山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

家森 幸男氏×山田 英生対談

食で病気を防ぐ

試行重ねて開発、脳卒中ラット。

山田

先生は、なぜ病理学の世界に進もうと思われたんですか。医師だったお父さんの影響もあったのでしょうか。

家森

私の父は、結核の治療のために生涯を捧げたような臨床医でした。そんな父を見て私も、父のような臨床医になろうと医学部に進みました。当時は脳卒中が結核に代わって死因のトップになったころでしたね。しかし、脳卒中になると手遅れで亡くなられる方も多く、当時の最高の医学をもってしても助けられないのなら、予防しかないと思い生涯、予防の研究に身を捧げようと思ったのです。

山田

今でこそ脳卒中も軽症化しましたが、当時は重症な病でしたね。

家森

脳卒中は高齢者に多く、助かっても寝たきりや認知症になるなど健康寿命を阻害する一番やっかいな病気でした。それで脳卒中について研究を進めるうち、遺伝的に100%脳卒中を発症するラット(白ネズミ)がどうしても必要となり、試行錯誤を繰り返しながらやっと「脳卒中ラット」の開発に成功しました。

山田

大変だったでしょうね。その脳卒中ラットを使って、どんな実験をされたんですか。

家森

このラットに味噌汁くらいの辛さの食塩を毎日、与え続けると、100日以内に脳卒中になるんです。同時に大豆や魚などたんぱく質の多い餌を与えると脳卒中にならずに長生きをすることもわかりました。つまり、遺伝的に100%脳卒中を起こすラットでも、食事によって脳卒中を完全に予防することが証明されたわけです。今、「ゲノム」、「ゲノム」といって生命現象はすべてゲノムで決まっているように思われていますが、ゲノムの働きを規定するのは実は栄養なんです。たとえ病気になりやすい遺伝子を持っていても、食生活をほんの少し変えるだけで、脳卒中になる遺伝子にも勝てることを脳卒中ラットが教えてくれたのです。

山田

なるほど。遺伝よりも食事という後天的な影響が大きいというわけですね。

環境因子で病気をコントロール。

家森

はい、その通りです。かつて脳卒中といえば成人病と呼ばれ、年をとれば血管がもろくなり、脳卒中になるのは当たり前、と見られていました。しかし、今は生活習慣、特に栄養によって予防できることがはっきりしたわけですね。その理屈がわかれば、どのような人がどのような食事をとれば病気になりにくいかもわかり、今後、環境因子で病気をコントロールできる部分がますます広がってくると思いますね。

山田

食生活を変えるだけで病気がコントロールできるなんて、以前からすれば夢のような話ですね。それで先生は、なぜ世界へ長寿研究の旅に出ようと思ったのですか。

家森

確かに栄養で脳卒中が予防できることはラットの実験でわかりました。本当は、人間を使って食塩を与え続けたらどうなるかが実験できればよいのですが、それはできませんよね。それなら、世界の長寿国の人が何を食べ、また短命の国の人はどんな食生活をしているかを一定の基準で調べたら、食事と健康の関係がわかると思い、世界各地を訪ね歩こうと思ったんです。

山田

しかし、一定の基準といっても国によって食文化や食習慣がそれぞれ違いますよね。正しいデータをとるため、どんな方法で調査をしようと思ったのですか。

24時間分の尿でわかる食事成分。

家森

これまでの栄養調査は、「昨日、何を食べましたか」「3日前は…」といったことを相手に尋ねる調査が中心でした。しかし、これでは正確なデータが得られません。同じモノサシを使わないとダメなんです。そこで、実際に食べたものを調べるために、24時間分の尿を採取する方法を思いつきました。でも、これだと例えば、1日4gものビールを飲むドイツの人には、一升瓶を何本も用意しなければなりません。そんなやり方では誰も協力してくれませんよね。

山田

それで、どうされたんですか。

家森

みんなで一生懸命、知恵を絞り、ビールジョッキほどの「アリコートカップ」を開発したんです。二重底のプラスチック製のカップで、上の部分に排尿してボタンを押せば、その40分の1の尿が下のカップにたまる仕組みなんです。これで24時間分の尿が採取でき、食べた食事の成分がわかるようになりました。

山田

そのカップを持って、最初に訪れたのが、長寿で知られるコーカサス地方のグルジアでした。ここではどんな調査をされ、どんなことが分かったんですか。

家森
盛りだくさんの野菜を中心にバランスのよい食事を取ることで知られるグルジア。豊かな食卓を囲みながら語り合う元気なお年寄りたち。

盛りだくさんの野菜を中心にバランスのよい食事を取ることで知られるグルジア。
豊かな食卓を囲みながら語り合う元気なお年寄りたち。

グルジアといえば、100歳以上の元気なお年寄りがゴロゴロいる、世界でも名だたる長寿国。ここで50歳代前半の男女を中心に健診を行いました。もちろん 90歳、100歳の高齢者の方も調べましたよ。その結果を見て、とにかく驚きましたね。コレステロールは世界一の長寿を誇る日本人とほとんど変わりません。日本人の1.5倍から2倍も肉を摂っているのに心臓死が少ない。それに食事のバランスが実にいいんですね。海抜1000メートル〜1500メートルの高地ですから冬場は気候が厳しく、塩分の多い保存食に頼らざるを得ない。それなのに脳卒中が少ないんです。

山田

なぜでしょうね。グルジアの人たちは、どんな食生活をしていたんですか。

家森

コレステロール値が高くないのは肉の食べ方に理由がありました。茹でたり、蒸したりして脂肪分をうまく取り除いているんです。「シシカバブ」という焼肉も、焼く前に細かく切って脂肪分を落としていました。

山田

湯でこぼして肉を食べるのは、長寿県の沖縄とよく似ていますね。

家森

同じですね。それに野菜や果物、ヨーグルトをふんだんに摂っていました。野菜や果物にはカリウムや食物繊維が多く、塩分の害を消してくれます。ヨーグルトにもカルシウムやカリウム、マグネシウムがたくさん含まれ、免疫作用も強い。グルジアは牧畜が盛んで、お世辞にも衛生的といえません。それでも元気に長生きできるのは、ヨーグルトに免疫を高める作用があるからなんでしょう。また塩の代わりに香辛料を使っているのも健康的です。香辛料は抗酸化栄養素だから悪玉コレステロールが酸化されて動脈硬化を起こすのを抑える働きがあります。しかも、高地でありながら食卓にはいつも魚が乗っていました。マスに良く似た淡水魚で、魚にはタウリンなどが多く含まれ、血液サラサラ効果で心臓死も少ないんです。

山田

健康に生きるためのお手本のような食生活がグルジアにはあったんですね。ところで話は変わりますが、私の妹はファロー四徴症という重度の先天的な心臓障害を持って生まれました。創業者である父は、娘を救うため、あらゆる手を尽くし、特に食事には人一倍気を使い、私も子どものころからいろんなものを食べさせられました。

家森

たとえば、どんなものですか。

山田

健康によいと聞けば、山菜を採ってきて食卓に並べ、センブリやゲンノショウコなど昔から伝わる生薬を庭に干して、胃薬や疲労回復に使っていました。コメにしても野菜にしても、まだ有機農業が一般的でない時代に農薬や化学肥料を一切使いませんでしたね。近所の農家からは「農薬を使わないから山田さんの田んぼで病害虫が発生して困る」と陰口をたたかれたくらいです。化学調味料や人工甘味料などにも「不自然さ」を感じ、健康のためには自然のままが一番いいということを父は、態度で示していましたね。

家森

自然の恵みを生かした素材が健康にいいのは言うまでもありません。

山田

そんな折、当時のローマ法王ピウス12世がローヤルゼリーを投与されて奇跡の回復を遂げたといニュースが日本にも飛び込んできました。これを知った父はさまざまな文献を取り寄せ、工作室に閉じこもり、裸電球の下で研究を重ねながら、ついに大量生産する技術を独自に開発しました。私が物心ついたころから、枕元にはローヤルゼリーの瓶とハチミツジュースが常備薬のように置かれ、飲まないと寝かせてもらえなかった記憶があります。そのお陰で、妹は14歳まで元気に育ち、医師から「体力もついたので、いつ手術しても大丈夫」と勧められ、結局、その手術が原因で亡くなってしまいました。父の落胆ぶりは見ていられないほどで、夕方になるといつも泣いていましたね。そのとき、私は16歳、高校1年になったばかりの多感な時期で妹の短い生と死を通して人間の生と死について深く考えるようになりました。

家森

そんなことがあったとは知りませんでした。

近代医学の限界を知る。

山田

娘の死に直面し、父は近代医学の限界と予防医学の大切さを思い知ったようです。その死に報いるためにも、独自に開発した技術を多くの人に役立てたいと、今度は使命感に燃えて新しい商品の開発と研究に一層取り組んだのです。私たちは今でこそ多くのミツバチ産品を全国の方々にお届けしていますが、元は家族の健康を守るため、という素朴な人間愛から出発したものでした。妹の死は「一人の人のために」という創業精神の中に今も生き続けています。

家森

そうした悲しみを乗り越えて、立派に会社を育ててこられたことには感動さえ覚えますね。まさに「食はいのち」。多くの人たちは外食にしろ、お惣菜にしろ、つくられたものを使って生きているわけです。だから食を供給する人、作る側の人は「いのちを差し上げるんだ」という誇りを強く持って生産してほしいですね。食産業は言うまでもなく健康産業。幼いころから、「いのちの大切さ」を心底、分かっておられる山田さんのような方が、食産業のトップにおられることを私は心からうれしく思います。

山田

私たちは、半世紀以上にわたって養蜂業に携わり、ハチミツやローヤルゼリー、プロポリスなどをお届けすることによって多くの方々の健康に貢献してきたと思っています。

家森

すばらしいですね。ハチミツといえば、すぐ思い出されるのがアフリカ・タンザニアの奥地に住むマサイ族です。彼らが暮らすサバンナは、木の少ないところなんですが、高い木があれば必ず木製の筒が枝に吊ってありました。この中でミツバチを飼い、ハチミツを取り出していましたね。

山田

私も一昨年、タンザニアとケニアに行きましたが、あのあたりは、糖分たっぷりのアカシヤハニーが取れるんです。先生はマサイ族の調査もされたんですか。

家森

はい。マサイ族は強健で、高血圧の人がいないと聞いていましたので大変興味がありました。でも、そう簡単には接触できませんよね。ところが、幸運にもタンザニアの田舎で健診していたとき、武者修行のため故郷を離れたマサイ族の青年2人が毎日、会場にやって来ては興味深そうに私たちの健診の様子を見ていました。血圧を測ってあげると、喜んでマサイ族の村まで案内してくれたんです。これがきっかけとなり、酋長に頼まれて健診を行ったのですが、結果は、すばらしかったですね。ほとんど高血圧の人はいませんでした。コレステロール値もみんな低いんです。

山田

高血圧の人がいないなんて、信じられませんね。なぜでしょうか。食塩は摂っていないんですか。

おいしかった「マズイワ」の味。

家森

彼らの食生活には、食塩というものがないんです。ミルクやヨーグルトに含まれる自然の塩分だけで生活していました。その代わりミルクやヨーグルトをよく飲むんです。1人あたり1日3〜10gは飲んでいましたね。しかし、ヨーグルトだけでは食物繊維が足りませんから「ウガリ」というトウモロコシの粉を混ぜて飲んでいました。現地では「マズイワ」と呼んでいますが、これが意外やオートミールのような味で、結構おいしいんです。もう一つ、びっくりしたのは、ミルクに牛の血を混ぜて飲むんです。夜明けに、矢で静脈を突き、ほとばしる血を「キブユ」というひょうたんで受けて発酵乳と混ぜて飲むんです。血の赤血球には鉄分が多く、草を食べる牛の血にはビタミンCが含まれています。だから成長期にある子どもと赤ちゃんを産む女性が男性に優先して飲めるという掟がありました。

山田

別に栄養学を勉強をしているわけではないでしょうに、よく考えていますね。

家森

本当に驚きました。今、世界ではファーストフードなどの浸透で、食塩を多量に使った食文化が広がっています。人間はあえて食塩を摂らずとも自然のものを食べているだけで生きていけることをマサイ族が教えてくれました。

(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)

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