山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

白澤 卓二氏×山田 英生対談

がんにならないための生活習慣

タバコに運動不足、ストレス。がんの原因は、毎日の生活の中に。

サクセスフル・エイジング(健やかな老い)を目指す高齢者にとって、なりたくない病気の一つが、がんではないでしょうか。加齢とともに増える厄介なこの病気は、予防することが、最良のがん対策。最近の研究などから、がんの予防法もある程度は、わかってきました。この病気を防ぐには、がんになりやすい食生活を避ける一方、喫煙や肥満、過度のストレスなどの危険因子を取り除くことが大切です。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授、白澤卓二さん(54)と山田英生・山田養蜂場代表(55)が、がんに影響を及ぼす喫煙やストレスなどについて語り合いました。

タバコ大国ニッポン

山田

健康長寿を目指す高齢者にとって、加齢とともに増えるがんは、実に「厄介な病気」ですよね。これまでのいろんな研究や調査などから、がんの原因は、食事が約30%、タバコが約30%、あとは感染症や運動不足、アルコールなどといわれています。何とがんの原因の約7割が食生活や喫煙、お酒など日ごろの生活習慣と深く関わっている、と聞きました。そうであれば、タバコをやめ、バランスのよい食生活や適度なお酒など、きちんとした生活習慣を心掛ければ、がんの多くは防げるのではないでしょうか。

白澤

その通りです。特にタバコが問題ですね。タバコの煙には、4000種類以上の化学物質が含まれ、そのうち約200種類が有害物質です。この中のニトロソ化合物、アセトアルデヒド、ヒ素など約60種類が発がん物質か、発がん促進物質であることがわかっています。タバコを吸う人は、煙や唾液に混じった発がん物質が通過する口やのど、気管支、肺などの呼吸器だけにとどまらず、血流に乗って食道、胃、肝臓、腎臓、子宮頸部、乳房などにも影響を及ぼします。これまで国を挙げて喫煙対策に取り組んできたアメリカなどでは、肺がんが減っているのに対し、十分な対策を講じてこなかった日本では増え続け、肺がんによる死者数は、年間約6万人を超え、がんによる死亡者数のトップに立っています。

山田

肺がんで亡くなられる人は、そんなに多いのですか。

白澤

はい。これほど、タバコの怖さが指摘され、また喫煙場所の規制が強化されているにもかかわらず、2010年に値上げされた後も、タバコを吸う人は、それほど大きく減っていません。日本たばこ産業の2011年の「全国たばこ喫煙者率調査」では、タバコを吸っている成人は21・7%もおり、特に男性は33・7%、と3人に1人が喫煙者です。

山田

他の先進国に比べると、日本人の喫煙率は、まだまだ高いですよね。以前、新聞に気になる記事が載っていました。英国の医学誌「ランセット」が日本の皆保険制度導入50周年を記念する特集号を出したのですが、その中で同誌は戦後の感染症対策や健康診断の普及など日本の保健医療制度を高く評価する一方で、将来に向けた日本の課題として「喫煙率の高さ」を指摘し、禁煙政策の重要性を訴えていました。特に若い男性の喫煙率の高さと女性への広がりを指摘し、「すべての成人が禁煙すれば、日本人の平均寿命は、今より男性で1・8年、女性で0・6年は延びるだろう」と推計していました。「タバコ大国ニッポン」は、海外でもよく知られているのですね。

禁煙が最善の予防策

白澤

そうですよ。特に若い人の喫煙は、健康上、困ったものです。タバコを吸い始めた年齢が、早ければ早いほどがんの発生リスクは高まり、たとえば、「20歳前後から吸い始めた場合は、肺がんによる死亡率は、非喫煙者に比べ5〜30倍高い」との報告もあります。まして、吸う本数が多ければ多いほど、リスクは高まりますね。それと、見過ごせないのが、受動喫煙の被害、つまり吸わない人への健康被害ですね。喫煙者が吸いこむ主流煙よりも、タバコの先端から立ち上る副流煙のほうが2〜50倍も有害物資が多く含まれ、その分肺がんのリスクが高いとされています。

山田

こうした受動喫煙が原因で肺がんや心臓病などで亡くなった人は推計で年間、国内で約6800人にも上り、この中には職場や家庭で煙にさらされる機会が多い女性が約4600人も含まれていた、との報道もありました。タバコを吸って本人ががんになるのならまだしも、他人のタバコの煙を吸わされ、がんになってしまっては、たまったものではありません。

白澤

「タバコは、百害あって一利なし」であることを喫煙者は、ぜひ肝に銘じ、禁煙してほしいですね。また、家族にタバコを吸う人がいたら、ぜひやめてもらいましょう。肺がんはもちろんですが、他のがんもタバコを吸わないことが最善の予防策です。実際、禁煙によって肺がんをはじめ、口腔、食道、咽頭、胃、膀胱、子宮頸がんなどの発生リスクが、喫煙している人に比べ確実に下がっていることも国際がん研究機関(IARC)の報告でも明らかになっています。

肥満も危険因子の1つ

山田

当社では、タバコを吸わない社員を対象に毎月一律2000円の非喫煙手当を支給しています。お客さまの健康づくりをお手伝いしている企業としての責任と社員の健康を考えて始めた試みですが、40代以降の男性を中心に禁煙する人が増えました。でも、タバコをやめれば、ある程度がんは防げる、と分かっていても、世の中にはなかなかやめられない人も多いようです。

白澤

多いですね。その原因の一つがニコチン依存症です。最近は、禁煙外来を設ける医療機関も増えてきました。私も、外来で禁煙に訪れた40歳代以上の患者さんの肺の写真をヘリカルCTスキャン(体の廻りをらせん状に高速で撮影できる最新のX線CT装置)で撮っていますが、画像にはこれまで吸った本数と年数に応じて肺が壊れている様子がはっきり写っています。患者さんにその画像を見せ、「この部分に変化が起きていますよ」などと説明すると、ほとんどの人が怖くなってその日から、タバコをやめますね。

山田

昨年、タバコをめぐって「1箱700円にしろ」とか「欧米並みの価格に値上げしたらどうか」など、タバコ税率の引き上げが話題になりました。この値上げ論も、どちらかと言えば、東日本大震災の復興財源に絡んだ話でしたが、もう少し健康を守る視点から議論を重ねてほしいですね。

白澤

同感です。

山田

ところで、話は変わりますが、「肥満の人はがんになりやすい」という話を聞いたことがありますが、本当ですか。

白澤

はい。肥満が、がんの危険因子の一つであることは、これまでの研究結果から明らかです。特に肥満と関係が深いのは、大腸、腎臓、乳がんで、また、子宮頸がんや胆のう、卵巣、すい臓、甲状腺、前立腺がんなども肥満が関係している可能性があります。こうしたリスクを避けるためにも、日ごろから運動を続け、肥満を解消することが何よりも大切です。私は、肥満の人にはがんになるリスクがあることを伝え、1日20分程度、ウォーキングなどの有酸素運動に週5回くらい取り組むようアドバイスしています。

老化で落ちる免疫力

山田

私たちの身体に細菌やウイルスなどの外敵が侵入してきた時、これに敢然と立ち向かって退治してくれるのが免疫ですよね。どんなに健康な人でも、身体の中では毎日、数千個のがん細胞が発生し、小さながんができているといわれています。それが大きくならずに消えていくのは、身体の中に備わっている免疫力ががんの芽を小さなうちに摘み取ってくれているからでしょう。そう考えると、免疫は、私たちの体を病気から守ってくれる頼もしい味方ともいえますね。でも、こうした免疫力も年齢を重ねていくにしたがって少しずつ衰えてゆき、がん細胞との日々の戦いの中で、負けた時にがんは一気に勢力を拡大していくわけですね。

白澤

そうです。免疫システムは、さまざまな臓器や組織のネットワークからできていて、がん細胞を日々駆逐してくれています。ところが、大きなストレスがあると、その免疫に穴が開いてがん細胞が増殖します。しばらくすると、その穴が閉じて小康状態を保ち、また穴が開いてがんが大きくなる。高齢期のがんは、そんな状態を繰り返しているといってもよいでしょう。今、私が診ている女性の患者さんで、血液のがんである悪性リンパ腫の人がいます。最初のころ、一度だけ化学療法を試みたのですが、86歳の高齢でもあり、体の衰弱が激しかったため、積極的な治療は止めてビタミンCの点滴だけして、しばらく様子を見ていました。経過は順調だったのですが、ある日再発してしまったのです。末梢血を調べてみると、それまで25%を保っていた白血球の中のリンパ球の割合が15%に落ちていました。

山田

ふつう、「白血球の中で、顆粒球の割合が54〜60%、リンパ球が35〜41%の範囲内に保たれていると、自律神経がバランスよく働き、免疫の力で病気を十分、撃退できる」と本で読んだことがあります。でも、心の悩みや人間関係などのストレスが加わると、交感神経が緊張して顆粒球が増え、その分リンパ球が減って、いろいろな病気が現れてくる、と聞いたことがあります。この女性の場合、何かショックを受けるような出来事があったのでしょうか。

怖いストレスの影響

白澤

いろいろ聞いてみると、「自宅の近くにあった大きなスーパーが最近、閉店した」と言うのです。彼女は毎日、この店に行き、買い物をするのが生きがいでした。閉店してからは外出もせず、家に閉じこもってばかりいたようです。スーパーの閉店は、ふつうの人にとっては取るに足らないことかもしれませんが、この女性にとっては重大な出来事で、大きなストレスになったのでしょう。それでリンパ球が一気に下がり、再発したと思われます。

山田

それで先生は、どんな指示を出されたのですか。

白澤

私は、「今、大学病院で続けている化学療法はやめること」「他のスーパーを見つけ、できるだけ外出し、太陽の光を浴びること」「お肉をできるだけ食べること」の3点を指示しました。86歳の高齢では、抗がん剤の投与は全身の衰弱を招くだけです。スーパーに行くという日々の習慣は、生きがいにもなります。日光浴は、骨を強化するビタミンDの摂取にもよいし、低栄養に陥りやすい高齢者は、肉を食べて栄養をつけることが大事だからです。私の指示に従ったその患者さんは、リンパ球が30%に上がりました。

山田

それほど、がんに与えるストレスの影響は大きいのですね。

白澤

大きいですね。がんを予防するうえで、確実に言えることは、食事やタバコ、運動不足など原因の多くを占める生活習慣を改善すれば、それだけがんのリスクを減らすことができるのです。がんのリスクを高めるのも、あるいは免疫の老化を遅らせるのも、日ごろの生活習慣にかかっていることをしっかり認識してほしいですね。

白澤 卓二(しらさわたくじ)
1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。
白澤卓二さん
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