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尚 弘子氏×山田 英生対談
ゴーヤー(にがうり)
ビタミンを多く含み、健胃効果もある。沖縄では自家菜園や、庭先で育てている家庭もある。
長寿食として知られる沖縄の食には、医食同源の考え方が根付き、体によいものを食べる習慣が受け継がれてきました。やはり健康食として知られる中国・広州市(広東省)の料理も、沖縄料理と共通点が多く、密接なつながりがあると、聞いたことがあります。「食は広州にあり」と言われるように広東料理は、世界で最もおいしい料理の一つ。新鮮な食材の持ち味を生かした繊細な味が特徴で、「四つ足のものは、机以外は何でも食べる」と言われるくらい、豊富な食材を頭から足まで満遍なく食べているそうですね。アジアの食は欧米に比べ、塩味が濃いと言われていますが、地理的にも近く、住民の多くが広東人である香港が世界でも有数の長寿地域であることから考えても、広州の料理が長寿食であることがわかります。沖縄の食も、中国の影響を色濃く受けているのですね。
ご承知のように沖縄は歴史的にも中国との関係が古く、14世紀から中国皇帝の使者がたびたび琉球国を訪れるようになりました。15世紀になると、琉球国王が代わるたびに、冊封使(使節団)の来訪を受け、冊封の儀式が行われました。その儀式の後には、一行をもてなす祝宴が7度も開かれたと伝えられています。使節団は多い時には総勢約500人にものぼり、琉球王府の賓客として半年間も滞在したようです。一行の接待は、王府にとって極めて重要な国家的行事であり、包丁人(料理人)を中国に派遣してまで中国料理を学ばせたと言われています。一方、薩摩の侵攻後は、薩摩の官吏をもてなすために、やはり包丁人を薩摩に送り、日本料理を学ばせていました。このように、中国とヤマト(日本)の影響を受けながら王府を中心に伝わってきたのが「宮廷料理」と呼ばれる、もてなし料理です。
こうした宮廷料理の由来を知ると、いかに冊封使の接待が琉球王朝として重要な行事だったのかが、よくわかりますね。上流階級の宮廷料理に対し、庶民の料理は、どんなものだったのですか。
庶民料理は、豪華な宮廷料理とは対照的に東南アジアとの交易を通して庶民の知恵によって生まれた料理といってもよいでしょう。琉球の男たちは、交易のために黒潮に乗ってシャム(現在のタイ)やインドネシア、ベトナム、フィリピン方面にまで出かけました。大変、過酷な航海を強いられたようですが、彼らが現地で覚えた貧しい人たちの食の知識を琉球に持ち帰り、沖縄独自の食文化と融合させたのが庶民料理なのです。今の沖縄の食文化の源流になっています。例えば、沖縄の代表的な庶民料理の一つにチャンプルーがあります。ゴーヤやキャベツなど季節の野菜と豆腐などを混ぜて炒めた料理ですが、チャンプルーとはインドネシア語で「混ぜる」という意味があるそうです。このあたりにも東南アジアの影響が感じられますね。
「世界との架け橋」をめざした琉球王朝の気概は、料理にも影響しているんですね。
沖縄の料理に「イカの墨汁」というのがあるのをご存知ですか。この料理は、16世紀のキリスト教の大布教時代に、スペインから長崎・生月島を経由し沖縄、フィリピンへと伝わりました。沖縄は祖先崇拝が強かったため、キリスト教は普及しませんでしたが、イカの墨汁だけは庶民料理として根をおろし、今では沖縄を代表する料理の一つとして親しまれています。キリスト教を受け入れたフィリピンにも、イカの墨汁とそっくりな料理があるのは、たいへん興味深い話です。
沖縄の食文化を語るとき、豚肉料理抜きには語れません。「豚に始まり、豚に終わる」と言われるくらい豚肉料理が広く浸透しています。重要な動物性たんぱく源として豚肉をよく食べ、その消費量は全国平均の約2倍とも言われています。しかも、「豚一頭余すところなく食べる」と言われ、心臓、腎臓、胃などの内臓だけでなく、足、面皮、耳、血にいたるまで巧みに料理し、すべてを食する点が沖縄の豚肉文化の特徴といってもよいでしょう。沖縄と豚肉文化、なぜこれほどまでに深い関わりがあるのでしょうか。
やはり、中国の影響が大きかったと思いますね。沖縄の豚は1392年、中国から渡来人によってもたらされました。でも、当時の農民は貧しく、日常の食べ物にも事欠く有り様で、豚はあまり普及しなかったようです。ところが、1605年に中国・福建省からイモ(カライモ)が入ってくると同時に、豚の飼育が急速に広まりました。イモが豚の餌として向いていたのです。これを機に沖縄の豚肉文化は、一気に広がっていきました。特に、沖縄は、ヤマトのように四つ足のものを禁じる仏教的な規制がほとんどないのに加え、中国や東南アジアとの交流を通して肉食に偏見がなかったことも、影響したようです。だから、沖縄にはヤマトにあるような精進料理はありません。
その点も私が大変興味深く感じたところです。精進料理こそが、健康的に思えていたのですが、肉食の習慣のある沖縄の人たちの方が、平均寿命が長いことが不思議でした。
豚肉を巧みに料理した肉食文化は、沖縄の長寿を支えた要因の一つといってもよいと思います。中国の漢方に「以類補類」という考え方があるのをご存知ですか。「類を以って類を補う」という意味なんですね。例えば、足腰が悪い時には豚足を、咳が出たら肺を、泌尿器が悪い時は腎臓、すい臓を煎じて飲め というように、人間の身体の悪い部位にあわせ、豚の同じ部位を煎じて、その汁を飲んで治す、という教えなんです。私もネズミを使って実験しましたが、実際、豚足には上質のコラーゲンが含まれており、「豚足を食べれば足腰が丈夫になる」との昔からの言い伝えも、あながち根拠のない話ではありません。それほど人間と豚との関係は、深いのです。
しかも、沖縄の豚肉料理といえば、茹でこぼして食べる調理法がよく知られています。沖縄は暑いので、塩をたくさん振って肉を保存しますが、それをそのまま食べたら塩辛くてとても食べられない。そこでその肉を、ひたひたの湯で煮ることによって塩を抜いたのですが、塩だけでなく、脂も一緒に抜ける一石二鳥の効果があり、今日の沖縄の食習慣の一つになったと、聞いたことがあります。先人の知恵というか、実に理に適った調理法だと思いますね。
確かに理に適ってはいますが、この茹でこぼして食べる調理法が沖縄の一般家庭に広まったのは、比較的最近で、戦後しばらく経ってからのことでした。
当時の沖縄は、イモが主食という貧しい時代で、豚肉も盆や正月など特別な日にしか食べられなかったと聞いています。そして栄養補給という点でも、良質のタンパク質やビタミンB1に富み、ミネラルも多い豚肉は大変貴重だったのでしょうね。
本当にすばらしいですね。
しかし、飽食時代の今は脂肪の摂り過ぎは、かえって健康によくありません。特に豚肉料理は脂肪分が多く、その摂り過ぎは飽和脂肪酸の高摂取につながりやすく、肥満や高脂血症などの生活習慣病を招きやすいとも言われています。しかしながら、沖縄県は日本で豚肉を最も消費する地域でありながら、高齢者の生活習慣病は少なく、長生きの人が多い。この矛盾を尚先生は、「動物性脂肪の摂取量が多い割に、心臓病が少ない」フランス人の「フレンチパラドックス」になぞらえて、「オキナワンパラドックス」と呼んでおられます。やはり豚肉の茹でこぼしによる調理方法が沖縄の人たちの長寿に影響しているのでしょうか。
もちろん、その影響も当然、あるでしょう。これまでの調理実験でも、茹でこぼしによって、体に悪い影響を与える飽和脂肪酸や脂分が大幅に減少することがわかっています。それに加え、先人たちの知恵による食材の組み合わせやバランスのよい食生活も長寿の要因の一つといってもよいかも知れません。ただし、それは長寿を支えているお年寄りの話であって、今の若い世代には当てはまりません。
今の沖縄の長寿は、医食同源の考えにもとづいて先人から受け継いだ食文化を忠実に守ってきたお年寄りによって支えられていることがよくわかりました。
本土から来られる医学者たちが「沖縄の長寿は豚肉にあり」などとよくおっしゃるんです。それを聞いた、住民の皆さんは、「豚肉は体にいいものなんだ」と本気で思い込み、脂ごと豚肉を食べてしまうのです。やはり専門家が言うと影響力が大きく、「困ったことになった」と思った私は、仲間と一緒に「豚肉を食べる時は、脂を抜かないと、大変なことになる」と新聞に連載で書いて警告したのですが、あまり効果はありませんでしたね。豚の脂は、おいしいから結局、抜かないで食べてしまうのです。沖縄の誇る焼酎の泡盛だって「健康にいい」とか、「二日酔いになりにくい」とか言われていますが、それも「飲みすぎなければ」という条件つきなんです。アルコールには1グラム7キロカロリーのエネルギーがあり、 9キロカロリーの脂と大差がなく、飲みすぎれば当然肝臓にもよくありません。
食文化は、その地域を支える固有の文化と言ってもよいでしょう。沖縄の豚肉文化は、豚から良質のタンパク質を摂りながら、脂分や塩分は落として食べる。これこそ沖縄流の豚肉の上手な食べ方であり、食文化といってもよいと思います。