山田英生対談録

緑が地球を救う よみがえれ ふるさとの森

宮脇 昭氏×山田 英生対談

熱帯林再生に挑む

日本でも増える「にせものの森」

亜硫酸ガスで自然が破壊された栃木県足尾銅山跡地にも緑化が進む

生物の生存に必要な酸素を放出し、地球温暖化の元凶である二酸化炭素を吸収する熱帯林。この貴重な生態系が今、崩壊の危機に瀕しています。毎年平均、日本の国土面積の約半分に近い約17万平方キロメートルが消失しているともいわれ、このまま消失が進めば、地球規模での気候変動など取り返しのつかない事態を招きかねません。その再生に挑んでいるのが、横浜国立大学名誉教授の宮脇昭氏(78)。厳しい現地調査を重ねながらその土地の主木を突き止め、世界3大熱帯林の東南アジア、中南米、アフリカを舞台に、再生実験に次々挑戦しています。一方、自然との共生を企業理念としてうたい、熱帯林の遺伝子資源としての保護の重要性を訴える山田養蜂場代表、山田英生(48)。熱帯林再生へ力強い支援を続けています。

【構成 毎日新聞社 編集委員・成井哲郎】

山田
火入れをした後の原野に作物を栽培する現地の人たち=ベレン市郊外で

火入れをした後の原野に作物を栽培する現地の人たち=ベレン市郊外で

今、東南アジア、中南米、アフリカの熱帯林が牧場やトウモロコシ栽培などのため次々伐採され、焼き畑農業なども加わって大変危機的な状況になっています。その主な原因は、開発途上国の人口の爆発的増加と貧困にあるといわれています。例えば、国家の集団移住政策などもあって土地なし農民や都会のスラム住民などが熱帯林に大量に移り住み、樹木を伐採して焼き畑農業を繰り返しているのが大きな理由と聞いたことがあります。このまま森林の破壊が進めば、開発途上国の熱帯林のほとんどが21世紀中に消失し、回復するまでには大変な時間がかかると、指摘する人もいます。宮脇先生が、熱帯の植生に興味を持たれたのは、どのような理由からですか。

宮脇

一つは、約120年前、植物生態学の基礎を確立したドイツの地理学者、アレキサンダー・フォン・フンボルトや進化論を唱えたイギリスの植物学者、チャールズ・ダーウィンが、今のように交通機関が発達していない時代に遠洋航海で熱帯を踏査したことに、科学者としてのあこがれがありました。もう一つは、生物社会では、植物は最も厳しい条件の北極圏でどれくらい我慢し、生育していけるか、反対に最高条件であるはずの高温多湿の熱帯雨林でどこまで伸びるか、その両極端を知りたくて現地調査をぜひ、試みたかったのです。

薬草の多くが研究の対象外

山田

健康食品を扱う企業としても、熱帯林には、たいへん興味があります。特に、アマゾン一帯は、医薬品や食品に使える可能性のある未知の生物資源がぎっしり詰まっており、最も生物多様性に富んだ熱帯林ともいわれています。例えば、薬草は約5000種類とも、6000種類とも存在するといわれ、その多くが、まだ本格的な医学上の研究対象に入っていません。その中には、風邪を引いても扁桃腺が腫れないとか、飲むと何日間も寝ないで仕事が続けられるとか、神秘的な薬草がいっぱいあると聞いています。熱帯林は、遺伝子資源の宝庫といっても過言ではありませんね。先生は実際に調査には、いつ入られましたか。

宮脇

76年に文部省(現文部科学省)の海外調査費が出ました。3人分の予算のところを、6人を連れてボルネオから入りました。お金も時間もないので町の中には泊まらず、すぐ山の中へ入って調査を開始しました。しかし、ボルネオもタイもマレー半島も、熱帯林のほとんどが破壊され、手付かずの原生林はまったくといってよいほど残っていませんでしたね。

山田

なぜ残っていなかったのですか。

宮脇
火入れをした後の原野に作物を栽培する現地の人たち=ベレン市郊外で

再生実験開始から10年以上がたち、見事に成長した主木のビローラ=ブラジル・パル州ベレン市郊外で

貧しい地元の人たちは、生きていくために超高木だけでなく小径木まで伐採して焼き畑にするんです。焼き畑では微生物の働きなどで地表の有機物が分解されるため、2、3年は陸稲やトウモロコシがよく育つんですが、その後、土壌の養分がなくなるため彼らは次の新しい土地を求め、また火を放って焼いてしまう。昔のように焼き畑も小規模でやっているうちは持続可能な土地利用ができたのですが、今は人口が急増し、食糧を確保するため、林道ができると、すぐ大規模に焼いてしまいます。放棄された焼き畑の跡地には、「アランアラン」という牛も食わないチガヤ類や「カモノハシ」という草が一面に繁茂して、乾期に自然発火で焼けるわけです。そうすると、雨期にバケツをひっくり返したような大水で表土が流され、あとには何も育たない。元の状態に戻るには500年かかるといわれていますが、それではあまりにも長すぎる。せめて40年ぐらいで、例えば胸高(人間の胸の高さ)直径80センチ、高さ40メートルぐらいの森になるように再生したい、と思いました。

山田

当時、熱帯雨林の再生は可能だったのですか。

宮脇

いやいや、そのころは、生物学者を含め、熱帯雨林は一度、破壊されたら再生は不可能、と思われていました。主木であるラワン類は、「花は咲かない、実はならない。実がなったとしても虫に食われて拾えない。拾って植えたとしても育たない。だから熱帯雨林は、伐採すべきではなく、すべて残すべきだ」というのが、私も含め当時の通説でしたね。

ボルネオの主木フタバガキ科

山田

再生するには、どうしたらよいと思われましたか。

宮脇

土地本来の森、潜在自然植生がはっきりわかる自然林を調べ、何が主役の木であるかを確かめようと、さらにジャングルの奥地まで入りました。地面の上は危ないので、地上から2メートルぐらいの木々の間に細い木を渡し、雨よけのため頭上はヤシの葉で覆って空中のねぐらにしたんです。ところが、ヤマヒルが1日 100匹以上、体に吸い付くため、百円ライターで焼いたり、頭から女性用シームレスをスッポリかぶってみましたが、あまり効果がなかったですね。そんな悪条件の中、ボルネオ島のインドネシア側バリクパパンの奥地ソティックからサマリンダ、さらにマレーシア側のサラワク州までの隅々まで調査した結果、東南アジアの熱帯雨林の主木は、フタバガキ科のホペア、ショレア、カプールなど、英語名のラワン類であることを突き止めました。しかも、林道沿いに種が落ちて芽が出ているのを見たとき、「再生は可能」と確信しました。

山田

たいへん厳しい調査でしたね。

宮脇

フタバガキ科の木は、なかなか花を咲かせないんです。それで、ある日、双眼鏡でのぞいていたら、花の咲いている木が見えるんですね。その木に印をつけ、国立マレーシア農科大学の学生をおだてて、木に登らせ、枝を揺すって種を落とし、ポット苗を作りました。91年にマレーシア・ビンツルで植樹祭を行い、当時 50センチの幼苗が今、20メートル近くに成長し、限りなく自然に近い森ができあがっています。

アマゾンでも多層群落の森へ

山田

アマゾンの熱帯雨林も20年前に比べ、5分の1くらいに減ったといわれています。私も行ったことがありますが、今、その多くが伐採されて牧場になり、たくさんの牛が飼われています。そして、ここで作られた安い牛肉がハンバーガー用としてアメリカや世界各地に輸出されていますね。ブラジル政府としては、熱帯雨林のままにしておいても一銭にもならない。それなら、「もうかる牧場にしたほうがいい」という理由で伐採してきたと聞いたことがあります。このように人間の食は、環境を根こそぎ破壊し、取り返しのつかないような状態にしてしまったんですね。

宮脇

「地球の緑の肺」といわれるアマゾンの低地熱帯林は、牧場経営やパン・アメリカン・ハイウェーなどの高速道路の建設、コーヒーやコショウなどの栽培のため、伐採や火入れが繰り返し行われ、森の破壊が予想以上に進んで、後戻りできない状態にまでなっています。

山田

元々、アマゾンは湿潤な気候で湿度が高く、空気中に水があるから植物は、土に根を張らなくても生きていける、と言う人もいます。だから木に寄生する植物とかサル、リス、チョウや鳥が木の中に繁殖しているわけですね。それに比べ、土壌がやせているのには驚きました。高温のため、土壌の中の有機物が、すぐ分解されるために貧弱になるとうかがったことがあります。しかも、雨期には薄い表土が豪雨で流され、露出した熱帯特有の赤土が乾期になると、強い日差しを受けて固まり、植物も生えない不毛の状態になってしまうそうです。牧場にするため、熱帯雨林を伐採した結果が、草も生えない砂漠のような状態にしてしまったわけですね。

宮脇
ゴンドラに乗って熱帯雨林を調べる日本の調査団=マレーシア・サラワク州(ボルネオ島)のランビル国立公園で

ゴンドラに乗って熱帯雨林を調べる日本の調査団=マレーシア・サラワク州(ボルネオ島)のランビル国立公園で

私たちは、1991年12月にアマゾン河口のブラジル・パラ州ベレン市周辺を皮切りに現地調査を行い、潜在自然植生の主木がビローラ、アンジローバ、イペーなどであることを突き止め、ポット苗を作りました。そして、92年5月、リオデジャネイロで行われた地球環境サミット開催の1週間前に地元の小中学生などの協力で92種類、1万本を植えました。しかし、植えてから約10年後、ほとんど風もないのに、生長の早い先駆樹種であるバルサなどの木が次々倒れ、下に育っていた本命の樹種のビローラに覆い被さって、生育が妨げられ、本物の森の再生が遅れました。

山田

初めてうかがいました。

宮脇

はい、事前の植生調査があまり十分でなく、潜在自然植生の主木を完全に把握できなかったことが原因の一つと思われました。しかし、その後は、ビローラなど本命の樹種が順調に育ち、樹高30メートルを超える超高木、その下に高木、亜高木、低木、下草などの多層群落が形成され、土地本来の森がよみがえりつつあります。

山田

やはり、破局に瀕した地球を救うには、1本でも木を多く残し、植えることが必要なんですね。

滞在自然植生
すべての人間活動を停止した場合の、その土地本来の緑のこと。元もとの森は、家畜の過放牧や火入れ、農耕、都市化などによって失われており、今の緑は、人間によって厚化粧を施された姿といえる。化粧を取り除いた本物の素肌、素顔がどんな状態であるか、現場で自然が発する、かすかな情報をもとに読み取ることが大事である。

(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)

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