健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
尚 弘子氏×山田 英生対談
アバサー(ハリセンボン)
ふぐの仲間。沖縄では大きいものは汁物(アバサー汁)に、小さいものは唐揚げにして食べる。
沖縄の食文化の特徴を語る時、誰でもまず考えるのが豚肉料理といってもよいでしょう。でも沖縄の人たちは、豚だけでなく実にいろんなものを食べています。その多様性が沖縄の食文化の特徴の一つといってもよいのではないでしょうか。食べ物によって病気を防ぎ、食べ物によって病気を治すという医食同源の考え方が、沖縄には今でも根強く残っているんですね。沖縄の気候風土に培われた野菜や野草、薬草が普段の食生活の中に当たり前のように溶け込んでいる点からいっても、そう感じました。
私も一坪菜園のような自宅の庭にヨモギやニガナなどをつくっています。「今日の夕食は、何にしようか」と迷うときには、ちょうど食べごろになった野菜を採ってきて手軽に料理に使っています。沖縄でも特に北部に行くと、今でもお年寄りたちが畑や庭にゴーヤや島ニンジン、ヘチマなどの緑黄色野菜をいっぱい植えて、普段からたくさん食べています。太陽の強い光を浴びて育っているためか、沖縄の野菜は、緑が濃く、筋も太い。見るからにたくましく、栄養たっぷりの感じがします。
「太陽と大地の恵み」という表現がピッタリですね。沖縄は、野草・薬草の宝庫ともいわれています。熱帯の北限、温帯の南限に位置し、その両方の植物が育つ環境にあり、温暖な気候から1年中食べることもできるのですね。しかも、薬効のある種類が多い。中国・漢方の影響もあり、まさに、野草・薬草は、「ぬちぐすい」(命の薬)といってもよいでしょう。
沖縄の高齢者は、緑黄色野菜をたくさん食べるのが特徴なのです。おそらく全国平均の 1.5倍は食べているでしょう。結局、野菜をたくさん食べる沖縄の食習慣が、動脈硬化を防ぐHDLコレステロール(善玉コレステロール)値を高くし、生活習慣病を少なくしているのでしょう。かつての沖縄は、脳梗塞や心筋梗塞などによる死亡率が全国一低い、と言われたものでした。
緑黄色野菜の効果は、大きいですね。
ご承知のように、コレステロールには、HDL(善玉)とLDL(悪玉)などがあり、善玉は、血液中をさっさと移動して処理されるのに対し、悪玉は、長い時間、血液の中でもたもたし、動脈壁や筋肉などにたまっては、動脈硬化などの原因となることがわかっています。沖縄の緑黄色野菜には、クロロフィルやβ−カロテン、ビタミンC、食物繊維などがたくさん含まれ、特に食物繊維には、コレステロールを体外へ排出する働きがあるのです。一方、β−カロテン、ビタミンCなどにも、生活習慣病の原因となる活性酸素を抑える抗酸化作用があり、悪玉コレステロールを減らし、善玉を増やすと言われています
だから、緑黄色野菜を多食する習慣がある沖縄では、脳血管疾患や虚血性心疾患の人が少ないのですね。以前、父が沖縄に養蜂場を持っていた頃、沖縄から帰るたびに駐留米軍によって沖縄に定着した「スパム」という缶詰のポークランチョンミートをよく買ってきてくれたことがありました。トーストの朝食に、おかずとしてよく食べましたが、とてもおいしかったのを覚えています。この缶詰も今では沖縄料理に欠かせない食材となりましたが、それにしても、「あんな脂っぽいものを、あんなに食べている沖縄の人が、なぜ長生きができるのだろうか」と子供心にも不思議に思ったものです。
それは、同時に抗酸化作用の強い緑黄色野菜や野草、薬草、海藻を大量に摂取しているからでしょうね。また、沖縄には、ウコン、アガリクス、アロエ、ギンネム、クミスクチンなど健康に良いといわれる野草、薬草がたくさんあります。こうした植物イコール長寿とは言えませんが、昔から「体によい」と言い伝えられてきた薬用植物は、沖縄の長寿を支えてきた多くの因子の一つであるとは言えるでしょうね。
それと、沖縄ではコンブやモズク、アーサーなどの海藻類も料理には欠かせません。その中でも代表格は、なんと言ってもコンブ。沖縄の人たちは、コンブをまるで野菜のように普通に食べていますよね。沖縄で採れないコンブが、どうして沖縄料理の定番として使われるようになったのでしょうか。
中国との交易が背景にありますね。確かに、コンブは沖縄では採れません。琉球王朝の時代、コンブは産地の北海道から北前船で富山などを経由して大阪へ運ばれ、そこから昆布ロードを経て沖縄に持ち込まれたのです。なぜ沖縄にコンブが運ばれたかといえば、沖縄が中国との交易の中継地だったからです。ここで、品質の良いものだけを選んで貢物として中国へ送りました。ですから、昔から沖縄で食べられていたコンブそのものは、「ナガコンブ」という薄くて出汁のでない、品質のよくないものでした。それが幸いしたんですね。調理しやすいため、豚肉、カマボコ、こんにゃくなどの食材と一緒に炒め煮にするんです。クーブイリチーがその代表的な料理といってもよいでしょう。ソーキ汁、アシティビィティなどにもコンブはよく使われています。
本土では、出汁をとるためにコンブを使いますが、沖縄では元々、コンブそのものを食べるために使われたんですね。沖縄の行事食にとって、コンブは豚肉、豆腐と並んで欠かせない食品の一つといわれていますが、栄養的にはどうなのでしょうか。
この3つの中では、豚肉料理が重要な地位を占めていますが、酸性の豚肉だけでは、栄養的なバランスが偏ってしまうので、アルカリ性のコンブと組み合わせることによってうまくバランスをとっているのです。私が行なった実験でも、コレステロールや骨粗しょう症へのコンブによる改善効果を確認することができました。沖縄は以前、全国1位のコンブ消費量を誇っていましたが、若い世代を中心に食べる人が減り、今は6位ぐらいに落ちました。
沖縄を訪れると、よく島豆腐をいただくのですが、実においしいですね。我々本土の者は、豆腐といえば、ふつう柔らかくて、水の中に入った冷たいものを連想しますが、沖縄の島豆腐は、本土のものと比べ固くて、ずっしり重い。しかも、触ると温かい。そんな豆腐を沖縄の人はどのくらい食べているのでしょうか。
かつて、私が栄養士会に呼びかけて85歳以上の高齢者を対象に調査をしたことがあるんですが、皆さん、豆腐を1週間に3〜4回、食べていましたね。多い人では「毎日」という人もいました。しかも、自分でつくって食べているんです。当時、沖縄の人は、全国平均の2倍は食べていたでしょうね。朝食の味噌汁には、豆腐とワカメが具としてよく入っていますが、豆腐と海藻の組み合わせは非常に合うのです。豆腐は「畑の肉」といわれるくらい、植物性の良質なタンパク質に富み、しかも、大豆に含まれるイソフラボンは、抗ガン作用や更年期障害の改善に効果があるのは、よく知られています。
そんなに豆腐が食べられているとは、想像以上でした。ところで、仕事で疲れた時、なぜか甘いものが欲しくなる時ってありますよね。そんな時、ハチミツも良いのですが、沖縄産の黒砂糖を、ひとかけら口に含むと、疲れが一気に吹き飛んでしまうような気がします。黒砂糖は、ハチミツと同じで、白砂糖に比べ、カルシウム、鉄分、カリウム、マグネシウムなどミネラルが豊富に含まれ、近年、健康にもよいと注目されています。黒砂糖も沖縄の長寿を支えてきた要因の一つと言ってもよいのでしょうか。
確かに、黒砂糖には力をつけ、便通をよくするなど、健康によい食材として昔から沖縄の長寿者の間でも、よく利用されてきました。私も黒糖と健康との関係を解明するために、長年にわたり黒砂糖の研究を続けてきましたが、白ネズミを使った動物実験の結果、黒糖の中に血清コレステロールや中性脂肪を低下させる成分が含まれていることがわかったのです。その成分が何であるかを突き止めるため、さらに実験を続けたところ、その成分はサトウキビの茎皮に付着する脂質成分である「ワックス」であることが判明しました。よく植物の葉などの表面に水を垂らすと水滴となってころころ転がっていくのを見たことがあるでしょう。あれは、葉の表面にある脂質成分が水を弾く現象なんです。この脂質成分が「茎皮ワックス(ケイン・ワックス)」なのです。
茎皮ワックスの成分は、何ですか。
「オクタコサノール」といって、小麦胚芽や野生植物などに微量に含まれているアルコールの一種です。実験で黒砂糖から抽出したこのワックス成分を、糖尿病のネズミに与えたところ血糖値が確実に落ち、善玉コレステロールも明らかに増加しました。これは、糖尿病血管障害の合併症の一つである動脈硬化を防ぐ因子が黒砂糖の中に含まれていることを意味しています。こうした研究も、元はといえば、フィールドスタディで訪れた製糖工場のおじいちゃん、おばあちゃんから「サトウキビの搾り汁を煮詰めた時、上澄み部分にあぶく様の脂が出るでしょう。それを農作業で荒れた手や顔に塗るとツルツルになる」と聞いたことがきっかけでした。
お年寄りの何気ないひとことが、研究の着眼点になったわけですね。それにしても沖縄の、先人たちのこうした知恵には頭が下がりますね。