健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
竹熊 宜孝氏×山田 英生対談
私の住む岡山県鏡野町は、中国山脈の山ふところのスキー場や、温泉のある小さな町で、元々自然が豊かで小鳥や虫、カエルなどいろんな動植物の宝庫でした。子どもの頃は、友だちと魚を捕り、トンボを追いかけ、山菜を摘むなど自然と戯れながら育ちました。ところが、最近、野鳥の姿がめっきり少なくなってきたのに気付きました。渡り鳥の多くが生息する東南アジアの熱帯林が開発などで次々と伐採されてきたことも一因らしく、1990年から2000年までのわずか10年間で森林全体の11%に当たる約2800万ヘクタールが消失したと、新聞に報じられていました。
私のふるさと、熊本県山鹿市は、温泉と清らかな水、豊かな森や田園風景に囲まれた田舎でした。幼いころの田んぼや畑、山や川は子どもたちにとって生活の場であって、私も田植えや草取りなど、家の手伝いをよくさせられました。ところが、田んぼに農薬が散布され、小川に農薬や合成洗剤などが流れ込み、河川改修によって護岸がコンクリートで固められるようになると、田んぼのあぜ道からミミズやホタルなどが姿を消し、小川からもドジョウや小魚がいなくなったのです。その頃からでしょうか、田んぼや小川で遊ぶ子どもたちの姿がめっきり減ったのは。
農薬や合成洗剤などの流入で水田や河川・河畔の生態系が変わったのでしょうね。まず、 メダカやタガメがいなくなり、それを捕食していたサギなどの鳥も食物連鎖で姿を消したのかもしれません。生き物の中でも特に両生類は、農薬など化学物質の影響を受けやすいといわれています。私の住んでいる地域でも、かつてはツチガエルが、水田などにたくさんいて、田んぼに水が入るころになると、あちこちで一斉に大合唱を繰り返していたものです。まさに初夏の風物詩でした。
昔は、うるさいくらいカエルの鳴き声が聞こえてきましたね。
ところが、最近はそのツチガエルの姿がほとんど見られなくなり、代わってアマガエルをよく見かけるようになりました。アマガエルは、繁殖期以外は水辺をあまり必要とせず、樹の上などに棲む習性があって、開発が進んでも比較的生き残れる種といわれています。恐らく、ツチガエルが何らかの原因で減少してしまったところにアマガエルが異常繁殖したのではないでしょうか。カエルがたくさんの卵を産み、オタマジャクシが水の中を泳ぎまわっている風景が本来の健全な田んぼの姿であり、そこには、いろんな昆虫や生き物が集まってきます。ところが、農薬や除草剤を使えば食物連鎖によって「いのちのつながり」が途切れてしまう。田んぼの生態系を生き物が支えている側面を忘れてはならないと思います。
農薬の害は人間にとっても、深刻な影響を及ぼします。私の弟もかつて農薬のホリドール中毒で倒れ、幸い一命はとりとめましたが、それがきっかけで私は医師を目指すようになりました。だから、農薬の怖さは身をもって知っています。昨年、全米各地で働きバチが一斉に巣箱から消えたというニュースが流れましたね。私もテレビで見て、「大変な時代になったな」とショックを隠せませんでした。そしたら今度は、その現象を解説した「ハチはなぜ大量死したのか」(ローワン・ジェコブセン著・文藝春秋社)というタイトルの本が出版され、私も一気に読みました。
この本は「自然と人間との関わり」という視点から、とても考えさせられましたね。大量のミツバチが突然消えたという現象は、単にミツバチと自然との関係だけでなく、人間の生き方そのものに多くの警告を発しているような気がします。
失踪したミツバチは、北半球に生息する数の4分の1にも達するといわれ、これだけ大量のミツバチが突然、どこへ消えたかわからないという現象は、誠に不可解に思えます。このCCD(「蜂群崩壊症候群」)の原因が、ダニ説に始まって、携帯電話の電磁波、遺伝子組み換え作物、農薬説までいろいろ取りざたされていますが、単一の原因ではなく農薬などとの複合的な原因によるものではないかという点、さらに花粉媒介者としてミツバチの農業に果たす役割の大きさという点について、大いに考えさせられました。こうした現象が頻繁に起きれば、ミツバチの授粉に大きく依存している今の農業システムが壊滅的な打撃を受けることにもなりかねません。
ご承知のようにミツバチは、ハチミツやローヤルゼリー、プロポリスなどの自然の恵みを人間に与えてくれるだけでなく、植物の受粉を助けるポリネーション(花粉媒介)という大切な仕事を持っています。カボチャやキュウリ、メロン、サクランボ、アーモンドだって、その受粉のお陰で実を結んでいます。でも、その受粉する植物が農薬まみれだったらどうなるでしょうか。ミツバチは、巣から飛び立った仲間が巣に戻ってくると、そのカラダを一斉に舐め合う習性があるんです。ですから、農薬に触れて戻ってきたミツバチをほかのミツバチが舐めたら、群れが全部死んでしまいます。それほどミツバチは環境や汚染に敏感な生き物で、私たち人間に、自分の死をもって農薬の怖さを教えてくれるんですね。
賢い生き物ですね。
ですから、私の父は、「ミツバチが死んでしまうような農薬を人間が口にする食べ物にかけていいはずがない」と、農薬や化学肥料を徹底して嫌い、無農薬にこだわりながらコメや野菜を栽培していました。それも「有機農法」とか「自然農法」が今ほど定着していない時代にですよ。しかも農薬だけでなく、化学調味料や人工甘味料、着色料などの食品添加物にも「不自然さ」を感じ、健康のためには自然が一番であることを自ら行動で示していましたね。こうした考えを父はミツバチと暮らす中で身につけたようです。
作家の故有吉佐和子さんも今から約35年前に、農薬と化学肥料に頼った近代農法の恐ろしさを新聞小説「複合汚染」の中で告発していました。
有吉さんの叫びは、自然を、農業を、健康を、精神を、そして何より人間そのものを汚染し、破壊してきた効率優先の経済社会を告発したかったのでしょう。ご存知のように、1962年、アメリカの科学者で、ジャーナリストのレイチェル・カーソンは著書「沈黙の春」の中で化学物質による環境汚染を告発し、世界に衝撃を与えました。私は20世紀後半の化石燃料の大量消費による経済発展が、豊かさと引き換えに自然環境を破壊し、地球を破滅的な危機に追い込んだと思っています。人間がこれまでの生活を何ら反省することなく、これからもジャブジャブ石油を使い、環境を破壊し続けたとしたら、やがて小鳥の鳴かない、ミツバチの羽音さえしない「沈黙の春」が現実に私たちの足元にもやってくるのではないかと大変心配しています。
まったく同感ですね。今回、ミツバチが大量に消えたという現象は、ミツバチが農薬汚染の深刻さを人間に警告しているともとれますね。人間もその警告を謙虚に受け止め、これからの農業はどうあるべきか、食べ物をどうしたらよいか、さらに人間はどう生きるべきかを真剣に考える非常にいいチャンスだと思います。
一つのきっかけになるでしょうね。
以前、北極圏に住むイヌイットの人たちが環境ホルモンの一つ、PCB(ポリ塩化ビフェニル)に汚染されたというテレビ番組を見たことがあります。「なぜ、イヌイットの人たちが」と思うでしょう。食物連鎖なんですね。海に溶け込んだPCBは、プランクトンに取り込まれ、それを小魚が食べる。さらにその小魚をアザラシやシロクマが餌にし、それをまた人間が食べる。しかも何万倍にも濃縮されて、人間の体内に貯えられる。そこで政府は危険なシロクマやアザラシを食糧にすることを禁じ、その代わりに加工食品を食べるように指導したといいます。その結果、伝統的な食生活を失ったイヌイットの間で、糖尿病やがん、心臓病などが多発したと言われていますね。
化学物質が含まれた加工食品ばかり食べれば、そうなるかもしれませんね。これまでイヌイットの人たちは、1年のほとんどを雪と氷に閉ざされた生活の中で、環境にうまく適応し、健康を維持してきたといわれてきました。アザラシを捕獲し、その肉を食糧にする一方、毛皮は衣服などに、脂肪は燃料に利用してきました。また、食生活は、脂肪の摂取量が多い割には、野菜をあまり摂らないのに心筋梗塞や生活習慣病が意外と少ない点が注目されていました。アザラシの血を飲んでビタミンを補給していることが影響していると指摘する人もいます。しかも、アザラシやシロクマなど海獣の肉には、サカナと同じように不飽和脂肪酸が多量に含まれており、これがコレステロールを抑え、血管を詰まらせないために心臓病による死亡が少ない、と聞いたこともあります。
やはり、食生活が変わると、食が原因の病気が増えたり、寿命が短くなるなどの影響がみられるのは間違いないと思いますね。特に、化学物質は、この地球上にどれくらい氾濫しているかわかりません。食べ物だけでなく、汚染された空気や、農薬、合成洗剤が流れ込んだ水にも含まれていますから。
以前、環境ホルモンの恐ろしさを訴えたシーア・コルボーンの著書「奪われし未来」を読んで、戦慄を覚えた記憶があります。私たち消費者がより便利な暮らしを求め、企業もそれに応えようと、競って化学物質を開発してきましたが、それがアレルギー疾患の原因の一つともいわれています。しかし、花粉症やアトピー性皮膚炎、化学物質過敏症などが、こうも増え続けている点を考えれば、人間を豊かにしてくれるはずの化学物質が、逆に人間を蝕んでいるように私には思えてなりません。