山田英生対談録

緑が地球を救う よみがえれ ふるさとの森

宮脇 昭氏×山田 英生対談

経済至上主義が招いた環境汚染

スコットランド・グレンジマウス

豊かな暮らしを求める人間の欲望は、とどまることを知りません。怒涛のような巨大な波となって貴重な自然環境さえも飲み込もうとしています。「自分の国さえよければ」といった日本の利己主義は、開発途上国の環境破壊と無縁ではありません。「大災害は開発一辺倒のツケ」と断言する横浜国立大学名誉教授、宮脇昭氏(78)。一方、「他者の犠牲による繁栄は、歪んだ経済至上主義の表れ」と指摘する山田養蜂場代表、山田英生(48)。今、地球的な視点に立った経済と自然との調和が、求められています。

【構成 毎日新聞社 編集委員・成井哲郎】

科学の進歩で貧富の差拡大

宮脇

人類の命の基盤である森が、私たちの周りからどんどん消えようとしています。かつて日本の国土の多くは山地、丘陵で覆われていましたが、豊かな生活を求める人間の欲望は、次々と山を削り、海、川を埋め立て、多くの自然を破壊してきました。特に1960年代から「開発を錦の御旗」に新しい産業立地づくりや都市開発が各地で進められ、鉄やセメント、石油化学製品など死んだ材料(非生物的材料)による画一的な規格品づくりが大規模に行われてきました。その結果、私たちは豊かな暮らしや経済的な繁栄を享受する一方で、健康や命にまで悪影響を及ぼす弊害が現れたわけです。確かに、私たちが生きていくためには、車も電気も使わないわけにはまいりませんが・・・。

山田
科学技術の発達で人類は経済的繁栄は享受したが・・・=スコットランド・グレンジマウスで

科学技術の発達で人類は経済的繁栄は享受したが・・・=スコットランド・グレンジマウスで

そうですね。科学の進歩は、私たちに非常に快適な暮らしをもたらしてくれた半面、核兵器のような地球が一瞬にして滅んでしまう大量殺戮兵器も作り出してしまいました。その科学技術を「いかに人類の発展に生かすか」という目的の部分が、欠落していたような気がしますね。地球の人口62億人のうち、富める国の人は12億人で、50億人が貧しい国の人と言われています。経済社会や自然科学が発達すれば、人間はどんどん幸せになれると言われながらも貧富の差は激しくなるばかりです。私たちの住んでいるこの地球は、工業の発達や輸送手段が飛躍的に進歩した結果、以前に比べだいぶ狭くなりました。今後は、地球的な視点で全体観に立った考え方が非常に重要になってくると思いますね。

宮脇
科学技術の発達で人類は経済的繁栄は享受したが・・・=スコットランド・グレンジマウスで

スマトラ沖大地震による大津波で軒並み、海岸に崩れ落ちたバンガロー群。マングローブ林をもう少し残しておけば、被害はもっと少なかったかもしれない=04年12月、タイ・ピピ島で

おっしゃる通りです。一昨年のスマトラ沖地震による大津波でも、土地本来の木が残されていれば、あれほどの大被害にはならなかったはずです。私たちは、 78年からアンダマン海沿いからタイ湾まで2800ヵ所でマングローブ林の調査を行いました。当時、タイのプーケット島では、水際に樹高20〜30メートルのマングローブ林が生い茂り、内陸地に向かって熱帯雨林が広大な森をつくっていました。その後、急速に観光開発が進み、木々が根こそぎ切り倒され、砂浜とホテルだけの一大リゾート地に変ぼうしてしまったんです。こうした開発一辺倒のやり方が被害をより大きくしたと言っても過言ではありません。あんなに大量に木を伐採せずに、もう少し海岸沿いに土地本来の木を残しておけば、津波が襲っても波の衝撃を弱める木の波砕効果でもっと多くの人々が、逃げ出すこともできたでしょう。

山田

環境よりも開発優先の結果が被害を大きくしたわけですね。

宮脇

はい。私たちが現地調査を続けていた70年代から私も含め新聞や進歩的な学者は、日本の商社に対して熱帯雨林を破壊する元凶として批判的でした。しかし、実際、森の中に入って驚きましたね。彼らは環境のことを考えてなのか、それとも金儲けのための知恵なのか、わかりませんが、大きな木しか伐らないのです。ボルネオでは、胸高直径(人間の胸の高さに当たる木の直径)80センチ以上の大きな木は1ヘクタールあたり、4〜5本、多くても6本ぐらいしかありませんでした。それをていねいに伐って、きちんと搬出すれば、あとに後継樹が控えていますから持続的な利用が可能なんです。しかし、地元の人たちはそうはせずに、ネズミがさらうがごとくすべての木を伐ってしまうから困るんです。それをそっくり買い占める日本などの企業は、もっと問題ですけどね。

木材買い占めの国にも責任

山田

確かによくないですね。企業経営者の立場から見ますと日本は、多くの国にさまざまな影響を与えています。木材の輸入量も、東南アジアからの熱帯雨林の輸入量も日本はトップクラス。熱帯雨林を伐採した跡に植えるアブラヤシにしても、ヤシからとれる洗剤や化粧品が「体にやさしいから」と言って日本が大量に買うから、向こうの国も国家プロジェクトとして次々、熱帯雨林を伐採して開発を進めるんです。日本人は、植物性の洗剤を「環境にやさしい」と、それを買うことが何かよいことをしているかのように思い込んでいるんですね。こうした日本の利己的な文化が熱帯雨林を破壊していることを、まだ多くの日本人は気づいていません。現在のように国境の壁が取り払われ、世界からいろんなものが入ってくる時代に、知らないということは、非常に怖いことだと思いますね。

宮脇

まったく、同感ですね。高いお金を出して植物性の油を買い求め、それが地球上最後に残された、多様性に富んだ熱帯雨林の破壊につながっていることに気づいていない。こうなると「知らない」ということは、罪悪でさえあります。

山田

紙の材料であるケナフにしても、同じですね。科学的な根拠はわかりませんが、ケナフは、「生育が早く、二酸化炭素の吸収力が多い」といわれ、「地球温暖化の防止にも役立つ」と主張する人もいます。しかも「自然にやさしい」という理由で、日本人にたいへん人気があります。日本でよく売れるから日本の企業などが東南アジアの水田にケナフを植えさせ、輸入していると聞いたことがあります。連作障害を起こしやすい植物ともいわれ、広大な栽培面積が必要となるため、自然破壊にもつながりかねない、と指摘する声もあります。エビにしてもコーヒーにしても同じで、しかも、農薬とか抗生物質を大量に投入しているから問題なんです。そこには、「自分の国さえよければ」という思いが見え隠れしているように思えてなりません。特に日本は、資源が乏しく、食糧自給率も40%を割っています。それらの多くは、他の国に依存せざるを得ないのが実状です。結局、日本やアメリカ、ヨーロッパなど先進国の豊かな暮らしは、他の民族やいろんな国の人たちの犠牲の上に築かれた繁栄なんです。これこそ経済社会の発展の末に行き着いた現代文明の歪んだ姿ではないでしょうか。

利益優先の人工造林計画

宮脇
昨年の台風14号で土石流に押しつぶされ、原形をとどめない住宅。荒れた山林が被害を大きくする=鹿児島県垂水市新城で 05年9月

昨年の台風14号で土石流に押しつぶされ、原形をとどめない住宅。 荒れた山林が被害を大きくする=鹿児島県垂水市新城で 05年9月

国内の人工林にしても同じことが言えると思いますね。日本では木材生産のため、古くからスギ、マツ、ヒノキなどの針葉樹を国中に植えてきました。特に第2 次大戦後は、戦災復興の意味もあってそれまでの広葉樹を伐採してスギ、ヒノキなどを全国一斉に植えてきたのです。いわゆる広葉樹退治の拡大造林計画ですけど。こうした計画も現場を見ないで机上で進めるから問題なんです。自然には人の顔のほおのように触ってよいところと、目のように指一本、触れてはいけないところがあるんです。拡大造林計画が行われるまでは、人間の干渉に敏感な尾根筋や急斜面、岩場など弱いところには広葉樹を残してきたわけです。しかし、戦後はそうした場所にもスギ、ヒノキ、カラマツを画一的に植えてきました。こうした土地に合わない木は、植えてから20年間は、下草刈りや枝打ち、間伐などの手入れが必要で、それを何とかこなして「やっと金になる」と思った途端、今度は木材の自由化で安い外材に負け、「スギ1本がダイコン1本」と言われるくらい暴落し、「伐れば赤字、出せば赤字」の状態に陥ったわけです。間伐などの手入れもしない人工林の山は荒れ放題となり、必ず襲う台風や洪水、地震などの自然の揺り戻しにもあっけなく崩壊する。最近の災害は、まさに人災といってもいいと思いますね。

山田

私たち養蜂を営む者にとって大切な広葉樹の里山が、針葉樹に植え替えられるようになってから、ミツバチが生きて行ける自然環境が大きく失われました。これも木材生産という経済優先の国策だった気がします。今、町にも家庭の中にもモノがあふれ、機械が家事の大部分を人間に代わってやってくれる、本当に便利な時代になったと思います。物質的には、確かに豊かになったように見える私たちの生活ですが、果たして昔と比べて本当に幸福になったと言えるでしょうか。そうは思えませんね。かつての農業社会では、家族や地域が共同で働き、大地とともに生きる生活の中で家族はお互いに必要な存在とされ、幸福を実感しながら生きてきました。それが経済社会へと変遷してゆく過程で、農業社会の仕組みが崩れ、心のやすらぎまで失われたような思いがしてなりません。

(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)

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