山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

劉 影氏×山田 英生対談

注目される中医学

自然治癒力を高めて体癒す

山田

これからの医療は、治療から予防の時代へと移りつつあるといわれています。こうした中、なぜ伝統的な中医学が今、世界的に注目されているのでしょうか。

劉

一つは、今の西洋医学では完治しにくい現代病が増えてきたことが背景にあると思いますね。例えば、糖尿病などの生活習慣病やアレルギー疾患などの現代病は、複雑な因子が絡み合って発病するケースが多く、一度かかると完治するのが難しいんですね。発病してから対処したのでは間に合いません。でも治療を主な目的とした西洋医学では、発病する前の未病に対応しにくいのが現状です。その点、中医学は未病を発見し、治す医療なんです。こうした未病人が今、日本には数千万人いるとも言われています。しかも、最近では、若い人たちの間で未病が目立ち、心の未病も増えているのが、とても気になりますね。

山田

日ごろ多くのお客様に健康食品をお届けしている立場からいえば、特に花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、この20年で5倍、10倍くらい増えたような気がします。

劉

多いですよね。それと、中医学は、私たちが本来持っている自然治癒力を高めることで体を癒す生活医学なんです。日常生活の中で、未然に病気の芽を摘む医療に多くの人たちの関心が高まってきたこともあるでしょうね。

山田

私も中医学には大変、興味を持っています。日本の文化は、日本流に少し加工されていますけど、その多くが中国から渡ってきた中国発の文化。日本人の健康感も中医学の影響によるところが大きいですね。

劉

それと最近は、アンチエイジングを意識して中医学が見直されている点もありますね。私たち人間は、古来から病気をせずに健康で長生きしたいという願望を持っています。特に女性は、いつまでも若々しく美しく生きたいと誰もが思っているでしょう。中医学は、中国4000年の歴史の中で、不老不死をめざして蓄積された知識の集大成。食事をはじめとする日常生活の中で病気になりにくい体をつくることによって永遠の若さと美しさを追い求める不老不死の医学なんです。今、中医学はアメリカ、ドイツ、イタリアなどでも非常に注目されていますよ。

予防医学回帰は国際的な流れ

山田

特に、これまで西洋医学の最先端を突き進んできたアメリカでさえも伝承医学が見直され、驚くべきことに現在、医療費の約6割以上が代替医療や予防医学に投下されている、という話を聞いたことがあります。こうしたアメリカでの予防医学回帰への流れは日本にも伝わってきているようですね。

劉

はい、国際的な流れですね。でも、寂しいことですが、日本では中医学については、風邪のときに「葛根湯(かっこんとう)」、生理痛のときは「加味逍遥散(かみしょうようさん)」の漢方薬を飲むことぐらいしか知られていませんね。これは中医学の断片的な一面にしか過ぎません。

山田

と、いいますと…。

劉

中医学はご存知のように、二重構造になっています。一つは病気になってから治す「治療医学」と、もう一つは病気にならないための予防医学を生活の中に取り入れた「養生医学」です。このうち、中心となっているのが養生医学。そのキーワードとなるのが「未病」なんですね。未病は、前述したように、まだ発病に至っていないが、いつ発病してもおかしくない状態、ひと言で言えば未病者は、「半健康人」といってもいいでしょう。私たちの体は、ある日突然、糖尿病になったり、ガンになったりするわけではありません。発病する前に必ず未病の段階があるんです。だから、この段階で体の変調に気づき、病気の芽を早めに摘み取っておけば大事に至りません。大切なのは、人間が健康で幸せになるための知識や知恵を持ち、実践することなんです。

山田

中医学では、未病や病気はどうして起きると考えていますか。

劉

中医学は、自然の中で長い歴史をかけて生まれた経験医学です。調和を重視し、陰陽論と五行学説が基本的な考えであることは、ご存知の通りです。陰陽論は例えば、「天と地」「男と女」「昼と夜」のように万物にはすべて二つの面があり、互いに変化しながらバランスを取り合って支えている、と考えます。健康も同様で、心と体がバランスを取りながら支えているんですね。一方、五行学説では、人間と自然、宇宙万物はいつも一体となって溶け合い、バランスを保ちながら存在しているという「天人合一(てんじんごういつ)」の考え方に基づいています。また、中医学では人体を構成する成分を気・血・水といいますが、この三つは互いに作用しながら体のバランスを保っています。こうした陰と陽のバランス、人間と自然界のバランス、 気・血・水のバランスが乱れたとき、病気になると考えます。だから、病気や未病を治すことは、なぜバランスが崩れたかを徹底的に調べ、それを元に戻す作業なんです。

山田

それにはまず、自分の体とライフスタイルを見つめなおすことから始めなければならないわけですね。バランスといえば養蜂という農業も同じと思います。例えば、本来の生態系は、複雑な自然が相互に影響しあいながらバランスのとれた状態で成り立っています。かつての日本の伝統的な農業も、自然とのバランスを保ちながら生態系を維持していく持続可能な経済システムでした。ところが欧米型の農業が入ってきて、単一の作物を作り続けたり、農薬を使って害虫を殺し、雑草を抑えるといったような人工的な環境の中で自然の摂理を無視した農法を取り入れたため、自然のバランスが崩れ、生態系に悪影響を与えたのではないでしょうか。

劉

やはり農業の世界も、バランスの上に成り立っているんですね。中医学では、気・血・水のように目に見えないものを大事にします。特にパワーの根源ともいえるのが気。気が不足すれば「気虚」といって、元気がなくなったり、免疫力も落ちて病気を誘発しやすくなります。気の流れが滞れば「気滞」といって、気分が落ち込んだり、イライラします。気は食生活とも関係が深いんですよ。気は中国では「氣」と書きます。「气」の中に「米」。米はご飯のこと。ご飯を食べて元気になり、やる気が出て「がんばろう」というのが気なんです。人間の生命エネルギーでもあり、病気、疲労、心の問題などすべて気が原因であると私は思っています。だから病気を予防するには、まず気を充実させることが先決なんですね。

山田

気・血・水というのは、西洋医学ではリンパとか血流とか神経などを総称したものを指すと私は思っています。確かに西洋医学は、感染症の予防や脳死、臓器移植、ゲノムの解析などにおいて飛躍的な進歩を成し遂げ、医療の発展に大きく貢献してきました。しかし、人間の体や健康をトータルで診るという点では、どうでしょう。西洋医学は、現代科学、つまり最先端の技術を駆使してできた科学です。科学は漢字で書くと「科の学問」と書きますよね。これは全体的、体系的につながったものを、一つひとつ切り離して、個々に分類した学問とも読めます。人間の体にしても例えば血流はそれだけで存在しているものではありません。そこには神経とか内分泌系とかが相互に連携しあって健康な体をつくっているわけですよね。その点、中医学は臓器別の医療ではなく、臓器と臓器の間の関係にまで着目し、人間全体をみる医療で、今の時代にも適っているのではないでしょうか。

劉

山田さんの言われることは、まさに中医学の真髄です。私も一時、中医学に限界を感じていたこともあって、西洋医学も勉強しようと日本の大学の医学部に入り直し、39歳で医学博士号をいただきました。確かに、西洋医学はものすごく高度化し、専門的で、私たちの健康と幸せに大きく貢献してきたことは今さらいうまでもありません。しかし、人生80年時代と言われる今も、西洋医学は50歳までの統計的数字やデータしか持ち合わせていないようです。50歳以上の健康、アンチエイジングの分野においてはまだまだ未知のことが多いのです。だから加齢に伴って起きる病気、例えば更年期障害や老化などは、トータルでケアする中医学の方が対応しやすいと思いますね。

山田

同感ですね。特に女性の体は、年齢とともに変化してゆきますよね。中医学の世界は年齢に合わせた生活の提案をしています。こうしたきめ細かい医療でないと、これからの高齢社会に対応するのは難しいのではないでしょうか。ところで、生活のリズムが崩れたり、栄養のバランスが乱れたりすると、体の不調はまずどこにあらわれますか。

体調の不調はまず顔や肌に

劉

「皮膚は内臓の鏡」とも言いますが、体の中の不調は必ずといって顔や肌に出ますね。例えばクヨクヨ思い悩んだり、イライラすれば、ニキビやシミ、シワとなってあらわれます。これは未病のサインなんです。お肌は正直で、すぐ敏感に反応するんですね。だから毎日、鏡を見れば未病のチェックが可能なんです。例えば、額の生え際にシミが出たら冷え性だとか、目の下にシミがあらわれたら貧血気味とか。しかし、日本人には自分の顔を見つめる習慣があまりないですね。特に男性はヘアースタイルを整えるときくらいしか鏡を見ませんね。これでは未病をチェックをすることは難しいと思いますよ。山田さんは、体調がよくないときは、症状はどこに出ますか。

山田

そうですね。私は、頭が痛いとか目がショボショボするとか、何となく体がだるいとかですね。でも健康なのか病気なのかは、病院で診てもらっても、はっきりわかりません。疲れたり、熱っぽくても体に異常がなかったり、逆に病気と診断されても、どこも悪くないような感じがするときってありますよね。だから子どものころから、「今の医学では限界がある」と考えていました。その後、だいぶたってから、病気になる前の段階として未病という状態があり、未病を治して病気を未然に防ぐという中医学の思想に出会い、健康に対する考えも大きく変わりました。劉先生も、体の調子が思わしくない時ってありますか。

劉

それはありますよ、人間ですから。私の場合、疲れやすいとか肩が凝るとか、頭痛がするとか実は、結構多いです。そういうときは、症状を和らげる漢方薬やお茶を飲んだり、薬湯に入ったり、マッサージしたり…。あとは食事や運動でバランスを整えています。でもお蔭様で、この23年間、日本という異文化の中でハードな生活をしながらも、体調を大きく崩すことは一度もありませんでしたね。特に自慢できるのは、これまで一度も風邪を引いたことがないんです。

山田

それは健康ですね。私は 30代は、忙しくて仕事が終わるのは、毎晩きまって深夜12時過ぎ。当時はいくら忙しくても仕事が面白く、体力もあったので別に苦になりませんでした。ところが、40代に入ってからは、さすがに体がもたなくなって、風邪も引きやすくなりましたね。今は、仕事を調整し、できるだけ早く切り上げるようにしています。中医学では患者さんをどのように診断するんですか。

五感を働かせ多くの情報収集

劉
診察の際、自覚症状の内容、既往歴など医師が患者に質問する問診。西洋医学でも用いられるが、中医学ではさらに広範囲にわたる質問を行う。

診察の際、自覚症状の内容、既往歴など医師が患者に質問する問診。西洋医学でも用いられるが、中医学ではさらに広範囲にわたる質問を行う。

中医学では、患者さんに対しては、「望診」といって、顔色とか、つや、表情、目の輝き、口、鼻、さらに体型や歩く姿勢までいろいろ診ます。現代のようにレントゲンやCTなどのなかった時代は、まず診るしか方法がなかったんですね。私の知り合いの著名な医師も、「心臓病の患者さんは望診で80%病名がわかる」といっているくらいです。望診のほかには、耳で聞き、鼻でにおいを嗅ぐ「聞診(ぶんしん)」、患者さんに質問する「問診」、脈など直接患者さんの体に触れる「 切診(せっしん)」もあり、この4つの診断方法を「四診」と呼んでいます。診断の際は、体が発しているサインは見逃さないのが鉄則で、そのためには自分の五感をフルに働かせて患者さんからできるだけ多くの情報を集めます。中医学では患者さんの体質や性格、ライフスタイル、ストレスなどを総合的に診断し症状を見極めるので、一人の診察に最低20分はかけますね。そして、体の悲鳴や危険なサインにしっかり耳を傾け、病気になる前に早く手を打ちます。

山田

3時間待ちの3分診療や検査、検査の現代医療に慣れた私たちには、ちょっと信じられない気がしますね。やはり、医師と患者さんが互いに触れ合いながら「病気」ではなく、「人」を診る全人医療の中医学だからこそできるんですね。患者さんには当然、安心感や医師への信頼感も生まれますよね。

劉

その通りです。私の大学の恩師は、優れた医師、医学者の条件として1に「博愛」、2に「技術」、3に「感性」を挙げています。博愛は大きな心、愛する心。技術は文字通り医師としてのテクニック、そして感性は自然や動物などとの触れ合いを通じて生ずる感受性とも言えますね。私たちは、自然の中で生きています。その自然というのは、一つの輪。家庭であり、会社であり、社会なんですね。夫婦も家族も恋人同士もお互いに理解しあい、調和のとれた関係を築くことで幸せになれるのではないでしょうか。

山田

本当にそう思いますね。特に、一番目に、博愛を挙げておられるのがすばらしい。自然界も人間の世界もすべて陰と陽のバランス。自然界でバランスが崩れれば自然現象に異変が起き、人間のバランスが乱れれば健康を害することになりますね。

劉

その陰と陽のバランス、人間と自然界の調和を説く陰陽五行説は、中医学にしかありません。早いうちにこの哲学を身に付ければ、きっと自分らしい健康と幸福を探すことができるのではないでしょうか。私はこの哲学を現代人、特に若い人たちにも伝えていくのが自分の使命と思っています。

(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)

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