山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

竹熊 宜孝氏×山田 英生対談

朝メシ抜けば、気も抜ける

気になる睡眠、就寝時間

朝メシ抜けば、気も抜ける。
山田

最近、気になるのは子供たちの睡眠時間が極端に減っていることですね。小学生で、 10〜11時間、中学生でも、8.5時間〜9.5時間の睡眠が必要と言われていますが、最近のある調査では、「8時間以上」の睡眠時間を取っている小学生は、約79%、中学生はぐーんと減って約30%、高校生に至っては7%にも達していません。特に高校生は、その約半数が「6時間以内」と答えています。本来、必要とする時間より2時間以上も足りないわけですね。睡眠が足らないと、子供たちはいつも眠い状態にあり、注意力も散漫となり、学業への意欲にも影響が出ると聞いたことがあります。

竹熊

睡眠を十分取ることは、子供たちにとっては特に大事ですね。昔から「寝る子は育つ」と言うでしょう。子供にとって重要な成長ホルモンは寝ている間に分泌され、しかも夜間に多い。睡眠時間が短いとそれだけ分泌が悪くなって脳や身体の成長にも影響を及ぼしかねません。

山田

それと、就寝時間が遅くなっているのも気にかかります。例えば、夜10時前に寝かされる3歳児は約5割しかないとの調査結果もあるくらいです。子供たちがなぜ夜更かしをするかといえば、携帯電話やパソコンでメールやゲームをする、また、多チャンネル時代の到来により、テレビは、いつも面白い番組を放送しており、ずっと見ている。それで寝る時間が遅くなるというんですね。特に高校生は、携帯やテレビ、ネットなどのメディアを利用する時間が1日、5時間半を超える子供も結構多いとのデータもあります。ネット漬けの子供たちをどう守るか、親の責任も大きいですね。

竹熊

子供たちの生活は、昔と比べ一段と忙しくなっています。例えば小学生は塾や習い事に、中学生になると部活動も加わって遊ぶ暇もないくらい勉強に追いまくられているみたいです。その目的も、できるだけ偏差値の高い有名な学校に合格し、一流会社に入るためですからね。最近では学習塾による小学生の全国統一テストまで行われるようになりました。確かにこの時期は受験期でもあり、親の心配も分からないわけではありませんが、同時に子供たちにとっても成長期であり、十分な睡眠時間を確保してあげるのも親の大事な務めだと思います。

親も一因 子供の夜更かし

山田

しかし、実際は、大人の身勝手な生活ぶりが子供の夜更かしに拍車をかけている面もあるようです。例えば夜間、コンビニやスーパー、レストランなどに子供を連れて出かけたり、中には居酒屋やカラオケにまで連れまわす親もいると聞きました。昔でしたら考えられませんけれど、今の親は「自分が遊びたい」と思っている者が多く、自分のライフスタイルを無理矢理、子供に押し付けているような気がしてなりません。

竹熊

親たちに引っ張り回されている子供たちの方こそ、むしろ大人たちの身勝手な欲望の犠牲者と言えますね。

山田

私の育った家では、妹が生まれつき心臓が悪かったため、家族の生活は妹の健康のために回っているようなものでした。だから両親は、今ほど「有機栽培」という言葉が定着していない当時でさえ、人一倍、無農薬や有機栽培にこだわってコメや野菜を作り、他の食べ物でも、無添加のもの、手作りのもの、旬のものなどをできるだけ食べさせていました。それだけ、子供の健康を第一に考えてくれていたのですね。だから私たちにとって食べ物は、親の愛情そのものでしたが、現代社会では食の愛情の部分が抜け落ち、単なるモノとしか捉えられなくなっているような気がします。

竹熊

山田さんのご両親が「食べ物はいのちの根源」という考え方に基づいて、無農薬、有機栽培を実践し、添加物などのない食事を、子供さんに与えてこられたことは、まさに、子を思う親の愛情であり、「いのちへの自覚」に基づく行動といってもよいでしょう。ご両親の生命観に根ざした農業や考え方には敬服します。恐らく、自然環境の変化に敏感なミツバチと一緒に暮らす中でお父さんは、「かけがえのないいのち」、「自然の大切さ」を学ばれたのでしょう。

3食摂るのが生活の基本

山田

そうかも知れませんね。夜更かしをする子供たちは当然、朝起きられなくなり、登校時間ギリギリまで寝ています。起きると同時に、あわてて学校へ飛び出して行く子供が多いみたいです。朝食を摂る時間がないんですね。特に親が共稼ぎや夜型のライフスタイルだったり、中には母親の朝寝坊やダイエットなどのために、朝食を食べたくても作ってもらえない子供たちさえいると言われています。ある調査で「朝ごはんを食べないこともある」と答えた小学生は15%、中学生では22%もいました。親が朝食を食べないのは自由ですが、子供たちまで犠牲にするのはあまりにも身勝手と言わざるを得ません。「朝ごはん条例」を制定し、熱心に「早寝・早起き・朝ご飯」を奨励している町もあると聞きましたが、わかるような気がしますね。朝ごはんを食べないと、学校の成績に影響したり、情緒的にも落ち着かないなどの声もよく耳にしますが、実際はどうなんでしょうか。

竹熊

朝食を食べないと、明らかに学校の成績に影響するという調査結果もあるくらいです。しかし、成績以上に重要なのは、心身への影響です。子供は、成長期にあり、脳や心身の健全な発達を促すためにも、きちんと3食を摂ることが重要で、朝食抜きは感心しませんね。私も自分の子供には必ず朝食を食べさせました。ただ、朝食を食べさせているからといって手放しで安心はできません。その中身が問題なんです。

食卓は、教育の場

山田

確かに、朝食がスナック菓子だったり、インスタント食品だとしたら、大いに問題ですね。それと、もう一つ気になるのは、最近、子供たちの間で、1人で食べる「孤食」や家族とは別のものを食べる「個食」が増えてきたことです。本来、食事は家族そろって同じ食卓を囲み、その日にあった出来事などを語り合うコミュニケーションの場であり、同時にしつけや食事のマナーなどを教える教育の場でもあるはずです。子供が1人で食卓に向かう姿は、どことなく寂しいし、社会性や協調性を育むうえでも大きなマイナスになると思いますね。

竹熊

同感ですね。これまで家庭ではもちろんのこと、学校教育の中でも食育や「いのちの教育」がほとんど行われてこなかったのは否めません。いのちを忘れた教育は、公害や環境破壊を生み出し、いのちよりもお金を優先する社会になってしまいます。こうした「いのちの教育」は、早く始めれば早いほど効果があると思います。学校給食にしても献立のバランスや安全性の問題などいろいろあるでしょう。コメが余っているのに、なぜ外国から小麦粉を輸入してまでパン食にしなければならないのかといった声もよく聞きます。私もこれまで、一貫して米飯給食の拡大を主張してきましたが、すべて米飯にしたら町のパン屋さんだって、小麦の輸入業者だって売り上げに響いて困るでしょう。だから、完全米飯給食はそう簡単にはできない難しさがあります。また、給食も学校教育の一環であり、親も給食の問題で言いたいことがたくさんあっても、「内申書に響く」「推薦状を書いてもらえなくなる」などを恐れて言いづらい。子供を学校に人質にとられているようなもんですから。

「弁当の日」で食育を実践

山田

今、「弁当の日」が話題になっていますね。親子の時間を取り戻そうと2001年に香川県の小学校で始まった取り組みですが、その後全国に広まり、今では小学校から大学まで約300校で実施されていると新聞に載っていました。買い物から献立づくり、後片付けまですべて子供がやり、親はできるだけ手伝わない。この取り組みで、子供は料理の作り方を覚えるだけでなく、親子の会話が増え、給食の食べ残しも減ったと聞きました。これも食育の一つであり、子供の頃から食に関わることで大人になっても食の安全性に関心を持ったり、健康によい食材の選び方などが自然と身につく可能性も大きいと思います。

竹熊

弁当を自分で作れば、「食べ物はいのち」であることが実感できるし、それなりに意義のある取り組みだと思います。ただ、その材料を考えると、やや疑問が残りますね。例えば、材料が農薬だらけの野菜だったり、添加物の多い加工食品だったら意味はないでしょう?今、農水省も、文科省も、市町村でも食育にどんどん力を入れていますが、どうもそこには「土」というものが、見えてこない。例えば、畑で自家製野菜を作っていれば、その野菜がどういうものかわかりますよね。実際、土に触れることによって「健康な土は、健康な食べ物を育て、健康な食べ物は健康な体をつくる」ことが自ずとわかってくると思います。土と親しむ機会がない現代人は、土といのちとの関わりを忘れています。だから子供たちには、まず土いじりをさせ、土に親しむことから始めてほしいのです。私はこれを「土からの食育」と言って多くの人に勧めています。自分でも子供や孫たちを、幼児の頃から畑に連れて行き、農業の手伝いをさせてきました。

山田

なるほど。食材がどのようにして作られるのか、農の現場を子供たちが知ることは、非常に大事ですね。それと、家庭での食育にもっと取り組む必要もあると思います。「弁当の日」の取り組みも、非常にすばらしいことですし、普段から親子が一緒に買い物をし、子供たちに料理や後片付けを手伝わせることも大事な食育だと思います。一生懸命、料理をつくる親の姿を見て、子供たちも食べ物の有難みや大切さを知ることでしょう。

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