健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
川べりの道で、いのけんとやましんが、全速力でレンゲ畑に向かって走っていた。あんこの「グッ、グッ、グッ」と鳴く声が遠くから聞こえてくる。
(あんこが、このままもどって来なかったら、どうしよう)
川沿いには、いくつもの畑があった。畑に入って、作物を荒らしたら大変だ。おまけに道の先には、おじいちゃんのレンゲ畑もある。
(わたしがちゃんと、あんこをつかまえていれば、こんなことにならなかったのに…)
かおりは、その場にしゃがみ込みたい気分だった。
「先回りしよう」
たまえが、かおりの腕を強く引っ張る。かおりとたまえは、庭を横切って裏道に出た。
二人は細い路地を一列になって、転がるように走る。夕べの雨で、道がぬかるんでいて、かおりは、何度も転びそうになった。ようやく、あんこの走っている川べりの道に出る。
その時、かおりの目の前を、あんこが走りぬけた。
(あんこ、その先は行っちゃだめ。大事なおじいちゃんのレンゲ畑があるから)
かおりは、必死であんこの後を追いかけた。泥が、シャツやズボンに勢いよく跳ね返る。走り過ぎて、わき腹が痛い。息が切れて、声が出ない。
ようやくあんこも疲れたのか、走るスピードが遅くなる。雑草の茂みに何かいるのか、あんこは鼻を突っ込んで、においをかいでいる。
かおりは、あんこを抱き上げようとあんこの後ろからそうっと近づく。かおりは、ぬかるみに足を取られて、前につんのめった。
「キャー」
「ギャー」
かおりとあんこは、同時に叫んだ。かおりはあんこのピンク色の体に、滑ったひょうしに体当たり。あんこは、突然重たいものが自分の体にぶつかって、目を白黒させている。
そこに、いのけんとやましん、たまえが追いついた。
「小島さんって、足速いね。ぷっぷっぷ」
たまえが、たまりかねて吹き出した。かおりの顔は泥だらけで目だけが、ぎょろぎょろしている。シャツもズボンも、茶色に色が変わっていた。
あんこは、つぶらなひとみで不思議そうに辺りを見回す。いのけんの家まで、四人で交代して、あんこを抱いて歩く。四つの影が細く長く、川べりの道に並んでいた。
かおりが家に帰ると、お母さんが門の所でうろうろしている。手に持っている物を、ひらひらさせて、かおりの帰りを待っていた。
「まあ、そのかっこ、どうしたの」
お母さんは、あきれたような声を出した。
「ちょっと、転んじゃって。それより、それなあに」
お母さんはかおりに、にぎりしめていた手紙を差し出す。友美と広子からだった。
かおりはふり返って、あかね色に染まった西の空を見上げる。夕焼け空に、だ円形の小さな雲が浮んでいた。
今ごろあんこは、小屋の中で、ぐっすりとねむっているにちがいない。かおりは、まだあんこを抱いた感触の残っている腕を、ゆっくりとさすった。