
「ほんまや、気がつかへんかった」
 庭のヒマワリに来たのを見たきりで、夏休みが終わるとミツバチはいなくなるのかと思っていた。
「神戸の駐車場でミツバチを見た」
 麻衣ちゃんがさびしそうな顔になった。
「駐車場?」
 加奈は不思議に思った。
「私が小さいころの話。駐車場に黄色い花が一本だけ咲いとった。風もないのに変なゆれかたをして。コンクリートの割れ目によ」
 麻衣ちゃんは静かに言った。加奈は、その不思議な光景を頭に描いた。
「なんでゆれとったと思う?」
 麻衣ちゃんは、クイズのようにじれったく言う。加奈は、早く続きを聞きたかった。
「コンクリートにたたかれそうになるまで茎が曲がって、ミツバチがびっくりして花の中から飛び出した。そしたら花がピヨンと立って、またミツバチが花にとまった。それを繰り返すんや」
「へえー、ミツバチが」
 加奈は、ゆれていたわけがわかってすっきりとした。
「昔、そこは私の家があったところやって。私はコンクリートを敷いた駐車場しか覚えてないけど」
 麻衣ちゃんが、そんな話をしたわけが加奈にはわからなかった。
「あのときミツバチを見て、今みたいにファーとした気持ちになった。でも、ミツバチは黄色い花が好きなはずなのになあ」
 麻衣ちゃんは、赤いツリフネソウにとまったミツバチを、じっと見つめていた。
「知ってる? おじいさんの菜の花」
 加奈は聞いてみた。
「まだ見てない。私が小さいころ、黄色い花が好きや言うたことがあるみたい。『麻衣、菜の花が咲いたぞー』、春になったら毎年、おじいちゃんから電話がかかってきた」
「来年は見られるね」
 加奈は、おじいさんがよろこぶ顔を浮かべて、うれしくなった。
「帰ろうか、また連れて来て。ここ、すっごく気に入った」
 麻衣ちゃんは広い野原を見渡した。そのときミツバチが、麻衣ちゃんの匂いをかぐように近づいた。
「お花はあちらです」
 ホテルに泊まったときのボーイさんのように、麻衣ちゃんは手で案内する真似をした。
 通学路までもどって来ると、麻衣ちゃんが立ち止まった。
「ここも好き」
 田んぼが段々になった下の方に、山にはさまれた県道が曲がりくねって見えている。加奈もここの景色が好きだ。麻衣ちゃんは、とうとう田舎の子になったと思った。

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