山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

白澤 卓二氏×山田 英生対談

サイレントキラー 高血圧症の怖さ

高血圧予防は、1に減塩、2に運動。薬に頼るのは最後に。

がんに次いで亡くなる人が多い心臓病と脳卒中。その主な原因の一つとなるのが、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病といってもよいでしょう。特に血圧は、加齢とともに上昇し、「70歳を過ぎると7割以上が高血圧になる」ともいわれています。高血圧は自覚症状なしで進行するケースが多く、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こし、寝たきりや認知症につながることも少なくありません。気づいた時には手遅れにならないよう日ごろから食事や運動、喫煙などには十分注意する必要がありそうです。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が高血圧の怖さやその原因でもある塩分との上手な付き合い方などについて語り合いました。

動脈硬化に要注意

山田

加齢とともに増える病気といえば、認知症、骨粗しょう症、動脈硬化などが代表的な疾患ですよね。特に血管が老化し、弾力性が失われて動脈が硬くなったり、狭くなって血液の流れが滞る動脈硬化は、日本人の死因の2位、3位を占める心臓病や脳卒中を引き起こしやすく、特に注意しなければならない病気の一つといわれています。この動脈硬化と深く関わっているのが、高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病だそうですね。

白澤

そうです。心筋梗塞や脳卒中を引き起こす動脈硬化の危険因子となっているのが、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病です。このような生活習慣病が予防できれば、突然死や深刻な後遺症につながりやすい心筋梗塞や脳卒中にならずに済みます。こうした生活習慣病が怖いのは、これといった自覚症状がなく、自分では気づかないうちに病状が深く静かに進行する点ですね。自覚症状がないまま、静かに進行する病気ほど怖いものはありません。放っておけば心臓病や脳卒中というツケとして回ってきます。食生活や運動不足、喫煙などの生活習慣を改善し、予防に努めてほしいですね。

高齢者に多い高血圧

山田

生活習慣病の中でも、私たちに最も身近な病気といえば高血圧でしょう。職場の健康診断などでも「上がった」「下がった」など、その測定結果に一喜一憂する人をよく見かけます。今や高血圧の人は、日本全国で約4000万人、予備軍の人も含めると、約5500万人に上る、ともいわれています。国民の約2人に1人、まさに国民病といってもよいかも知れませんね。
しかも、年齢を重ねるごとに増え続け、男性なら50歳以上、女性なら60歳以上の半数を超える人が高血圧といわれ、70歳を過ぎると男女とも7割以上の人が高血圧と聞きました。ところが、実際に治療を受けている人は、全体の2分の1程度にすぎないそうですね。

白澤

「サイレントキラー」という言葉があります。サスペンスドラマの題名ではありませんが、日本語に訳せば、「静かなる殺し屋」。目の前に姿を現さず、知らないうちにやってきて殺人者になる。そんな怖い病気が高血圧といってもよいでしょう。高血圧は放置すれば、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす最大の”犯人“です。こうしたサイレントキラーからわが身を守るには、まず血圧を毎日、測ることですね。

山田

私も自宅で定期的に測るようにしていますが、不思議なのは自宅で測った数値と病院で測る数値が違うことです。なぜでしょう。

白澤

確かに自宅で測ったら正常値なのに、病院で測ったら高血圧になることが、時々あります。この現象を「白衣高血圧」と呼んでいます。病院で医師や看護師さんの白衣を見て緊張したり、何か重大な病気が見つかるのではないかと考えたりして血圧が上がるので、こう呼ばれています。逆に家で測ったら高血圧だったのに、病院で測ったら正常だった場合を「仮面高血圧」といいます。血圧は、季節や気温といった自然現象だけでなく、体調や心のありようによっても変化します。特に自律神経と深く関わっており、何らかの理由で緊張したり、ストレスを受けると、自律神経の中の「交感神経」の緊張が高まり、心臓から送り出される血液の量が増えて血圧が上がるのです。正しい数値を測るためには、自宅で落ち着いた状態の中で測ることが大事です。できれば、1日に朝と晩の2回測り、その数値を記録するとよいでしょう。

血圧は毎日測りたい

山田

血圧の変化を把握するためにも、毎日測定し、記録することが大切なわけですね。

白澤

それと、記録すれば血圧を下げる治療の効果もはっきりわかります。血圧は、血液が血管壁を押す圧力のことで、その圧力が強くなり、心臓や血管に慢性的な負担がかかった状態を高血圧といっています。上が140mmHg、下が90mmHgを超えた場合に「高血圧」と診断され、上が130〜139mmHg、下が85〜89mmHgの正常高値の場合は、高血圧の予備軍になりますね。

山田

よく「うちは高血圧の家系だから」などといいますが、実際、高血圧には遺伝的な影響はあるのでしょうか。

白澤

ないとは言えませんね。両親とも高血圧の場合、その子どもに遺伝する割合は約50%、どちらか片方が高血圧の場合は約30%との報告もあります。確かに両親や兄弟などの近親者に高血圧の人がいますと、リスクが高くなりますので、血圧を定期的にチェックすることが必要です。
しかし、たとえ高血圧になりやすい遺伝的体質を持っていたとしても、高血圧を引き起こす要因や生活習慣に気をつければ予防できます。逆に近親者に高血圧の人がいないからといって油断し、暴飲暴食を繰り返していれば、高血圧になってもなんら不思議はありません。血圧は年齢とともに高くなる傾向があるうえに、生活環境が大きく影響します。

山田

高血圧といえば、誰もが原因として思い浮かべるのが塩分の過剰摂取ですね。塩分の摂り過ぎが健康に悪いと分かっていても、それを改め、減塩につなげるのは、結構難しいものです。特に最近は、味付けの濃いコンビニ弁当やインスタント食品などを利用する人も多く、また外食する人も増えました。こうした環境の下では、塩分を減らそうと思っても、なかなか減らせないのが実情ではないでしょうか。

白澤

濃い味付けの料理を食べていると、自然とご飯が進み、食べ過ぎたり、塩分を摂り過ぎてしまうことが少なくありません。かつての日本では、食塩を1日20g摂るのも普通でした。冬の長い東北などでは漬物や塩鮭などの保存食をよく食べていたため、30gの塩分を摂ることも珍しくなかったのです。その後、冷蔵庫などの普及や食生活の欧米化などに伴って、日本人の平均食塩摂取量は、約11gと以前に比べればだいぶ減ってきました。それでも、米国や英国などの先進国に比べ、まだまだ高水準で、高血圧を予防するには十分といえません。

塩分過剰の日本人

山田

2年前、ニューヨーク市では、食品加工会社やハンバーガーショップなどに対し、5年間で25%の塩分をカットするよう指示を出した、とのニュースがありました。日本よりも塩分摂取量が少ない米国でさえも、減塩キャンペーンを行っているのですから、塩分摂り過ぎの日本は、もっと真剣に減塩対策に取り組む必要がありそうですね。健康上、どのくらいの摂取量を目標にしたらよいのですか。

白澤

減塩は高血圧の予防、治療の基本です。国の健康づくり運動である「健康日本21」は、高血圧を予防するためには、成人の1日の食塩摂取量の目標を10g未満としていますが、すでに高血圧症を発症している人は、もっと厳しい塩分制限が必要でしょう。WHO(世界保健機関)は5g未満、日本高血圧学会は6g未満、とするよう推奨しています。

山田

高血圧を防ぐには、何といっても塩分を減らすことが大切だということがよく分かりました。ただ、今まで1日12gの塩分を摂取していた人が、いきなり半分に減らすのは味覚の点からいってどうでしょうか。「減塩食は味気ない」とか「病院食のようで、おいしくない」などの声が聞こえてきそうな気がします。それでなくても、年をとると、塩分に対する舌の感受性が落ち、濃い目の味を好むようになるとも、いわれています。

出汁で美味しく減塩

白澤

おっしゃる通り、いきなり一気に減塩すれば、食事のおいしさも損なわれるでしょう。そうならないためにも、少しずつ減塩し、味覚を薄味に慣らしていくのがよいと思いますね。煮物や汁物は出汁をしっかり取ると旨みが出て、塩分を控えることができます。薄味に慣れると、素材そのものの味が感じられるようになります。
それと、塩分を体外へ排出させやすいカリウム豊富な食材を積極的に摂るのも手ですね。たとえば、イモ類とかホウレンソウなどの野菜、ワカメなどの海藻類、ナッツ類などですね。また、みそ汁も具だくさんにすれば、汁を減らせるのでその分、塩分の摂り過ぎが防げます。

山田

コンブやカツオブシなどから取った出汁を上手に使うのも、おいしく減塩するコツですね。でも、せっかく食材選びに気を使い、調理の工夫をして減塩しても、料理にしょうゆやソース、マヨネーズ、ドレッシングなどをかけ過ぎては、何の意味もありません。調味料を使いすぎないよい方法はありませんか。

白澤

確かに調味料の中にもマヨネーズ、ソース、ドレッシングなど高カロリーで、脂質含有量が多いものや砂糖、みりんなど糖質の多いもの、また、しょうゆのように塩分の多いものもあります。こうした調味料を使い過ぎないためにも、調味料は使う分だけ小皿に分けて出し、食卓にはしょうゆなどの調味料を置かないことですね。その代わりにユズやレモンなどの柑橘類を使ったり、酢やコショウで味にアクセントをつけるのもよいでしょう。しょうゆやミソをどうしても使う場合は、減塩しょうゆや減塩ミソを使うのも一つの方法です。

山田

ちょっとした工夫をするだけで、調味料をあまり使わずに減塩できるわけですね。

白澤

それと、高血圧を防ぐには、ウォーキングや水泳などの有酸素運動も有効です。運動は血圧を下げるだけでなく、塩分を体外へ排出するのを促す作用もあります。高血圧を予防し、治療するには、まず減塩を柱とする食生活や運動に加え、喫煙を控えるなど生活習慣の改善に努め、それでも改善が見られない場合は、薬による治療が必要になりますね。

山田

高血圧の予防、治療は「1に減塩 2に運動 3に薬」が基本になりますね。

白澤 卓二(しらさわたくじ)
1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。
白澤卓二さん
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