山田英生対談録

緑が地球を救う よみがえれ ふるさとの森

宮脇 昭氏×山田 英生対談

本物を求めて

浜離宮庭園

利潤追求、効率至上主義の経済社会は、様々な矛盾を生み出しています。町なかには本物そっくりの類似品があふれ、戸惑いを感じる消費者も少なくありません。植物社会も例外ではなく、土地本来の森とは、かけ離れた見せかけの植樹、緑化に疑問を抱くのが横浜国立大学名誉教授の宮脇昭氏(78)。「今こそ本物とニセモノを見極めてほしい」と訴えています。一方、消費者の健康づくりに奉仕する山田養蜂場、山田英生氏(49)は、「時にはお客様の望んでいない情報でも、お客様のことを考えて開示するのが企業の責任」と力説し、顧客満足度の充実を目指しています。

【構成 毎日新聞社 編集委員・成井哲郎】

浜離宮庭園こそ「本物の森」

宮脇

かつて日本列島は、その大部分が森に覆われていました。今も国土の約7割近くが、林野であり、他の国と比べると非常に森が多いように思われています。しかし、土地本来の森、いわゆる「本物の森」は、ほとんどなく、あるのは土地本来の素肌、素顔の緑からかけ離れた「ニセモノ」の樹林ばかりです。やはり、文明の代償というか、長い間の人間活動の影響なんですね。本物の森は、どんな厳しい条件にも耐えて長持ちします。植樹後3〜4年が過ぎたら、基本的には管理する必要は、ありません。5年たっても管理が必要なものはニセモノなんです。今、この本物とニセモノを、いかに見分けるかが問われています。動物的な勘と、人間しか持ち合わせない知性と感性を働かせ、どれが本物で、どれがニセモノであるかを現場で見極めてほしいですね。

山田

どんな森が本物なのですか。

宮脇

本物とは、どんな災害にも耐えて長持ちするものです。その土地本来の自然林に近い種の組み合わせを維持している森を、私は「本物の森」と呼んでいます。例えば東京・汐留にある都立浜離宮恩賜庭園。ここには250年以上前に植えられた常緑広葉樹のタブノキ、スダジイなどが関東大震災や先の大戦の空襲にも耐えて今でも、たくましく生き残っています。しかも土地本来の高木であるタブノキを主木にして亜高木のヤブツバキやモチノキ、低木のアオキやヤツデ、下草のベニシダやヤブランなどが見事な多層群落を形成しているのが特徴です。こうした森は、地震や台風、火事などの災害にも強く、防音、防塵や水質保全、大気浄化などの機能も備えた防災環境保全林としての役割を担っています。いわば、人類生存の基盤であるとともに、地域文化の原点でもあり、遺伝子を未来に残してくれる本物の森なんです。

山田

よく先生は、長年にわたる家畜の過放牧で、森が破壊され、下草しか生えない「荒れ野景観」の語源がドイツ語の「パルクランドシャフト」(公園景観)からきている、とおっしゃいますが、近年、日本でも都市の公園やゴルフ場、民家の庭に、きれいに敷き詰められた芝生をよく見かけます。これは、まさに欧米の芝生文化の影響らしいんですね。古来からヨーロッパでは、森林の中に牛や羊を放牧してきました。その結果、草や木は家畜によって食いつぶされ、森林は滅んで短い芝生のような草原が出現してきたんです。欧州、特に中部ヨーロッパやイギリスでは、ミズナラやブナ、シラカンバなどの広葉樹が土地本来の木であったはずなのに、都市に住む人たちは、その芝生のような草原を元々ある自然の風景と錯覚したんですね。そうした風景は、ふるさとの自然の風景とも重なって、懐かしさから自分たちの身近なところにもその風景を築こうとして庭に芝生を植えたのが、そもそもの始まりと聞いたことがあります。

宮脇

しかし、芝生は、多層群落である「ふるさとの森」と比べ、緑の表面積がたったの30分の1しかありません。防災、環境保全、水源かん養などの機能からいっても、ふるさとの森とはまったく比較になりません。

水墨画の影響?マツの力強い姿

山田

マツにしても同じことが言えますね。マツは、強風などにも耐えて力強く立っている姿から忍耐とか強靭さや長寿のシンボルとして日本では古来から多くの人に愛されてきました。その理由の一つとして、平安末期から室町時代にかけて中国から伝わった「宋元絵画」と呼ばれる水墨画の影響があると聞いたことがあります。マツがよく描かれた宋元絵画は、日本にも入ってきて芸術や文化に多くの影響を与えたと言われています。遺跡などの調査によると、中国には今から 5000年以上も前に、かなり大きな都市国家が存在していたと言われ、その都市の建築材や薪炭材として使うため、シイやタブノキ、モウコナラなどの広葉樹が次々、伐採されました。その結果、他の植物があまり育たない伐採跡地に、マツだけがどんどん増え、自生していたらしいのです。このようなマツのある風景が周囲に広がってから生まれた人たちは、マツが本来の自然の姿であるかのように勘違いして、マツをよく絵のモチーフとして描いたみたいですね。

宮脇

日本でも、「白砂青松」という言葉があるように海岸にはクロマツの林がもっとも似合うとされてきました。このため、はるか昔から海岸にはマツが生育していたものと思っている人が非常に多いと思います。しかし、実際には全国各地が照葉樹林に覆われていたころ、クロマツは海岸沿いの岩場や砂丘の後背地に広葉樹に支えられて自生していたにすぎません。今のように海岸沿いは、マツばかりではなかったんです。

山田

歴史を振り返ってみると、いかに自然環境が人間の活動によって変化し、本来の姿と異なってしまったか、また、その変化した環境を私たちが本来の姿と思い込んでいるかがわかりますね。

宮脇

おっしゃる通りです。植物の世界だけでなく、人間社会にも結構、ニセモノが多いと思いますね。買い物に行っても、結構、"ニセモノ"の商品が多くて、むしろ本物の商品に違和感さえ覚えるくらいです。人間の五感の中でも、舌だけはまだ健在で、非常に敏感なんです。他は、ごまかせても味覚だけは、ごまかしが効きません。本物は必ずしも口ざわりがいいものではないし、見た目もそんなにいいものでもありません。木だって見た目が、本物よりニセモノの方が格好いいものがたくさんあるでしょう?

山田

確かにありますね。

宮脇

植物の世界でも、本物のように見せかけるケースがよくあります。ある県で国際会議が開かれたときのことなんですが、閉会後に海岸沿いの森林を出席者で視察したことがありました。そこは、風が強い急斜面の樹林で、その中に坂道の歩道が敷かれ、見事な柵が続いていました。遠くから見ると、これがまた立派な木の幹を使った柵に見えるんです。よーく、近づいてみると、その柵は、木の形をしたセメント製の柵だったたんですね。担当の課長は「宮脇先生、本物そっくりでしょう。これでもずいぶん、お金がかかったんですよ」と胸を張っていました。それを聞いていたドイツの学者が「セメントで作った木を本物のように見せかけて、なぜ喜ぶんだ。子どもたちの教育にも、よくない」と怒り出したことがありました。日本では、ニセモノでも格好よく見せれば済むと思っていますが、ドイツでは、ニセモノに非常に敏感なんです。やはり日本とは、考え方というか、理念、哲学が違うのですね。

厳しいドイツのはちみつ純正法

山田

話は変わりますが、私たちは半世紀以上にわたって養蜂業に携わり、ローヤルゼリーやプロポリスなどのミツバチ産品を全国のお客様にお届けしてまいりました。ミツバチがくれた自然からの恵みを損なうことなく、貴重な栄養成分を十分、活用してこそ、お客さまの健康に役立つ本物の製品になると思うんです。だからハチミツにしても、私たちは減圧して加熱したり、花粉の除去、脱色加工するような方法は一切、とっていません。自然の恵みをそっくり残すためには、これがもっともよい方法と信じるからなんです。効率性を重視する日本では、こうした考えを持つ企業は、まだ少数派ですが、ドイツなんかは明らかに違いますね。この国にはヨーロッパで最も厳しい品質基準を持った「はちみつ純正法」があり、当社もこれに準拠し、「自然のものは、自然のままに」、たとえ非効率的であっても昔ながらの製法にこだわっています。

宮脇

やはり自然が一番です。自然界も人間社会も基本的には、ごまかしは通用しないと思います。

山田

生き物も自然も嘘はつきません。だから人間が嘘をついたら、よい授かり物はいただけないような気がします。よく、お客様から「結晶しないハチミツがほしい」という声を聞きます。ハチミツは、結晶すると商品価値が下がるかのように思われているんですね。しかし、ハチミツの結晶は、花粉の粒子を核にブドウ糖が固まって起きる場合が多いんです。まさに結晶するハチミツは、ミネラルの素となる花粉を含んだ「本物のハチミツ」である証拠。その栄養成分をたくさん含んだ花粉を全部ろ過しては、せっかくの自然からの恵みが台無しです。

宮脇

せっかくの栄養成分をあえて取り除くなんて、おかしいですね。

トップと3役の人選こそ大事

山田

日本の食文化は、本物とニセモノが混ざり合い、生活者であるお客さまにはほとんど事実が知らされていません。たとえ、お客様が望まれていないような情報であっても、それが本当にお客さまのためになるのであれば、専門家の立場から、きちんと情報を正確に伝えていくことも必要ではないでしょうか。それが結局、お客様の健康や幸福につながると思うんです。

宮脇

本当に立派な哲学を持っておられますね。感心しました。山田さんは、まさに本物志向、正攻法でやってこられたから今日の発展があると思いますね。私も78 年間生きてきて、思うのは正攻法が一番間違いないということです。森をみてもわかるように、育ちやすく、見栄えのよいニセモノの木を植えても、長続きしません。トップが本物なら子分も本物。ニセアカシアのようなニセモノを植えれば、その下には、セイダカアワダチソウかブタクサしか生えません。会社や役所だって、そうですよ。大事なのは、トップと、それを支える三役五役の登用を間違えないことです。間違えたら、企業の発展はないと思います。

山田

同感ですね。

宮脇

一時、問題となった狂牛病(牛海綿状脳症)の問題にしても、おかしいと思いませんか。科学的にはウシたちが食べたタンパク質や窒素は、そのまま肉となってよい肉ができるかもしれませんが、長い生物の進化の歴史の中で、草を食べる草食動物として現在にいたったウシやウマ、ヒツジに肉骨粉を混ぜて食べさせるのは、神の摂理、自然の掟を越えた一種のごまかしともいえますね。あのようなニセモノを使えば、不幸な結果を招くのは、当然予想されたことでした。

山田

そう思いますね。私たちは、仕事の先には自分たちの家族と同じように大切なお客さまが待っていることを意識しながら仕事を行うよう心がけています。お客さまの心身の健康に貢献するために、私たちの仕事があることを決して忘れてはならないと思います。大切なのは、私たちが開発した商品で「一人の人を幸福に導くことができたか」「子どもたちの生きる力、可能性をどれだけ引き出せたか」ではないかと思います。

(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)

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