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石 弘之氏×山田 英生対談
今年も花粉症が猛威をふるっています。アトピー性皮膚炎やシックハウス症候群、化学物質過敏症など、アレルギーの種類も、どんどん増えています。そのアレルギーには、私たちの生活習慣の変化が密接に影響しているようですが、今回はその背景に迫ってみたいと思います。
実に驚くべきことなのですが、国民の3分の1が花粉症などのアレルギーを発症しているのです。なんと10代の80%は、なんらかのアレルギーを持っています。東京都内の小中学校の調査では、小学生の14.5%、中学生にいたっても11%がぜんそくの症状を持っているといいます。アトピー性皮膚炎にいたっては、10年前の約2倍ですよ。
アレルギーがこれほど増えているということは、それを誘発する別の要因があるということですよね。
その通り。原因のひとつといわれているのが合成化学物質です。日本では日常生活のなかに5万種の合成化学物質が使われているといわれています。朝、起きてから寝るまで、化学物質と無縁な生活はないでしょう。住宅や衣類などにも含まれているし、食べ物にも食品添加物がある。
我々日本人は、年間、どれくらいの食品添加物を口にしているか、想像できますか。
年間、500グラムくらい?
国の調査結果は40年前のものしかないんですが、当時でなんと、1年で4キログラムだったそうです。今はさらに多くなっていることが予想されますね。ある肉の加工食品などは、使い物にならないくず肉に、20〜30種類もの食品添加物を入れてつくるそうです。日本では一般的な小さな容器に入ったコーヒーフレッシュがありますよね。実は、牛乳は一切含まれていないものがほとんどで、植物油と乳化剤からできているといいます。
ヨーロッパでは、ソーセージの中身と政治家の懐だけはのぞいてはいけない、とよく言うそうですよ。
おいしそうに見える色はもちろん、甘みや風味にいたるまで、石油などからできた合成の添加物を組み合わせたりすれば、人工的に似たような物質がカンタンにつくれてしまう。
食品添加物の保存剤のおかげで、劇的に食中毒が減りましたが、一方で、アレルギーの要因になっている可能性が出てきたわけです。
戦前はほとんどなかったアレルギーが、なぜこうも蔓延したのでしょう。
日本人にアレルギーが出始めたのは、1950年ごろからですね。小児ぜんそくです。戦後、紙おむつの普及によって、衛生状態が大幅に改善したのが大きい。昔は、赤痢、コレラといった感染症は、子どもにとっては命取りの病気だったのが、いまは死語になりつつある。清潔な生活によって、日本の乳幼児死亡率は出生千人あたり3人に減り、寿命も世界最長になりました。ただ、感染症のリスクが減る一方で、その副作用としてアレルギーが蔓延した。
確かに、人間の免疫というのは、病原体に暴露されて始めて機能するシステムですよね。無菌の状態にすると、少しの外的な刺激にも、過剰に反応してしまうということですね。
感染症が減るとアレルギーが増えるというメカニズムがあるのですよ。人間の免疫系には、細菌などの外部から侵入した異物と闘うTh1とアレルギーにかかわるTh2という二つの細胞があります。Th1が増えると、Th2が減り、逆にTh1が減ると、Th2が増える。つまり、感染症が減るとTh1の出番が少なくなって、アレルギーを誘発するTh2細胞が増えることになる。人類は進化の過程で、ずっと「バイキン」とは持ちつ持たれつの関係だったのに、清潔な環境やさまざまな抗菌グッズ、抗生物質の出現などで、共存関係が断ち切られた。これがアレルギーの増えた原因と考えられているわけです。
私たち消費者が便利な生活を望み、それに応えようとして企業が競って開発した合成化学物質ですが、99%は生み出されて100年もたっていません。
その合成化学物質に過敏に反応してしまう人たちが急速に増えている。日本だけで70万人とか100万人の患者がいるともいわれています。私自身、4〜5年前まではアレルギーとは、まったく無縁だったのですが、急に手のひらの皮がボロボロむけましてね。大学病院でも、原因がわからない。ところが、近所の皮膚科の診療所へ行ったら、おじいちゃん医師が一目で、「これは革アレルギーじゃ」と言うのですよ。鞄に塗られた染料のせいでした。使うのをやめたら、2週間で驚くほどきれいになりました。アレルギーのリストをみると、何百というアレルギーが並んでいます。それだけ私たちの体の方が、化学物質に感受性を持ってしまったということでしょう。
まるで人間が作り出したものに、人間が逆襲されているようですよね。
米国の科学ジャーナリストが、320の化学物質について、自分の血液や尿の中からどれくらい検出されるかを調べたのですが、半分の165種類が検出されています。殺虫剤などは28種類のうち16種類。プラスチックを柔らかくする可塑剤7種のすべてが体内から検出された。とくに問題なのは、甲状腺異常とか神経系を侵す難燃剤です。シロクマからペンギンまで、ほとんど出てくる。カーテンとか家具とか、コンピューターとか、あらゆるものに使われています。
難燃剤は、物質として非常に安定していますから、余計、蓄積されてしまう。
有毒なDDTも1970年代に世界の多くの国で使用が禁止されましたが、30年以上たった今でも、人間の体内から検出されている。皮下脂肪に、たまっているのですね。
ホッキョクグマの体内からも高濃度のPCBが検出されていますよね。海中の有機物に含まれているPCBやDDTを取り込んだプランクトンから、生態系の上で最高位のホッキョクグマにまで食物連鎖で登り詰める過程で、どんどん濃縮されて高濃度になっていくようですね。
最近、500年前のイヌイットの墓が掘り出されましてね。分析したら、体内の化学物質はゼロでした。ところが現在のイヌイットの体内のPCB濃度は、先進国の人たちの50倍ある。体脂肪に蓄積されていくから、母乳を通して子どもにも蓄積されていく。
恐ろしいのはアレルギーだけでなく様々な人体への影響です。
日本でも米国でも、自閉症児がものごく増えていましてね。その原因として、化学物質の氾濫が疑われているわけです。米国では10年間で20倍ですよ。認定基準が変わったから、という説もありますが、それでは説明しきれないほど増えている。小児の脳腫瘍や胎児の先天性異常も増えているようです。
山田さんの会社の研究所では、自発的に環境ホルモン(内分泌かく乱物質)の分析・研究をしているそうですね。
環境ホルモンは、具体的な有害性が、なかなか立証できませんが、何年かかってもこの有害性は立証したいですね。
こういった調査は、国などの行政機関がやるべきでしょうが、いろんな事情がからみあって、都合の悪いデータが出にくいんです。何万種もの化学物質があるなか、4分の3の合成化学物質の毒性テストの結果が公表されていないといわれていますから。
しかも企業が行う毒性試験は、基本的に急性毒性ですよね。微量であっても長期間、摂取することで害となる慢性毒性についても、試験を行うべきであると私は考えます。
市販後に催奇形性がわかった医薬品もありましたねえ。
その物質そのものには毒性がなくても、複数の物質を別々に摂取すると、相乗的に体内でどんな変化を起こすかわからない。私が思うに、科学というのは科の学問でしょう。「科」とか「種」「属」でくくって、すべてを分離、単離して個々に研究はするが、他との結びつきとか総合的にどのような働きであるとかは、あまり研究されていない。生物学、農学、薬理学、医学など、今の学問はすべてそうですね。だから、相乗効果などの研究にはあまり馴染まないのではないでしょうか?
科学の「科」ですかあ。それは面白い文明論ですねえ。
今の時代、私たち消費者はもっと賢くなって、自分の体は自分で守らないといけない。情報だけはいっぱいありますから、確かな情報を選ぶことが、健康に生きることにつながると思います。
情報の選択はこれからさらに重要になるでしょうね。
確かな情報を得られれば、ものを言うことができます。消費者が意見を言えば、企業は耳を傾けざるを得ない。私たちの会社は、農薬、抗生物質、環境ホルモンなどを分析する研究所にも、できる限りの投資をしてきました。長い目で見て、消費者の利益になる研究や分析は、必ず報いられるはずだとの、私の信念によるものです。企業も消費者もお互いが賢くなれば、その先に環境問題を解決する糸口が、必ずあるはずだとおもいます。
文明というのはなんだったのでしょうねえ。子供の死亡率を下げて寿命を延ばし、病気も減らしてきた。だけど、同じくらいひどい目に遭っていますよね。
私たちが選択してきた文明は、それなりに価値はあったと思います。ただ、とてつもなく大切なものを置き去りにしてきてしまった。少し後戻りしたり、少し方法を変えたりして、両方が成り立つようにする努力が必要ですね。
一番必要なのは立ち止まる勇気ですね。さらに必要なのは、「後ずさり」する決意でしょうね。
私が「地球ものがたり」の対談を通して読者に伝えたかったのは、まず知ってもらうことです。さまざまな環境問題が私たちと無縁ではないことを知ることで、「じぶんたちにできることがあるのだ」と感じてもらいたい。そして、何かを感じたら、たった半歩でもいい。前に進みませんか。それが私の願いです。