山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

竹熊 宜孝氏×山田 英生対談

食はいのち

病気にならぬ養生

食はいのち
山田

先生は医・食・農の視点からいのちの大切さを一貫して訴え、養生や検診という予防医学の重要性を説いてこられました。東洋医学では未病は養生で治す、とありますが、先生のお考えになる「養生」とは何でしょうか。

竹熊

自ら病を見つけ、手当てしながら癒し、生命を養うことなんです。ところが、医者は、診断して治療するのが自分たちの仕事と思っているし、養生を患者さんには勧めようとはしません。大学でも教えてはくれないですね。現代医学に診断学や治療学はあっても食学や養生学という分野はないんです。

山田

確かにこれまでは、病気になってから治すのが医学と思われていましたね。

竹熊

しかし、医療の理想論からいえば、病気にならないのが一番です。火事だって「火の用心、カチカチ」と言いながら集落を回る「防火対策」があったでしょう。消火栓や煙探知機を設置したら、その分、火災が減っています。私も生命を養う視点から食養生を中心とした医療活動を田舎の診療所で30年近くやってきました。

山田

先生は、大学病院で主に血液学について研究され、対症療法中心の現代医学から食養生を中心とした地域医療に飛び込まれました。なぜですか…。

食乱れて不健康

竹熊

実は、私も若いころ、戦中、戦後の食糧難の反動から「腹いっぱい、食べるのが体づくり」と思い込んで暴飲暴食を繰り返したのです。甘いものは食べ放題、主食は白米、肉もよく食べ、加工食品づくめでした。こうした生活がたたってか肝臓病、糖尿病、肥満、高脂血症、アレルギー疾患…と、食のたたりと思えるような病気を次々併発したのです。家族も、両親をはじめ私の子どもたちも肥満やリウマチ熱など病気ばかりしていました。そこで、絶食療法の第一人者である大阪府八尾市の開業医、甲田光雄先生の門をたたき、断食に挑戦したのです。動物には病んだら食を断つ習性があるでしょう?私も食を断つことによって病気を克服し「食こそ病の根源」であることを悟りました。この経験をもとに医から食、そして農への模索を始めたのです。

山田

まず何から始めたのですか。

竹熊

断食を通じ「食はいのち」を実感した私は、さっそく家族とともに食事を玄米菜食に切り替え、季節の野菜と海藻、小魚などを積極的に摂ることを心がけました。もちろん砂糖も断ち、食品添加物や化学調味料も食卓から追放しました。その結果、現代医学でさえ治せなかった慢性肝炎や高脂血症、糖尿病などがまるでウソのように消え、家族もすっかり健康を取り戻したのです。

日本の民族食

山田

確かに「病は口から」とも言いますが、やはり過食、偏食、不規則など食生活の乱れが現代人を不健康にしているのは間違いないですね。特に、気になるのが飽食で、私が子どものころの食生活は、それは質素でしたよ。お正月とかお祭り、誕生日ぐらいしかご馳走は食べられませんでしたが、今は「毎日がお正月」。子どもたちはジュースや清涼飲料水を飲みながらハンバーグやスパゲティなど好きなものを頬張っています。これでは、子どもだってメタボや小児糖尿病にならないほうがおかしいくらいです。

竹熊

私は50年近く、医療現場におりますが、最近メタボとがんが目立って増えてきました。予備軍を含めると中高年男性の2人に1人がメタボになり、約3人に1人ががんでなくなる時代です。やはり、食生活の乱れや車社会に伴う運動不足、体内への化学物質の取り込みなどが影響しているんでしょうね。

山田

食生活では、どのような点に問題があるのでしょうか。

竹熊

これまでの主食がコメからパンに変わりました。パンになると副食も肉などの動物性たんぱく質とかチーズ、バターなどの乳製品を摂るようになりますね。日本の民族食ともいえるご飯、味噌汁、漬物、魚介類といった和食が戦後10数年の間に欧米食に変わり、そのツケが生活習慣病などに回ってきたといえるでしょう。それと、食べすぎですね。昔から「腹八分に医者要らず」とか「腹八分目に病なし」というでしょう。現代はまさに飽食の時代、お金を出せば食べたいものが手に入るし、いのちの糧である食べ物の多くを外国に依存しています。

「食わぬ」も養生

山田

確かに、世界のマグロやエビの多くを輸入し、「キャビアだ」「フォアグラだ」と世界の高級食材かき集めては、毎日がお正月かクリスマスのような飽食を日本人は繰り返しています。その結果、食べきれないと、捨てている。農林水産省によると、家庭や食品業界から捨てられた食品廃棄物は年間、1,900万トンにのぼり、そのうち500万トンから900万トンがまだ食べられる状態と言われています。これを食糧不足にあえぐ地球上の8億5千万人の人たちに回せば、途上国の飢餓問題もかなり解決できるのではないでしょうか。

竹熊

その通りです。食べ過ぎている部分を減らし、必要最小限のものだけを食べるということを人間の生き方として教えることも大事です。飽食時代に生きる今の若い世代は、食べ物の大切さを知りません。だから、食べ物の有難さといのちの大切さを意識するためにも、食を断ち、身をもって飢えを知ることも必要なんです。そのために、飽食に明け暮れる年末年始の3日間、「食わぬ養生会」を開き、これまで33年間続けてまいりました。食の大切さを知り、いのちを意識する。「食わぬ」も養生の一つなんです。

食はいのち、薬

山田

食べ物の有難みを知ることは、とても大事なことですね。だから、食べ残しを出さないためにも、「安いから」と言って食材を大量に買い込まない。買ってきたものは、きっちり使いきり、冷蔵庫で腐らせないようにする。買ってきた魚や野菜はゆでたり、刻んだり、下ごしらえをして袋に入れ冷凍庫で保存する。こうした生活の知恵を働かせるとともに、外食の際にも食べきれない量は注文しないという配慮も欲しいものですね。

竹熊

いい考えですね。やはり、食はいのちであり、薬でもありますから。

山田

「医は食なり」という医食同源の考え方は、中国では3000年以上も前から「食養生」として伝えられてきました。東洋医学では食べ物でまず病気を予防し、さらに治療にも役立てていくという考えですね。食養生で大切なのは何ですか。

竹熊

「快食快便病なし」といいますが、特に大事なのが「快便」ですね。その点は人間も動物も同じです。私は馬を飼っていますが、朝一番に馬小屋に行って糞を見る。ポロポロ落ちているときはいいけど、ベチャァっとしているときは、「食物繊維が足りないなぁ」とピーンとくる。藁を食べていないんです。人間だって朝、ちゃんと出ていれば心配ないですよ。出すものを出したら、おいしく食事をとりましょう。

砂糖もほどほどに

山田

どんな食べ物が健康にいいんですか。

竹熊

主食はコメにし、できるだけ胚芽を残す。それに山田養蜂場さんの社員食堂でされているように麦や粟などの雑穀を混ぜると、なおいいですよ。白米はビタミンやミネラルがないですから、薦められません。野菜はできるだけ豊富に、季節のものを。魚は骨まで愛して食べられる小魚が理想的です。肉だってある程度は必要ですから、食べても構いません。「過ぎたるは及ばざるが如し」というでしょう。要は何ごとも食べ過ぎないことです。それと砂糖の摂り過ぎには十分注意しましょう。将来のある子どもさんは特にね。虫歯、肥満だけでなく、摂り過ぎによっては、行動や精神面に悪影響を及ぼす恐れだってあります。高齢者の方は構いませんよ、恐らく入れ歯でしょうから、虫歯にはなりません。私の娘もかつては大の砂糖好きで困りました。勤務先の沖縄に連れて行ったため、アイスクリームやチョコレート、ケーキなどを朝から食べていました。

山田

その沖縄は、元々、日本でも有数の長寿県として知られていますよね。かつては男女とも平均寿命は日本一で、今も女性は第1位を保っています。沖縄が本土復帰した翌年の1973年、父が宮古島に養蜂場を作った関係で、よく一緒に行きました。タンパク質やミネラルたっぷりの「島豆腐」と呼ばれる豆腐やゴーヤチャンプルーなどの沖縄料理をよく食べました。

竹熊

私も沖縄中部病院の指導医として1年半、滞在しましたが、ご夫婦とも100歳以上という人もいましたね。ゴーヤ、冬瓜、イモ、ヘチマなど島の人たちは、食べたいものは全部自分たちで作って食べていました。特に冬瓜は利尿剤としても効果があり、これを食べれば血圧の薬を飲んでいるようなもの。周囲を海に囲まれているため、サカナも自分たちで釣り、コンブなどの海藻も好んで食べていました。コラーゲンたっぷりの豚肉も骨まで食べていましたね。

山田

その豚肉も、ゆでこぼして食べるから塩分も脂も抜ける。沖縄は、塩分の摂取量が極めて少なく、しかも野菜たっぷりの食文化ですから、高血圧や高脂血症も少なく、動脈硬化になりにくいと聞いたことがあります。長生きができるはずですよね。

竹熊

ところが、アメリカが駐屯するようになってから、肉や缶詰、ファーストフードなどが入ってきた。それに飛びついたのが若い男性たち。しかも、車の生活で運動不足から肥満になり、生活習慣病も増えて、男性は今、全国第26位に転落しました(厚生労働省・都道府県別生命表)。食文化が変わると寿命が短くなる。沖縄は典型的なケースです。

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