山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

竹熊 宜孝氏×山田 英生対談

未来の生命を見つめ 自然との共生をめざす。

定年記念に山を買おう

今日の食は、明日の血液
竹熊

この前、山田さんの会社を初めてお訪ねした時、社屋の周りにカシやシイなど多種多様な樹木が植えてある光景を見てとても印象に残りました。まるで森の中の研究所に来たような感じがして、なぜか心が洗われる気がしました。

山田

社屋の周りには、昔から地域の野山に生えていた常緑広葉樹や蜜源の木など約60種類 3万本が植えてあります。地域の皆さんにご協力いただきながら植えて約10年になりますが、今ではいろんな野鳥が飛んでくるし、小動物や昆虫なども棲む生物多様性に富んだ森に成長しました。タヌキも棲みついて、林の中にはけもの道までできていますよ。昨年の秋も、実った栗を母が収穫し、会社の食堂で昼食に栗ご飯を皆で一緒にいただきました。

竹熊

それにしても、ミツバチが飛び交う自然環境と密接なつながりのある養蜂場にふさわしい見事な森ですね。実は私も定年退職の記念に3反(約30e)ほどの里山を買ったくらい木が好きなんです。時々、孫たちとその山に行って、山の中を歩いたり、餅を焼いて食べたりしながら一緒に遊んでいますよ。そうしているだけで地球の「命の鼓動」が聞こえてくるような気がします。子どもたちにとって、里山はまさに教育の場なんですね。だから、私は養生説法を聞きにくる人たちにも「定年を迎えたら、退職金でぜひ山を買ったらいい」と勧めています。

山田

それは非常にいい考えですね。私たちは養蜂に携わる中で、自然環境や生命の大切さをミツバチから学びました。今、国内各地では森林が荒廃し、蜜源植物が減少しています。私たちは、かつての豊かな自然環境を取り戻したいと様々な活動に取り組んでいまして、ミツバチと子どもたちが触れ合う体験学習「エコスクール」もその一つです。当社に近い里山を会場に、これまで10年間にわたり続けてきました。ミツバチの生態観察や採蜜などを通じ、子どもたちに「自然との共生」や「命の大切さ」を知ってもらうのが目的なんです。

温暖化対策は緊急課題

竹熊

環境教育は、早ければ早いほど効果があると言われていますが、山田さんがそのことにいち早く気づかれ、子供たちに自然と触れ合う機会を与える活動に取り組んでこられたのは、非常にすばらしいことだと思いますね。

山田

環境問題といえば、黄砂や酸性雨などは勝手に国境を越えてやってきて、隣接する国々や地球全体にも深刻な影響を及ぼしかねません。環境問題は、今や自分の国だけで解決できる問題ではなく、各国が連携してできる平和な社会を実現しなければ解決できないグローバルな問題になっています。特に地球温暖化への対策は、もう待ったなし。国民一人ひとりが一刻も早く取り組まなければならない緊急課題といってもいいでしょう。温暖化対策は、自分たちの身近なところから環境問題を考え、行動できるテーマ。だから、子供たちには小学生の頃から環境問題に関心を持ってもらい、例えば節水や節電、ゴミの分別などの省エネ活動や木を植え、緑を増やすなどの緑化活動など、自分たちでできることから取り組んでほしいと思っています。

竹熊

子供たちは、感受性が鋭く、物事の本質を見る目は澄んでいます。水や空気、森林など貴重な自然環境や地球資源などについては、ぜひ子供のころから興味を持ち、問題意識を共有してほしいですね。資源といえば、昔から学校や教科書で「日本は資源小国」と教えていますよね。でも、私はちょっと違うのじゃないかと思うんです。確かに、石油や鉄鉱石など地下資源に限れば、資源小国かもしれません。しかし、次元を変えて環境という視点で考えれば、日本ほど豊かな資源を持っている国は、そんなにありませんよ。

山田

そう言われれば、確かにそう言えますね。

日本は有数の資源大国

竹熊

よく学校に頼まれて子供たちに話をする機会があるんですが、私はあえて「日本は資源大国である」と言っています。国土の約7割は、森林に囲まれ、大きな酸素工場を持っている。周囲を海に囲まれ、魚貝類や海草が豊富で、まさに日本列島は、食糧倉庫といってもいい。その海がもたらす四季や雨、風などに加え、全国どこでもコメや野菜などがつくれる温暖な気候にも恵まれています。火山国と言われるけれど、温泉や地熱など無限のエネルギーを持っています。この資源を有効に利用すれば、未来への希望は見えてくると思うのですが…。

山田

これまで、私たちは、豊かさや便利さと引き換えにあまりにも環境に負荷を与えすぎてきたように思います。これからは環境を守るため、限りある資源は浪費せず、持続可能な形で利用していくよう、教育の場で教え、啓発していくべきではないでしょうか。 

竹熊

その通りです。私は、現代社会はあまりにも科学を万能化する一方、人間を特殊化してしまっているように思えます。人間は自然界の生物の一員でありながら、そのことを忘れ、人間中心に考えているところに誤りがある。そんな思い上がりや驕りは捨てて、もう少し自然に対して謙虚であるべきではないでしょうか。結局、人間がどんなに強がってみても自然との共存の中でしか生きる道はありません。自然に対し、もう少し思いやりや畏敬の念を持ってほしいですね。

山田

同感ですね。

自然界には7人の名医

竹熊

自然界の生物は、次世代に生命を引き継ぐため、あらゆる努力をします。それに比べ人間は、なまじ知恵があるために自然を変えてまで自らを生きやすくする。こうした人間の身勝手な便利さの追求が自然を破壊してしまうのです。私は「医学は農業に、農業は自然に学べ」と口癖のように言っていますが、なぜ自然に学ぶのがよいのか。それを裏付ける一つのヒントとして、「自然界には7人の名医がいる」と言った人がいました。私の知人の言葉なのですが、7人の名医とは何かといえば、@日光A空気B水C食D運動E休息F精神―のことを言うんです。

山田

なるほど。「7人の名医」とは、うまい表現ですね。

竹熊

この7人の名医は、人間が健全に生きていくうえで、どれも欠かせない条件といっても過言ではないでしょう。ところが、現実はどうですか。都会では「日光」の届かないコンクリートの穴倉で生活し、「空気」だって工場や車の排気ガスで汚れている。動植物には欠かせない「水」にしても、人間や工場が集まれば汚染されてくるし、子供の健康によくない甘い水もあふれている。「食」は、不自然な人工食のオンパレードだし、「運動」にしても最近は車に頼ってばかりで、足腰の弱い人間は増える一方です。「休息」にしても、休むべき時に休まない昼夜行動性動物の人間のなんと多いことでしょう。「精神」にいたっては、ストレス社会を反映してか心を病んでいる人が急増しています。「病は気から」というように気持ちの持ち方しだいで、どんな病気にもなってしまう。「自然の名医」は本来なら人間に無限の力を与えてくれるはずなのに、人間は自然の名医に逆らって勝手な行動ばかりしているから病気も一向に減りません。自然の名医を大切にしてこそ、真の豊かさが得られると思うのですが…。

将来に不安抱える日本人

山田

今、先進国の多くの人々も、人類社会の未来に対し、漠然とした不安を抱えているように思います。地球温暖化や環境破壊、食糧危機などが私たちの身辺に差し迫っているからでしょうか。しかし、人間のいのちにとって最も大切な食と、それを生み出す農が厳しい状況に置かれているにもかかわらず、日本人には食糧不足への自覚と危機感はまるで感じられません。日本が海外から大量に輸入している穀物にしても、南米アマゾンなどでは大豆やトウモロコシを生産する代わりに、広大な熱帯林が毎日のように伐採されています。「自分さえよければ」という日本人の思い上がりが、地球環境に大きな傷跡を残している現実を知ってほしいと思いますね。

竹熊

戦後、ひたすら工業化を目指す一方で、農業を切り捨ててきたこれまでのつけが、一気に噴き出てきたように思えますね。世の中、医者はいなくても人間は生きていけますが、命の糧である農業がなくなったら生きていけません。その農業も、長年にわたる農薬や化学肥料の影響で土が死にかけています。私は野菜づくりを楽しんでいますが、除草剤は一切使わず、雑草は手で抜いたり、鎌で取っています。しかし、平気で除草剤を使っている農家も結構いますよ。畑を草だらけにしておくと「ずぼら百姓」といわれるのが嫌なんでしょうね。でも、除草剤を撒けば、土だけでなく虫などの生き物も死んでしまう。土が生きていれば、食べ物は健康に育ち、健康な体をつくってくれます。土の病を癒さずして食物や人間の病を癒すことはできませんね。

山田

健康な体をつくるうえでも土作りが基本であることがよく分かりました。農業というのは、自然のいろんな力を借りて成り立っているんですね。2006年春、アメリカで突然、大量のミツバチが消え、その後ヨーロッパや日本にも広がった「ミツバチいないいない症候群(CCD)」がありました。原因もいろいろと取沙汰されてきましたが、自然界の営みは、人知の及ばない世界。環境や汚染に非常に敏感なミツバチがある日、大量に忽然と姿を消した現象は、身勝手な人間社会への警告といってもよいでしょう。ミツバチが暮らしやすい自然環境、生態系を守ることは、持続可能な農業を維持していくうえでも不可欠だと思います。

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