山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

竹熊 宜孝氏×山田 英生対談

正しい食生活こそ薬に勝る予防医学。

自分の健康は医師任せ

命は自分で守るもの
山田

この1年間、竹熊先生との対談を通じ、多くのことを勉強させていただきました。先生は若いころ、自らの暴飲暴食によって招いた糖尿病、肝臓病などの生活習慣病を食を断つことで克服され、「食こそ病の根源である」ことを悟られました。この経験をもとに、医と食との深い関わりや、その食を生み出す農の重要性を認識され、医・食・農の一体化による地域医療に一貫して取り組んで来られました。その食養生を中心とした医療活動は、まさに病気にならないための予防医学の実践であり、非常に貴重な試みだったと思っています。

竹熊

医学の目的は、病気を治すことにあるのは言うまでもありませんが、医学の理想論からいえば、何といっても病気にならないのが一番です。しかし、今は若い世代を中心に過食、偏食は言うに及ばず、深夜まで飲み食いし、乱れた食生活を繰り返しているため、体調の不良を訴える人が実に多いのが気がかりです。今や1億2千万人の国民の多くが半病人といってもいいほどです。そのくせ、ちょっとしたことでも病院に行き、自分の健康は、人任せ、医師任せと言わざるを得ません。東洋医学では医食同源の考え方に基づき、食べ物で病気を予防し、治療にも役立てています。これからは「命」を優先する予防医学が、ますます重要になっていくでしょう。

山田

ご存知のように2008年の日本人の平均寿命は、女性が86.05歳で24年連続長寿世界一、男性も79.29歳で世界4位と、日本は世界一の長寿国です。長生きすること自体は、誰しも共通の願いですから、大変喜ばしいことなのですが、ただ単に長生きすればよいというものでもありません。長生きしても、寝たきりになったり、認知症になっては、QOL(生活の質)を維持するのが難しくなってしまいます。たった一度の人生を有意義に過ごすためにも、介護などを必要とせず、健康で自立した生活が送れる健康長寿でありたいものです。

長寿の沖縄、食に秘訣

竹熊

そう思いますね。私は、1965年から1年半、長寿で知られる沖縄県の中部病院に指導医として勤務したことがありました。周囲には80歳、90歳は当たり前、100歳を超えたおじい、おばあたちが結構いましたね。その歳になっても現役で畑仕事をしながら、みんなで仲良く歌ったり、踊ったり、実に人生を楽しんでいました。元気なお年寄りが普段、どのようなものを食べているか聞いてみたら、当時は、からいもを主食に野菜や海藻、豆腐、小魚などを常食にしていました。野菜もニガウリ(ゴーヤ)や冬瓜、ヘチマなどを自分たちで作り、豚肉は茹でて脂肪分を抜き、コラーゲンたっぷりの手足も骨まで愛して食べていました。沖縄のお年寄りたちの長寿は、食べ物に秘訣があったんです。それも、昔から地域に伝わる伝統料理。やはり、長寿と食生活は、切っても切れない関係にあることをこの時、実感しました。

山田

健康長寿は、バランスの取れた食事、適度な運動、規則正しい生活など日ごろの生活習慣の積み重ねによって達成できるのですね。

竹熊

生活習慣は大事ですよ、特に食生活は。「食は命なり、薬なり」と言うでしょう。人間の命は、食べ物によって生かされていると言ってもいいほどです。病気にならない食べ物、病気を治す食べ物、長生きのための食べ物…。食べ物そのものが、命なんです。でも、時には薬にもなるけど、毒にもなる。だから有害な食べ物には手を出さない。どんなにおいしくても腹八分目、食べ過ぎない。健全な食生活を営むことによって病気にならないように注意することはとても大切なことです。私がこれまで続けてきた医と食と農の一体化による菊池養生園での取り組みは、まさに病気予防が目的の一つといってもいいと思いますね。

自然治癒力で病気改善

山田

近年、再生医療や遺伝子治療、臓器移植などに代表されるように、現代医学の進歩には、目を見張るものがあります。また、画像診断や血液検査などによって病気の診断も、昔と比べ容易かつ正確となりました。しかし、その進歩した先端技術をもってしても、人体の精巧なメカニズムのごく一部しか、まだ解明されていませんし、実際、新型インフルエンザ一つとっても満足に治せていないのが現代医学の限界ではないでしょうか。私たちが病気やケガをした場合、医師や薬の力を借りなくても、しばらく安静にしていれば、快方に向かうことがよくありますよね。なぜかといえば、元々、私たちの体には「生命力」とも言うべき、基礎体力や免疫力などの自然治癒力が備わっていて、病気になったら自分で治そうという力が自然と働くからなのでしょう。

竹熊

確かに、そう言えなくもありませんね。よく、命を守っているのは、医学や医師、薬であるかのように言われていますが、それは幻想に過ぎません。私は病気というものは、医者が治しているのではなくて、患者さんの自然治癒力によって治っているのではないかとさえ思っています。例えば胃を手術した場合を考えてください。医者がいくら胃を上手に切り、それをうまく縫合できたとしても、皮膚と皮膚が繋がってくれなければ病気は治ったとはいえません。

山田

確かに、その通りだと思います。それが自らがもっている自然治癒力ですね。

竹熊

元々、私たちの体には繋がる働きが備わっているのです。それなのに、「(医者が)治した」だの、「治してもらった」だのと騒いで、中には「あの先生のお陰。命の恩人」とまで言う人もいます。「命を守る」とよく言いますが、誰が守るかといえば、結局は一人ひとりが自分の体を守り、病気やけがをしても患者さん自身の力で治っているといった方が適切かも知れませんね。

山田

確かに病気になっても症状の重い人と軽い人、まったく病気にならない人もいますよね。結局、その差は自然治癒力の差であって、この自然治癒力を高めるのが予防医学の役目といってもよいのではないでしょうか。しかし、これほど、病気の予防が求められている時代なのに医療現場では相変わらず治療中心で、病気にならないための体をつくる予防医学は、まだ十分浸透していないような気がします。

竹熊

ご指摘の通り、現代の医療は、診断と治療にウエイトが置かれているのが実情です。医師の側にも養生で病気を予防するという考えや意識などが抜け落ちているといってもよいでしょう。日本の医師は、病気を見つけることにかけては、熱心で得意ですが、予防に関心を寄せる医者はまだまだ少ないのが現実ですね。

病人を作らぬ医療

山田

それと、私たち患者側にも病気を予防しようという意識が欠けている点も否めません。結局、国民皆保険制度に甘えているのでしょうか。万が一、病気や事故などにあっても保険証さえ見せれば、どこの医療機関でも気軽に診てもらえる、と短絡的に考えているように思えてなりません。実際、我々日本人には、自分の健康は自分で守ろうという意識が希薄だと思います。

竹熊

同感ですね。前述したように、医学は、病気を治すことが本来の目的ではありますが、病人を作らぬ医療、予防のための医療も、医学の本質だと言えるでしょう。

山田

私が不思議でならないのは、これほど医学がめざましい発達を遂げているのに病気は減るどころか逆に年々、増え続けていることです。特にがん、心臓病、脳卒中は増え、日本人の死因の約6割を占めているといわれています。この3つの病気だけでも予防できれば、日本人の寿命はもっと延びるのではないでしょうか。

竹熊

延びるでしょうね。

山田

その一方で、「文明病」という、時代に即した病気も増えてきました。花粉症や化学物質過敏症などのアレルギー疾患がそのいい例ですが、元々、人間の免疫力が落ちているところに、食品添加物などの合成化学物質が日常生活の中に大量に入り込み、さらに環境汚染の拡大や生活環境の複雑さによるストレスが追い討ちをかけているような気がしてなりません。

竹熊

生活が変われば病気の種類も変わってきます。

健康管理は自己責任

山田

これからの医学は、これまでのように病気を力で抑えるのではなく、自らに備わった自然治癒力を高め、命を養っていく医学に変わっていく必要があるのではないでしょうか。

竹熊

健康長寿は、バランスの取れた食事、適度な運動、規則正しい生活など日ごろの生活習慣の積み重ねによって達成できるのですね。

山田

現代社会は、国民の健康を蝕む要因が増加し、健康不安を増幅させています。また、高齢化社会の進展に伴って国民医療費は、年間35兆円を超え、しかも毎年1兆円ずつ増えているといわれています。昔ならば、医師の指示に従って出された薬を言われた通り飲んでいれば、それでよかったかもしれませんが、今はそういう時代ではなく、「自分の健康は、自分で守る」という考え方が必要になってきました。言い換えれば、「健康管理は自己責任」といってもよいでしょう。国民一人ひとりが予防医学的な考え方に立って自分の健康は自分で守るくらいの覚悟が必要なのではないでしょうか。

竹熊

同感ですね。例えば肩こりがする、眠れない、疲れがとれない、といった症状は、病気の前兆ともいえるサインかも知れません。こうした体の悲鳴を聞いたら、じっくり休養をとるとか、生活習慣を見直すことも必要です。日ごろから自分の健康状態をチェックし、大事に至らないうちに病気の芽を摘み取るよう心がけてほしいものですね。

  • 鏡野便り:山田養蜂場公式Blog
  • みつばち広場
  • 店舗案内
  • 法人様お取引窓口
  • みつばち農園