山田英生対談録

緑が地球を救う よみがえれ ふるさとの森

宮脇 昭氏×山田 英生対談

地球が泣いている

ハリケーン「カトリーナ」に襲われた、米・ミシシッピー州

今、地球が深刻な環境危機に直面しています。科学技術の発達で人類が、かつてない繁栄を謳歌する陰で、多くの緑が地球規模で失われてきました。はるか以前、古代文明も人類が森を破壊し尽くした時に滅びました。このまま自然破壊が進めば、地球は再び過去の歴史と同じ運命を歩むのでしょうか。30年間以上にわたり世界で3千万本以上の木を植えてきた横浜国立大学名誉教授、宮脇昭氏(77)と「自然との共生」を訴え、蜜源の森などの再生に取り組む山田養蜂場代表、山田英生(48)。共に地元岡山県出身の二人が、現代文明に潜む矛盾点から、地球を救うための処方箋、命の問題までを真剣に語り合いました。

【構成 毎日新聞社 編集委員・成井哲郎】

熱帯林伐採しエビの養殖池

山田

最近、岡山県の山間部でも小鳥の姿が目に見えて減ってきたような気が致します。田舎に住んでいる私は、子供の頃にはとてもたくさんの小鳥を自宅の周辺で見かけたものですが、このところまったく見かけなくなりました。環境省のレッドデータブックでは、2005年3月現在、調査対象の鳥類(渡り鳥を含む)約 700種のうち、すでに14種(野生絶滅1種を含む)が絶滅し、さらに90種が絶滅の恐れがあるといわれています。野鳥の多くが生息する東南アジアの熱帯雨林が大規模に破壊されたのも、こうした原因の一つと聞いたことがあります。これらも、日本人の生活スタイルやグルメ志向が、回り回って東南アジアの環境まで変えてしまったらしいですね。

宮脇
広大な熱帯雨林を伐採してつくったアブラヤシのプランテーション造成地=マレーシア・ボルネオでヘリコプターから写す

広大な熱帯雨林を伐採してつくったアブラヤシのプランテーション造成地 =マレーシア・ボルネオでヘリコプターから写す

私たちがすし屋で何気なく食べているエビだって、東南アジアのマングローブ林を食べているようなもんですよ。マングローブ林は、有機物の塊。伐採すると、酸素が入って、ものすごい量のミジンコが発生します。ミジンコはエビの好物ですから、それを求めてエビが大量に群がり、収量も一時的には上がるんです。ところが、2、3年たつと、ミジンコがいなくなるため別の新しいマングローブ林に移って、また同じように伐採して養殖池をつくる。だからマングローブがなくなるんです。なにもエビに限ったことではありません。ゴムやアブラヤシ、コーヒー、コショウなどのプランテーションをつくるために、次々熱帯雨林を伐採するんですね。ヘリコプターから見ると、新しく森林が伐採され火入れされた跡地が無残にも段切り状になっているのが、はっきりわかります。

山田
ハリケーン「カトリーナ」に襲われた、米・ミシシッピー州ではカジノビルが傾き桟橋が破壊された

ハリケーン「カトリーナ」に襲われた、米・ミシシッピー州ではカジノビルが傾き桟橋が破壊された

それと今、最も気になるのが、地球温暖化ですね。今夏、アメリカ南部のニューオリンズを襲った「カトリーナ」に代表されるようにハリケーンや、台風などがこれまでと異なった頻度や規模でひんぱんに来襲し、熱波や大洪水、大干ばつも世界各地で起きています。こうした地球規模の異常気象は、温暖化の影響と言われていますが、大気中にある温室効果ガスの濃度が異常に高まり、地球の気温が上昇した結果ですね。20世紀中に地球の平均気温は0・6 度上がったというデータがあります。このままのペースで温度が上昇したら、今世紀の終わりには、地球はどうなってしまうのでしょうか。やはり、石炭、石油などの化石燃料の大量消費と熱帯雨林の破壊の影響が大きいと思いますね。

宮脇

冗談ではなく、本当に取り返しがつかなくなりますよ。

砂漠化招いた家畜の過放牧

山田

中国からの黄砂にしても、かつては自然現象と考えられ、3月から5月ごろにかけて日本にやってくる「春の風物詩」の一つのように思われていましたよね。それが、今は春だけではなく年がら年中、飛んでくるようになりました。しかも西日本中心から東日本にまで広がっています。こうも頻繁に来るのは、明らかに異常であって、中国での砂漠化がかなり進んでいる証拠です。当然日本の気象にも影響するのでしょうが、こうした変化に現代人は、ますます鈍感になっているような気がしてなりません。

宮脇
干ばつなどでサバンナの草木は枯れ、砂漠化が進むアフリカのサハラ砂漠南部のサヘル地域

干ばつなどでサバンナの草木は枯れ、砂漠化が進むアフリカのサハラ砂漠南部のサヘル地域

中国では、北京市の北西79キロあたりまで砂漠が迫っていると言われています。北京から飛行機で内陸部に向かって20分も乗ると、そこはもう半砂漠化している状態なんです。5年前、万里の長城で森づくりを行った際、北京市長は「このまま砂漠化が進んだら、あと40年で北京から他に遷都しなければならなくなる」と嘆いていました。牛や羊、ヤギなどの過放牧が何百年、何千年も続くと、森が完全に破壊されて草原化し、砂漠化する。現在、地球の砂漠の3分の2は「マンメード」、いわゆる家畜の過放牧や自然開発など人間の活動によって作られた砂漠です。これは十分な現地調査を行うとともに、生態学的な脚本に従えば、回復は可能なんです。

山田

91年のある資料によりますと、世界の陸地の4分の1に当たる36億ヘクタール、世界人口の約6分の1に当たる約9億人が何らかの砂漠化の影響を受けているともいわれていました。しかも、こうした地域の約7割が耕作可能地と言われていますから開発途上国の貧困を解消するためにも、ぜひ砂漠の緑化をしてほしいと思いますね。

宮脇

まったく、その通りです。

自然の変化で深刻さを知る

山田

世界遺産の屋久島に行った時、あまり人が立ち入らない中央部の屋久杉帯に直径が1メートルもあるモミやツガなどの針葉樹が立ち枯れているのを目撃しました。何百年もの樹齢を重ねた木が多いので、てっきり老木になって倒れたのかと思って詳しい人に聞いてみたら、中国広東省の工業都市、深の大気汚染による酸性雨の影響だというんですね。酸性雨は、原因となる物質の発生源から遠く数千キロ離れた地域にも影響を及ぼすといわれています。黄砂にしても酸性雨にしても日本への影響は、中国の環境問題が密接に関係していると思われます。こうした問題は、一国だけにとどまらず国境を越えて押し寄せるものだ、ということを屋久島に行って、痛感しましたね。私たちが身近な自然の変化に気づいた時は、かなり深刻な事態に直面しているといわなければなりません。

宮脇

鋭いご指摘ですね。

山田

この地球上の森林面積にしても年々減少し、今40億ヘクタールの大台を割って39億ヘクタールと推計されています。なんと90年から00年までの10年間に日本の国土面積の2・5倍もの面積が失われたと言われていますね。しかも、アフリカと南米の開発途上国での熱帯雨林の減少が多くを占めていますから余計、気になります。原生林も年々、激減しているのでしょうが、今地球上には、どのくらい残っていますか。

宮脇

厳密にいえば、ほとんど残っていないと言ってもいいですね。原生林といえば昔、ジャングルの王者・ターザンが活躍したアフリカの密林を思い浮かべますが、 76年に我々が初めて東南アジアの現地調査に入った時、タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシアの奥地でも熱帯雨林はすでに破壊され、土地本来の森はほとんどありませんでした。また北方針葉樹林帯のバイカル湖周辺やカナダの奥地でさえも、まったくと言っていいほど見られませんでしたね。これまで私が調査した38カ国では、生態学的な意味での厳密な原生林は、ほとんど残っていませんでした。それは、日本国内でも同じですよ。日本文化の原点といわれる照葉樹林帯でも、私たちの50年間の植生調査の結果によれば、土地本来の森は0・06%しかありませんでした。例えば私が住む神奈川県でも、79年に県教育委員会の依頼を受けて行った調査の結果では、鎮守の森に象徴される「ふるさとの木によるふるさとの森」は、かつて2840カ所あったのが、たった45カ所しか残っていませんでした。全国的にも戦前、鎮守の森は、約15万カ所以上あったといわれてますが、今ではわずかしか残っていないと思いますね。

年々減る一方百花蜜生産量

山田

危機的な状況ですね。養蜂業を営んでいますと、身近な自然の変化に非常に敏感になります。例えば、ハチミツがとれなくなりました。特に、ハチミツの中でもリョウブとかクロガネモチとか、自然の野山に元々、生えている雑木からとれる百花蜜の量が年々減ってきましたね。養蜂家は、自然の恵みを受けながら、自然とともに生きています。もし自然環境が悪化してミツバチが飛び回れないような環境になったとしたら人間は幸せになれないし、生きてもいけないと思います。

宮脇

やはり文明は、両刃の刃ですね。私たちは、かつて集落や町、都市をつくる一方で、すべての木を伐採せず、必ずふるさとの森を残してきました。もう一度原点に立って森とともに共生してきた日本人の英知を新しい町や都市づくりにも積極的に生かしていくべきではないでしょうか。

地球温暖化データ
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第3次報告書(2001年)によると、地球の平均気温は観測機器による観測が始まった1861年以降、上昇しており、20世紀中に約0.6度上昇した。特に1990年代は、最も暖かい10年間だった。地球の平均海面水位も20世紀中に0.1?0.2メートル上昇した。温暖化は、石炭、石油などの化石燃料の燃焼と熱帯雨林の消失などが主な原因といわれる。こうした人間活動の影響で、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの濃度は、産業革命以降、これまでの例にない規模の増加を続けており、1750年以降、31%増加したと報告されている。

(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)

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