山田英生対談録

緑が地球を救う よみがえれ ふるさとの森

宮脇 昭氏×山田 英生対談

植物社会に学ぶ

浜離宮庭園

利潤追求、効率至上主義の経済社会は、様々な矛盾を生み出しています。町なかには本物そっくりの類似品があふれ、戸惑いを感じる消費者も少なくありません。植物社会も例外ではなく、土地本来の森とは、かけ離れた見せかけの植樹、緑化に疑問を抱くのが横浜国立大学名誉教授の宮脇昭氏(78)。「今こそ本物とニセモノを見極めてほしい」と訴えています。一方、消費者の健康づくりに奉仕する山田養蜂場、山田英生氏(49)は、「時にはお客様の望んでいない情報でも、お客様のことを考えて開示するのが企業の責任」と力説し、顧客満足度の充実を目指しています。

【構成 毎日新聞社 編集委員・成井哲郎】

すべての生き物競争通して発展

宮脇

森の中では、高木、亜高木、低木、下草が、さらに土の中ではカビやバクテリアなどいろんな生き物が限られた空間で、いがみあいながらも我慢し、種の能力に応じて精一杯生きています。この「競争」、「我慢」、「共生」こそ生物社会の掟なのです。森の中では、好きな植物同士が好きなところで勝手に生きているわけではありません。厳しい条件下で、お互いに我慢しながら嫌な奴とも共生しています。これが健全な生物社会の姿であり、植物が生き延びるための条件ではないでしょうか。

山田
森の中で植生調査を続ける宮脇さん(中央)。現場での微かな情報から全体像を把握するのが大事だ。

森の中で植生調査を続ける宮脇さん(中央)。 現場での微かな情報から全体像を把握するのが大事だ。

人間社会も、まったく同じと思いますね。「競争」について言えば、同じ種同士、近い種同士が競い合うことによって早く伸びようとします。実際、植物の世界では、間隔をあけて植えるのと、並べて植えるのとでは、並べて植えるほうが早く育つと聞いたことがあります。本当に不思議な現象ですね。人間社会でも、いつも全員が自分の敵では困りますが、互いに競争し合う関係、つまり、よい意味でのライバル関係があった方が成長できるものです。「我慢」は、今は大きく成長できなくても、じっと時を待つという意味ですね。しっかりと力を蓄えた、成長する前の熟成期間と考えてもよいかもしれません。我慢は、人間にとっても組織にとっても、たいへん重要な要素です。そして「共生」は、いろんな人が、それぞれの役割、責任を分け合って共に生きている状態。共生だけに流れ過ぎてしまうのは、よくありませんが、それぞれが各自の役割を分担しながら目標に向かって進むことは、人間の組織にもとても大事なことだと思います。「競争、我慢、共生」という3つの言葉は、人間社会が健全に発展するためのキーワードではないでしょうか。

宮脇

すべての生物は、競争を通してのみ発展しています。だから人間社会も、生物社会を見習って競争を拒否しないでいただきたいですね。好きなものだけを集めるのは、危険だし、いろんな種類が集まる多様性こそが自然界では健全な姿です。だから植樹する場合でも、好きな木だけを植えない。主役の木となるトップとそれを支える3役5役の木を中心にできるだけ多くの種類を「混ぜる、混ぜる、混ぜる」のが鉄則で、しかも、そのトップと3役5役の木の種類を取り違えないことが最も大事なんです。会社だって同じと思いますが・・・・・・。

経営者として知る現場の大切さ

山田
朝、職場に向かうサラリーマンたち。個性的で多様な人材こそ組織が発展する原動力といえる。

朝、職場に向かうサラリーマンたち。個性的で多様な人材こそ組織が発展する原動力といえる。

本当にそう思いますね。同じようなことばかり考えている人、同じような性格の人ばかりを集めると組織は、強くはなりません。いろんな人間がいたほうが、いざという時に、思わぬ威力を発揮したりするものです。例えば多少、ウルサイとか、性格が扱いにくいとか、目の上のたんこぶのような人たちがいた方が組織としては、健全だと思いますね。そして、自らの組織の方針や考え方も、全員が肯定しているよりは、異なった見方や考え方ができる人がいた方が良いのです。全部が全部気の合う人ばかりだと、かえって危険で、組織として長続きはしないでしょう。

宮脇

さすがですね。よく見ておられます。それと、自然は人間の顔ほど違い、何ひとつ同じものはありません。私は、植物の研究をする時は、まず緑の現場に出かけ、自分の体を測定器にしながら、自分の目で見て、手で触れ、においを嗅いで調べてきました。人間社会でもトップはすべて部下に任せず、まず自ら現場に足を運び、現場が発している微かな情報から正しい全体像を把握し、的確な指示を出すべきでしょうね。

山田

まったく同感ですね。私もこの世界に入って以来、現場一筋でやってきました。今、経営者として現場の重要さを身を持って感じています。

宮脇

まさに「現場、現場、現場」です。

山田

話は変わりますが、農作物のうち4分の3の品種が、この100年間で失われ、機械化に適した作物が重点的に生産されるようになりました。単一栽培の拡大によって、遺伝資源の多様性が失われつつあるのですね。農業の商業化と、食生活の変化によって栽培品種が限定されるようになった結果だと思います。昔の農業には知恵があり、そんな無茶はしなかった。例えば、アンデスのジャガイモ栽培では、気象の変化や病害虫に対応するように、同じ畑に何種類もの品種を組み合わせて植えていました。

宮脇

確かに知恵がありました。しかし、生き物は、厳しい環境の中でこそ本性を発揮します。厳しい環境条件に耐えて長持ちするものが本物なんです。

山田

人間には思わぬ可能性というか、秘めた力が備わっていると、つくづく思いますね。ただ、現実には、誰もがそうした能力や潜在力があるとは気づいていないから、その力を引き出そうとしないんです。私事で恐縮ですが、1988年10月、当時社長だった父が倒れ、その2日後には、今度は自宅を全焼するという災難に遭いました。短期間の間に予期せぬ不幸に直面しましたが、私はこの二重の災難を大きな転機ととらえ、死に物狂いで仕事に取り組みました。その結果、思いもよらなかった事業の発展につながったのです。「人は誰しも無限の可能性を持って生まれている」とは、幕末の教育者、吉田松陰の言葉でありますが、私も自分の経験から人は誰でも無限の可能性を持っていることを学びました。

本気になれば98%希望叶う

宮脇

私の経験から言っても、人間本気になれば98%、希望は叶うと思うんですね。もしうまくいかなかったならば、それはその人が手を抜いていたか、油断していたかのどちらかではないでしょうか。

山田

確かに先生のおっしゃるとおり、自然のしわざを人間が行うのは無理ですけど、自分の願いを98%実現するのは、できないことではないと思います。

宮脇
様々な生き物がいがみあいながら我慢し、共生している森の中。いろんな種類が集まる多様性こそ健全な自然界の姿だ。

様々な生き物がいがみあいながら我慢し、共生している森の中。いろんな種類が集まる多様性こそ健全な自然界の姿だ。

もう一つ、生物社会では最高条件と最適条件は、違うということをぜひ、知っておいていただきたいですね。すべての敵に打ち勝ち、すべての欲望が満足できる最高条件というのは、長い地球の生命の歴史で見ると、マンモスや恐竜の絶滅の例を見るまでもなく、むしろ危険な状態といえます。これに対し、生態学的な最適条件というのは、生理的な欲望をすべて満足できない、少し厳しく少し我慢を強要された状態のことを言います。人間社会でも地位、名誉、金、異性の問題などすべてがうまくいっている人は、いつドンデン返しを食うかも知れません。逆に、少し我慢を強いられている人は、あすに向かって大いに希望を持って生きていただきたいと思いますね。

山田

なるほど。最高条件と最適条件は違うんですね。

宮脇

そうです。例えば、これはドイツでの私の経験なんですが、日本人はドイツに行くと、有名ブランドのカミソリを10個も20個も大量に買い込もうとしますから、すぐ在庫がなくなってしまうらしいんですね。しかし、メーカー側は、小売店にすぐカミソリを卸そうとしないから1カ月たっても、そのカミソリは、店頭に並びません。たまたま、そのメーカーを訪れる機会があったので、私は「日本では商品が売れると、工場を24時間稼動してまで大量生産します。こちらではこれだけ売れているのに、なぜ生産制限をしているのですか」と聞きました。すると、担当者は「私たち社員や店もこれで十分、食べていけます。もし生産を増やし、売れ残ったら処置に困るじゃないですか」と逆に言われ、「なるほど」と感心したことがありました。「節度をわきまえる」というか、「ほどほどでいい」というか、日本とドイツの考え方の違いなんですね。人間社会も最高条件と最適条件について真剣に考えなければならない時代がやってきたと思います。

意外と、もろい現代文明の足腰

山田

昨年、アメリカ南部をハリケーンが襲い、産油地帯が洪水被害で油の価格が一気に上がったことがありました。もしもっと大きな自然災害やテロ、戦争が起こって油の価格が、例えば1リットルあたり、200円、300円にまで高騰し、油の供給が完全に止まってしまったら果たして今の文明が将来も維持していけるのか、現代文明の足腰の弱さを痛感しました。人間が最高条件を求めすぎたために、文明の足腰がもろくなってしまったのでしょうね。

宮脇

その通りです。戦後、会社も役所も、ちょっと頭が出たらすぐ押さえて横並び、縦割りの人事管理をしてきました。経済がどんどん発展している時は、部下に「規格品」を置いておけばトップは居眠りをしていてもうまくいっていたわけです。しかし、バブルがはじけて15年近くたった今も、困難に対応できるエネルギーを持った人材が中央政府にも地方自治体にも、企業にも出てきていません。戦後の規格品づくりの教育や人事管理の影響が暗い影を落としています。緑の管理も人事管理も、伸びてきたものは、伸ばし、頭は切らないでいただきたいですね。

(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)

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