健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
宮脇 昭氏×山田 英生対談
私たち人類の生存基盤である地球を破滅の危機から救おうと、世界の多くの人たちが立ち上がっています。その土地に元々、生えていた潜在自然植生の主木を混植、密植する独特の理論で、約30年間で3000万本以上を国内外で植えてきた横浜国立大学名誉教授、宮脇昭氏(78)。「失われた緑は何としても回復を」という強い使命感が活動の支えとなっています。一方、開発途上国への植樹支援など通じ、「ミツバチの棲める自然環境を取り戻したい」と呼びかける山田養蜂場代表、山田英生(48)。地球家族の一員としての人間愛が支援を後押ししています。
【構成 毎日新聞社 編集委員・成井哲郎】
宮脇先生は、これまで国内1280カ所、国外300カ所以上で、たくさんの木を世界の国々の方と一緒に植えてこられました。研究室に閉じこもらず常に現場に出られ、植物生態学者として強い使命感を持ちながら生態系の復活に長年、取り組んで来られました。その実践的な生き方に私は大変共感するとともに深く尊敬申し上げます。
ありがとうございます。人間、同じことを千回もやれば必ず飽きるものなんですけど、なぜか木を植え、森をつくることだけは、何度やっても飽きませんね。そのたびごとに、新しい発見、感動があり、新たな研究課題が見つかるからなんでしょうね。木を植えることは、まさに人間の生物としての本能なんです。山田さんは、中国・内モンゴル自治区フフホト市やネパールのカトマンズに近い山村での植樹支援活動のほか、南アフリカの貧しい子どもたちに本を贈る活動や世界遺産保護活動支援など、国内外でいろいろな社会貢献活動に取り組んでおられます。特に世界の環境問題には強い関心をお持ちになり、積極的に活動されているのは、やはり人間と植物と動物の接点にある養蜂家という視点からなんでしょうか。
中国の砂漠化は黄砂となって日本にも影響する。黄砂にかすむ福岡市=02年11月
そうですね。社会性昆虫のミツバチは、一匹では生きていけません。人間も全く同じだと思うのです。グローバリゼーションの中、私たちは、世界が一つにつながった経済社会の中に住んでいます。木材であろうと鉱物資源であろうと、世界とつながっていない国はありません。世界のいろんな国から助けられて、社会生活が成り立っているわけです。環境問題にしても、中国の砂漠化や大気汚染が日本にも黄砂や酸性雨となって影響することなどを考慮すれば、「自分の国だけよければ」という思い上がった考えは通用しません。「人類共通」「全人類」という視点に立った考え方が必要だと思います。特に養蜂業は、自然環境と密接につながっています。もし、将来、環境が悪化してミツバチが飛び回れないような自然環境になってしまったら、人間は幸せに生きていくことができるでしょうか。私たちは社会の一員として、また地球家族の一人としてこれからも国際的な支援活動を継続していくつもりです。
山田さんの考え方、フィロソフィー(哲学)は、本当に立派だと思いますね。私たちが木を植えているのを見て、「一人の人間が10本、20本の木を植え、 1、2カ所で森をつくったとしても、たいしたことではないじゃないか」と言う人がいます。しかし、これを地球に暮らす64億の人が、同じように自分の足元から幅1メートルでも木を植えたらどうなりますか。人類のいのちと遺伝子資源を守る本物の森ができあがり、地球温暖化の防止にも大いに貢献できると思いますけどね。
先生は、「人間社会も植物社会も同じ法則によって成り立っており、多様な生物が互いに影響し合い、つながりあっていく社会こそ健全な社会」と言われています。私もまったく同感で、このような考え方が、これからの時代の先端を照らしていくものと思いますね。私どもが、中国・内モンゴル自治区で植樹支援を行っているのは、中国の砂漠化や大気汚染が、海を超えて日本にも深刻な影響を与え、隣国として放置できないと感じたからです。かつて「春の風物詩」とされた黄砂も今は、一年中やって来るし、東日本にまで飛んできています。その結果、太陽はかすみ、洗濯物は汚れ、交通渋滞や飛行場閉鎖まで引き起こしています。中国の砂漠化が相当、進んでいる証拠ですね。以前、屋久島の針葉樹が立ち枯れしているのを見まし た。これも中国の工業都市、深の大気汚染による酸性雨の影響と聞きました。黄砂や酸性 雨も、中国の環境問題と密接につながっているんです。また、日中は文化的にも「一衣帯水」の関係にあります。やはり仲よくやっていかなければ、との思いを持っています。
まったく、その通りです。
深刻な環境危機に直面するネパール。地元の人たちと一緒になって木を植える山田養蜂場の女性社員=04年7月
ネパールでは、環境保護、自立支援活動の一環として99年から木を植えてきました。ヒマラヤへの登山を目指し観光客が世界各国からやってきますよね。燃料用の薪にするため大量の森林が伐採され、国中が丸裸になってしまいました。その結果、大規模な土砂災害も起こっています。初めは衣類などを集めて送っていましたが、ただ物やお金を送るだけのボランティアでは、かえって彼らの自立を妨げる恐れもあるため、植樹活動に切り替えました。今は、木材や薪になる木、蜜源になる木、果樹などを植えています。一時的にお金をもらうことは、うれしい半面、現地の人たちの尊厳を傷つけることにもなるし、もらって一時的に豊かな生活ができても、それが続かないと、もっと不幸になる恐れさえあります。だから蜜源の木からハチミツを取ったり、果物で村人の生活が向上するなど経済活動が継続的にできるような支援を目指しています。
私は環境問題でいろいろな企業の方とお会いする機会がありますが、お金さえ出せば、それが地球貢献、社会貢献、だと思っている人が非常に多いですね。しかも、すぐ結果が出る部分には、お金は出すが、目に見えない部分には出したがらない。種もまかずに刈り取ることだけ考えているんですね。その点、開発途上国の将来的な自立など長期的な視野に立って支援されている山田さんには、本当に頭が下がります。すぐに結果は出にくいかもしれませんが、継続的に繰り返していけば必ずビジネスにもつながると思いますね。
謎の空中都市といわれるペルーの世界遺産マチュピチュ。世界遺産の保護支援は人類の相互理解につながる
もう一つ、社会貢献で気になるのは、相手国の文化を考えずに支援するところが日本人にはありますね。例えば、コメを食べている国にパンを送ったり、トウモロコシの粉を主食にしているところに小麦を送ったりするケースです。これでは、せっかく送ったのに、食料としてあまり役に立ちません。やはり支援は、現地の状況や文化などをよく考え、現地の人にとって持続可能な経済システムとなるような仕組みをつくることが非常に重要だと思います。結局、外交問題でも、相手国の文化や実情を知らないから、摩擦が起きるんではないでしょうか。私が世界遺産の保護支援をしているのも、その世界遺産条約の精神である、他の国や民族の歴史と文化を知ることが、国際的な友好や相互理解を促進するという考え方に共鳴するからです。
相手の文化を知ることは、本当に大事だと思いますよ。
それと、「世界遺産条約」の精神である「人類共通の自然・文化の遺産を守る」という考え方は、人類が自然を破壊し続け、世界を破滅に向かわせるのか、それとも自然との調和を通じて平和な国際社会に導くのか、という方向性を決めるうえで、非常に重要なキーワードであると考えています。企業も平和な文化の創造に貢献することが21世紀のテーマであると思いますね。先生は、これまで国内外1500カ所以上で森づくりをされてこられましたが、どのような場合に成功されましたか。
そうですね。森づくりをしようとすると、「金がない」、「人がいない」、「植える場所がない」など、すぐ引き算をする人がいます。例えば、ある企業のトップがこぼしていました。新たに海外で植樹するような新しい提案を常務会にかけると、役員のうち3割が「いいじゃないか、やろう」と賛成し、また3割が「今のままでいい。やる必要はない」という現状維持派。残りの4割は、「やる」とも、「やらない」とも言わない模様眺めの人たち。この人たちがくせ者であって、議論が進み、煮詰まるのを見計らって段々、消極的になり、「今のままでいいじゃないか」という結論に傾き、結局3対7で断念に追い込まれるケースが多い、と言うんですね。トップがどんなに前向きでも、組織の真ん中には提案を通さない「不透水層」というか、抵抗勢力がいて、いいことでも実行しようとしない。特に大企業になればなるほど、その傾向は強い気がします。
そうかもしれませんね。
やはりプラス志向で前向きに、多少の障害があっても、それを乗り越える意欲と決断力と実行力を兼ね備えた舞台監督にめぐり合えば、必ず成功します。組織よりも、やはり人、人、人だと思いますね。その点、山田さんは、困難を乗り越え、トップダウンで実行に移される本物の名プロデューサーだと、思います。
(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)