山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

家森 幸男氏×山田 英生対談

食で健康長寿

高血圧少ない中国・貴陽

家森

私たちの世界調査の中で、印象に残っている地域の一つが、中国・貴州省の省都、貴陽でした。中国の研究者から「長生きの人が多いので、ぜひ調べてほしい」と頼まれ1987年、調査に行きました。飛行場に降り立って、長寿の理由がすぐわかりましたね。山肌が白いのです。石灰岩などのカルスト地形だから稲作には向かず、コメ以外のものが主食だろうと予測できました。現地の人に聞いてみると、やはり主食は大豆とトウモロコシであることがわかりました。

山田

不思議ですね。地形を見ただけで主に何を食べているかがわかるんですね。

家森

わかります。それで早速、健診してみると、私たちが調査した中国の12カ所の中でも高血圧の値が広州に次いで低いのです。血圧が低ければ、脳卒中も心臓死も当然、起きにくいですよね。大豆のたんぱく質が長寿の原因だろうと考えていました。その後、90年代初めに女性の更年期前後の健康状態と大豆との関係がわかったんです。

山田

更年期前後の体調が、どうして大豆と関係あるのですか。

家森
大豆、食文化の源流、中国貴州省・貴陽。多様な種類の大豆や加工品も多い。街ではいたるところに立ち食いの焼き豆腐店がある。朝の通勤途中に立ち寄って食べる人も多い

大豆、食文化の源流、中国貴州省・貴陽。多様な種類の大豆や加工品も多い。 街ではいたるところに立ち食いの焼き豆腐店がある。朝の通勤途中に立ち寄って食べる人も多い

私たちは主に50歳代前半の人を調査対象にしています。この年代は更年期前の人と後の人がいるわけですよね。両者のデータを比較してみると、更年期後の方が、血圧、コレステロールとも上がり、肥満も増えて明らかに健康状態が悪いことに気づきました。恐らく更年期後に女性ホルモンが減ることが体調の悪くなる原因なのでしょう。しかし更年期を迎えた人でも国や地域によっては、その影響が少ないこともわかったのです。例えば大豆をよく食べる中国とか日本ですね。どうやら大豆の中に含まれるイソフラボンが影響しているようです。

山田

最近の研究でも、大豆イソフラボンが更年期障害に良い作用を及ぼすことが分かっていますね。

沖縄県人も大の豆腐好き

家森

そこで最初の調査から 10年後、もう一度、貴州省に行きました。そこで尿を集め、イソフラボンの値を測ると、その値が高い地域では確かに高血圧の人が少なく、コレステロール値も低いことがわかったのです。多分、女性ホルモンに似た作用があって、その働きによって女性ホルモンが失われた更年期後でも、健康状態を保っていられるのでしょう。これまでの調査からもこうした地域では、心臓死が少ないことがわかっていましたが、もう一つ驚いたのは、ガンの発生も少ないということでした。

山田

本当ですか。大豆を食べると、よいことずくめなんですね。

家森

そうなんです。世界的には、男性は前立腺ガン、女性は乳ガンが多いのですが、貴陽ではどちらも少ないのです。ガンは血管を次々つくり、その血管を伝わってガン細胞は増殖し、体全体に広がっていきますが、どうやら大豆にはその血管が新しくつくられるのを抑える効果があるようです。

山田

すばらしいですね。

家森

こうした大豆を貴陽の人は日常的にいろいろな形で食べていました。干し豆腐を野菜と炒めたり、セロリ入りの麻婆豆腐や厚揚げのような焼き豆腐、日本にもある糸引き納豆までありました。大豆の加工食品も豊富で、日本の大豆食文化の源流のようなところですね。

山田

納豆まで食べているとは驚きましたね。話は変わりますが、この前、貴州省の隣の雲南省に行ってきました。省都・昆明から東に約230キロ入った羅平県というところで、世界最大の菜の花とそこに居る養蜂家に会いに行ったのですが、何十キロも続く菜の花畑は、それは見事なものでした。

家森

それは見事なのでしょうね。

山田

それに、雲南地方は多様な気候と豊かな自然を反映してか、非常に珍しい植物が多いですね。湿度が10%以下という高原地方では「岩蜜」とか「皇蜜」と呼ばれる、滋養強壮の効果も高く、栄養豊かで珍重された蜂蜜が採れるようですし、多様な気候が生薬の宝庫と呼ばれる独特の風土を作っているのでしょう。

家森

その通りです。貴陽の人は大豆を原料にした日本にはない、うどんのような豆腐麺を豆乳の汁で食べています。また、畑があまりありませんので、山菜をよく利用しています。抗酸化栄養素であるシソの葉を裏庭から取ってきては、毎日煮込んで食べています。だから動脈硬化になりにくいんですね。

山田

豆腐をよく食べるところは沖縄とよく似ていますね。

家森

沖縄の人は、全国平均の 1.5倍は豆腐を食べているでしょう。「島豆腐」と呼ばれているものですね。本州の豆腐より大きく、やや固めですが、その分たんぱく質もミネラルもたっぷりです。それと沖縄の人が長寿なのは、塩分の摂取量が極めて少ないためです。だから脳卒中も少ない。1日に取る量は8〜9グラムで、日本人の平均が12グラムですから、かなり少ない。なぜ少ないかといえば、肉の食べ方に理由があるんです。沖縄の人は豚肉をよく食べますが、ゆでこぼして食べるんですね。亜熱帯の地域ですから、塩をたくさん振って肉を塩漬けにして保存しています。そのままでは、塩辛くて食べられませんので煮ることによって塩を抜いているんです。煮れば塩だけでなく脂も同時に抜くことができますから。

山田

なるほど。実に理に適っていますね。

家森

本当にすばらしい食文化です。それに加えゴーヤのような抗酸化栄養素の多い野菜をたっぷり食べているのも、また健康にいいんです。だから高血圧も、高脂血症も少なく、動脈硬化にもなりにくい。長生きができるはずですよね。

山田

沖縄といえば、本土復帰した翌年の1973年に、父が宮古島に養蜂場を作りました。暖かいところだと、ミツバチが増えるのを利用して、春先のまだ寒い時期は、宮古島で数を増やし、それをフェリーで本島まで運び、採蜜していました。その関係で子どものころから沖縄に行く機会も多く、沖縄の料理もよく食べました。今でも好きですよ。

家森

ところで、先生は20年以上、世界各地を飛び回っておられますが、その旅を通してどんな発見がありましたか。また脳卒中ラットの研究でつかんでおられた食事と健康の関係は、証明されたのでしょうか。

家森

はい。まず世界の長寿地域には共通の秘訣がありました。肉はゆでこぼして食べ、食塩の代わりに香辛料を使っていました。また魚や野菜、果物をたっぷり取り、イソフラボンを含む大豆に加え、健康によいヨーグルトもよく飲んでいました。またシルクロードやコーカサス地方のお年寄りが毎日、元気に生活を楽しんでおられるのには感心しました。その秘訣は食にあります。野菜を食べ、ヨーグルトを飲んでいますから、おなかの調子がいい。快食快便ですから、おいしいものが食べられる。そうすれば、人生が楽しくなりますよね。しかも日本と違って大家族で、食卓の中心にはいつも長老がいて、楽しそうに語らいながら食事をしていました。カラダの栄養だけでなく心の栄養も大事であることを痛感しましたね。

子どもの偏食親にも責任

山田

確かに日本は核家族のせいか、一人で食事をせざるを得ない高齢者が多いですよね。しかも長寿世界一といっても、寝たきりや認知症の方が多いのも気になります。

家森

やはり日本のお年寄りは栄養状態の悪い人、血中のたんぱく質の少ない人から順に寝たきりや認知症になっていかれる気がしますね。おなかの調子が悪くなると、食べられなくなり、食も細くなる。長生きしても健康長寿でないと意味はありません。

山田

たしかに、健康が一番ですね。

家森

私が世界を訪ね歩くなかで、再認識したのが日本食のすばらしさでした。ご飯や魚、大豆を日常的に取り、海藻まで食べる日本の食文化は、まさに理想的です。欲をいえば、もう少し塩分を減らし、乳製品を取ってカルシウムを増やせば、究極の長寿食になると思います。

食事の代わりにスナック菓子

山田

栄養バランスの点からも日本食のよさはわかります。しかし、そのよさも、最近は少しずつ崩れてきているのではないでしょうか。

家森

そのとおりです。若い人たちの野菜嫌い、魚嫌い、大豆嫌いは目に余ります。昔からずっと日本人は魚、大豆を食べてきたのに、今の子どもたちは食べられない。親がちゃんと作ろうとしていないことにも原因があるんです。

山田

まったく同感ですね。日本も食生活が急激に欧米化していますが、特にファーストフードは問題が多い気がします。6歳ごろから11歳ごろまでに慣れ親しんだ味覚は、その後の食事の好みに大きく影響する、という話を聞いたことがあります。スナック菓子やファーストフードばかり食べていると、やはり大人になってもファーストフードから抜け切れなくなるのでしょうか。

家森

なりますね。子どものころ、甘い、油っこい、塩辛い味覚に慣れてしまうと、一生、同じような好みになりますね。だから、例えば出汁を使った日本の食文化を子どものころから刷り込んでおけば成長しても日本食はおいしいと感じるわけです。食文化の伝承は本当に大事なんです。

山田

最近の若い人と話して感じるのは、きちんとした食事の代わりに軽いお菓子やスナック菓子で済ませている人が実に多い気がしますね。特に女性は、食事を抜くことをダイエットの一つと勘違いしているようですね。子どものころから、最低限、朝、昼、晩、3食きちんと食べることは親がしっかり教えるべきです。

一日一膳で健康を改善

家森

確かに今、日本は世界一の長寿国ですが、このままファーストフードのようなものばかり食べていたら、糖尿病が増え、短命への坂を転がり落ちることになりかねません。そこで私たちが4年前から取り組んでいるのが「ヘルシーランチプロジェクト」です。1日3度の食事を変えるのは難しいけど、1食なら可能でしょう。それも外食の多い昼食を工夫することで、健康を保ち長寿を目指そうという試みなんです。私たちの世界調査から見えてきた長寿食のエッセンスを一つの弁当に詰め込んだら健康の改善に大きな成果が挙げられるのではないかと考えたのです。

山田

非常におもしろい試みですね。どんなものを詰め込むのですか。

家森

まず、ご飯を中心に、塩分を減らし、野菜を多くして食物繊維とカリウムを十分に取ります。さらに肉の代わりに魚や大豆を取り入れたヘルシーな弁当なんです。これを1日1食、4週間続けて食べてもらうのですが、もちろんメニューは毎日変わり、味も十分いけます。すでに大阪のある企業で、食べてもらった結果、食塩の摂取量も、それまで1日あたり平均14グラムだったのが、3グラム減って11グラムとなりました。3食のうち1食変えただけで、これだけ塩分が減ったのです。食塩の摂取量が1日7グラムになれば、脳卒中の死亡率はゼロになりますが、食塩を3グラム減らしただけでも脳卒中の死亡率は30〜40%減る計算になるのです。

山田

1食変えただけでも、そんなに効果があるのであれば、ぜひ全国に広げてほしいですね。膨大な日本の医療費の削減にも大きく貢献すると思います。

家森

おっしゃる通りです。もう一つすばらしいのは、魚、大豆をきっちり取ることによって動脈硬化が防げることです。動脈硬化のなりやすさを示す動脈硬化指数は、男性の方が女性より約1割高いのですが、魚、大豆をしっかり取れば、男性も女性とほぼ同じ値になります。そうすれば当然、心臓死は少なくなりますよね。今、心臓死は、男性の方が女性の約2倍も多いのですが、男性の心臓死が減って女性と同じくらいになれば、平均寿命も女性並みになるはずなんです。

山田

男性が女性並みに生きられることになるんですね。

家森

そうです。こうしたバランスのよい食事を1日1食、食べていただくだけで健康長寿が可能となります。私たちはこれを「一日一膳」と呼んで多くの人に勧めています。まさに「食はいのち」。食べ物は薬に勝る予防医学なんです。

家森先生が提唱する長寿の秘訣6か条
  1. 魚や肉をバランスよく食べる
  2. 大豆やナッツ類は十分に
  3. 野菜や果物もたっぷりと
  4. 牛乳や乳製品も積極的に
  5. 動物性脂肪はほどほどに
  6. 過剰な塩分は取らない

(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)

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