山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

白澤 卓二氏×山田 英生対談

老化とアンチエイジング

人生100年時代。長生きすることが、本当に幸せであるために。

老化にも個人の差

山田

私も50歳を越したせいか最近、テレビに出てくる人の名前がすぐ出てこないことがよくありますね。仕事でもちょっと無理をすると、すぐに疲れが取れないことも増えてきました。これも一種の老化現象なのでしょうか。人は誰でも老化は避けられないと分かっていても、「いつまでも元気で仕事をしていたい」「ずっと若々しく、美しくありたい」と思うのは、自然の感情ではないでしょうか。でも、人によって実際の年齢よりも若く見える人もいれば、老けて見える人もいます。老化にもだいぶ個人差があるように思えますが…。

白澤

かなりありますね。年をとればとるほど、その差は大きくなっていきます。たとえば、小学校や中学校の同窓会に何十年ぶりかに出席したとき、すっかり老け込んで誰だか分からないオジさん、オバさんもいるでしょう。その一方で、顔かたちや雰囲気が昔と変わらず、年齢を感じさせない若々しい人もいると思います。その差は、どこにあるか。いつまでも若々しく元気でいたいと努力するアンチエイジング・ライフの差と言ってもよいと思います。

山田

おっしゃる通り、同窓会での同級生の変わりようには、びっくりさせられることがあります。でも、こうした外見の差は、男女によって違うような気もします。老化に男女の差はあるのですか。

白澤

ありますね。男性か女性かによって老化しやすい機能や身体の器官が異なります。たとえば、動脈硬化につながる血管の老化は、女性に比べ男性のほうが進みやすく、より注意が必要でしょう。反対に骨粗しょう症の原因ともなる骨の老化は、女性ホルモンの影響もあって女性のほうが、男性より進みやすいといえます。

山田

そうなんですね。老化の進み方は男女とも一緒で、身体も全体が一斉に老化していくと思っていました。

寿命は遺伝より環境

白澤

そうではありません。老化が進みやすい部分もあれば、比較的緩やかに進むところもあり、脳や血管、骨、筋肉、免疫など老化の進み方がそれぞれ違います。たとえば、肺活量は早くから衰えやすい機能の一つで、30歳から45歳までの間に平均20%も落ちるといわれているのに対し、人間が生きていくうえで最小限必要なエネルギー量の「基礎代謝」や神経機能などは、一生を通じて緩やかに衰えていきます。このように体の器官、機能によって老化のスピードが違うわけです。しかも、どの部分から老化が始まるかも人によってそれぞれ異なりますね。

山田

それは、老化には個人差があるということですね。老化の進み具合や寿命も、やはり親から引き継いだ遺伝の影響が大きいのでしょうか。

白澤

確かに遺伝の影響はありますが、それほど多くはありません。一卵性双生児と二卵性双生児の寿命を比較した疫学上の研究から、人の寿命は遺伝要因が25%で、残りの75%は環境要因によって決まる、と言われています。つまり、年齢より若く見えるか否か、あるいは90歳、100歳まで長生きできるかどうかは、親からもらった遺伝的な要因よりも環境要因のほうが3倍も大きい、と言えます。だから、たとえ親が早死にしているからといって「自分は長生きできない」と悲観的に考える必要はありません。こうした寿命や老化に影響を与える環境要因の中でも食事、運動、生きがいの3つが特に重要であることが最近の研究でわかってきました。

山田

そうしますと、長生きすることも、いつまでも若々しく元気でいることも、親から譲り受けた遺伝の部分よりも、自分の心がけや努力などで変えられる環境の部分のほうが大きい、ということになりますね。

白澤

そう言えますね。寿命や老化にはその人の生まれながらの体質もありますが、育った環境や生活習慣しだいで大きく変わってきます。重要なのは、「自分はどこの部分から老化が進むか」を知り、それに合わせた対策を取ることです。

山田

最近の健康ブームを反映してか、いろんな所で「アンチエイジング」という言葉を耳にするようになりました。今では女性だけでなく男性の間でも、若さを保つための努力をする人が増えているようです。この言葉はもともと、年をとることによって起こる身体的な機能の衰えをできるだけ抑えることによって、老化が進むのを食い止めることを言いますが、最近ではどちらかというと、顔のシワやタルミを取るといった若返り方法など、主に美容面でよく使われている言葉のようにも思えます。先生が目指されているアンチエイジングとは、どのようなものでしょうか。

体の中から老化予防

白澤

もともと、アンチエイジングは、老化に逆らうという意味の「抗加齢」という考え方が一般的でした。しかし、現在は長寿遺伝子やテロメア(細胞の染色体の末端にある染色体を保護する構造物)などの研究に代表されるように、遺伝子や細胞レベルでの老化研究がかなり進んでいます。そうした流れの中で、加齢や老化のプロセスをコントロールし、老化のスピードを緩やかにしていく「加齢制御医学」というコンセプトが出てきました。私もこうした考え方に基づいて研究を進めています。美容整形などのように、見た目だけを若返らせるのではなく、体の内側から老化プロセスに働きかけて老化をコントロールしようという考え方ですね。本当の意味での健康長寿を目指すには、こうした考えをきちんと理解することがとても大切です。

山田

先ほど、先生は身体の器官や機能によって老化の進み具合が違うと言われましたが、老化にはどのようなタイプがあるのですか。

動脈硬化は血管の老化

白澤

まず、代表的なのが血管の老化ですね。「人は血管とともに老いる」と言われていますが、加齢とともに確実に老化していくのが血管です。血管の老化が極度に進めば、全身の老化を促し、やがて脳卒中や心筋梗塞といった命にかかわる重大な病気を招くこともあります。

山田

いわゆる動脈硬化ですね。

白澤

そうです。動脈硬化は、血管の壁にコレステロールや中性脂肪などがたまり、血管が狭くなって弾力がなくなり、血液がスムーズに流れなくなった状態を言います。だから動脈硬化は、かなり血管の老化が進んだ状態といってもよいでしょう。この病気が怖いのは、自覚症状がないまま静かに進行することです。その原因となるのが、肥満や高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病に加え、運動不足や過度の飲酒、喫煙など乱れた生活習慣が引き金になるケースが多いと言えますね。

山田

動脈硬化を避けるためには、生活習慣の改善が何よりも大事なわけですね。

白澤

それと、血管の老化と並んで怖いのが、脳の老化ですね。「最近、物忘れがひどくなった」「新しいことが、なかなか覚えられない」といった悩みをお持ちの方も多いと思います。実際、脳の機能は20代、30代のころから少しずつ低下していきます。脳の老化は、アルツハイマー病や脳血管性の認知症などにつながる可能性も出てきます。こうした脳の老化を防ぐには、バランスのよい食事や適切な運動、正しい生活習慣を心がけることが何よりも重要です。

山田

なるほど、食生活や運動など生活習慣の大切さがよくわかりました。

老化には6つのタイプ

白澤

それと、もう一つ注意したいのが、骨の老化です。骨の老化は、骨粗しょう症の原因ともなり、転倒骨折すれば寝たきりの原因ともなります。このほか、老化には体力低下の要因ともなる「筋肉の老化」、老年期うつ病につながりやすい「心の老化」、がんや肺炎などの発症とも関係のある「免疫の老化」と、大きく分けて6つのタイプがあります。

山田

老化にもいろいろなタイプがあるのですね。

白澤

そうです。こうした老化についての知識を持つと同時に、自分の老化のタイプを知り老化の原因となっている生活習慣を少しずつ改善していけば、老化を上手にコントロールすることも、十分可能でしょう。大切なのは、どんなことでもよいですからアンチエイジングのための第一歩を早く踏み出すことです。

健やかな老いを目指す

山田

ここ数年、日本人の平均寿命が延び、ものすごいスピードで高齢化が進んでいます。長生きすることは、すばらしいことです。しかも、生きている限り、自分のことは自分ででき、健康で元気に暮らせる健康長寿こそが多くの人の願いでもあるでしょう。文字通り健康長寿は、健康で年齢に相応した幸福を享受することであり、延命により生きながらえる「長命」とは本質的に違うと思います。どうしたら健康長寿を手に入れられるのでしょうか。

白澤

年をとれば、とかく病気を抱えて生きることが多くなります。であれば、寝たきりの期間をできるだけ短くし、日々生き生きと暮らしながら天寿を全うすることが理想的な生き方といってもよいでしょう。100歳になっても自分の身の回りのことができ、元気で自活できる健康長寿こそが私の提唱するアンチエイジング・ライフの医学的ゴールです。

山田

健康長寿のゴールですね。

白澤

そして、このゴールに無事ゴールインできれば、サクセスフル・エイジングを叶えることができたといえるでしょう。そのためにも、アルツハイマー病や寝たきりにつながりやすい骨粗しょう症はもちろんのこと、高齢期のQOLを下げやすい糖尿病などの生活習慣病や加齢とともに増えるがんなどを防ぐことが大事です。

白澤 卓二(しらさわたくじ)
1958年神奈川に生まれる。東京都老人総合研究所研究員等を経て現職。日本抗加齢医学会理事。専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学など。著書に「100歳までボケない101の方法」(文春新書)など多数。
白澤卓二さん
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