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石 弘之氏×山田 英生対談
今回は、海面上昇で島が水没するかもしれないという危機に立たされ、地球温暖化問題の最前線として、世界の目がそそがれている南太平洋の島国ツバルまでやってきました。オーストラリアの東約4000キロ、日付変更線のすぐ西側にあり、世界で最初に日付の変わる赤道に近い国と聞いていましたが、遠かったですね。日本からは2日がかかりでした。
空からみたツバルの島々は、大海原に漂っている流木みたいでいかにも頼りない感じですね。9つの環礁からできた群島国家で、その総面積は26平方キロ。沖縄の与那国島ほどの面積しかありません。バチカン、モナコ、ナウルについで世界で4番目に小さな国です。人口は1万人ほどだそうですが、イエレミア首相は 2000人ぐらいが出稼ぎにいって国外で働いているといっていました。
首都はフナフチ環礁にありますが、私たちが降りた飛行場は、戦時中に島を占領していた米軍がつくった滑走路だそうですね。
そうです。飛行機がくるのは週に2回、ふだんは子どものサッカー場、蒸し暑い夜は多くの島民が滑走路で寝ているとか。
日本のローカル線の無人駅の様な空港ビルから徒歩3分以内に、政府庁舎から国営ホテルまでほとんどの機能が集まっていました。
そうですね。島は南北に7キロ、幅はもっとも広いところで600メトール、狭いところでは30メートルほど。ハリケーン(トロピカル・サイクロン)来襲の時に、この狭い部分で島が分断されてしまったそうです。
島のほとんどの場所で、海岸に立っても反対側の海が見えました。サンゴ礁の島なので、平均の海抜は2.5メートル以下ですから、海面が上昇してくれば、島は簡単に呑み込まれてしまいますね。
島を回っていて気がついたと思いますが、海岸は岩だらけで砂浜がほとんどないですね。サンゴ礁でできた島は、サンゴのかけらが真っ白な砂となって島を取り囲んでいるのが普通なのですが。
その砂がなくなってしまったのですね。フナフチ環礁を形作っている無人島のテプカ島に小舟でわたったときに、直径50メートルもない島のヤシの木が、数十本も根こそぎ倒れて延々と砂浜に横たわっていたのは衝撃的な光景でした。海にも潜ってみましたが、澄み切った水と海底を覆ったサンゴ礁、そして色とりどりの熱帯の魚、あの美しさには息をのみました。これだけ見事なサンゴ礁が残されている海は、世界でもそう多くはないでしょう。しかし、海底のあちこちに枯れたヤシの幹が転がってサンゴ礁を傷つけているのは無残でしたね。
海岸の浸食によってヤシが根ごと波に洗われ、立っていることができなくなったのですね。この2月に発表された「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の新しい評価報告書によると、今世紀末には海面が18〜59センチ上昇すると予測しています。そうなると、世界中でこんな光景が見られるようになってしまうのでしょうか。
そうですか、それは悲しいですね。島の古老の話では、50年前の子どものころと比べると、海面が1メートル近く上がった気がすると言っていました。また、大潮になると島のあちこちで潮が地面から噴き上がるという話も聞きました。
イエレミア首相から直面する問題をお聞きする。
イエレミア首相以下、島で会った政府関係者はいずれも「世界が好きなだけ化石燃料使って地球温暖化が進み、こんな小さな島が水没の不安に脅かされるのは理不尽だ」と、やり場のない怒りを語っていました。確かに、地球環境といわれる時代になって、「北京で蝶が羽ばたけば、ニューヨークで嵐が起きる」という表現を耳にします。つまり、地球上のどこかで起こった出来事が、遠く離れた場所を揺さぶりそれが連鎖反応を起こしてさらに増幅しながらさらにまったく別の場所へと広がっていく。まさに、そんな感じです。
自然の循環とは、本当に不思議なものですね。でも、ツバルの海面上昇をめぐっては、まだ科学論争があるように聞きましたが。
実はオーストラリアの国家潮汐研究所(NTF)が、南太平洋諸国の22ヵ所に潮汐計を設置して、1974年以来海面上昇を計測しています。ツバルには 1993年に潮汐計が設置され、その結果では年間海面上昇は0.9ミリで世界的な上昇と比較しても異常ではない、と発表しています。ツバル政府が観測した約22年間の観測データでは、年間平均2.17mm上昇しているというのですが。
でも、現実に海岸が侵食されたりヤシが横倒しになったり、被害がでていますね。
海岸侵食のため、倒れ込んだヤシの木が延々と続くツバルの海岸。
ヤシの倒木の場所は北西海岸に集中しています。これは、ハリケーンがやってくる方向ですから、近年になって頻度も規模も大きくなっているハリケーンの被害も疑う必要があります。むろん、ハリケーンの大型化も温暖化と無関係ではないでしょう。
そういえば、今回会った首相や閣僚はNTFのデータに対して、「京都議定書を批准してもいないオーストラリアが、そんなことをいう権利があるのか」とカンカンに怒っていましたね。「海面上昇がないというのは陰謀だ」「弱いものいじめだ」「人種差別だ」という声までありました。
タラケ元首相は数年前、「京都議定書に加盟しないで温暖化対策を怠っている」として、米国とオーストラリアを国際司法裁判所に提訴すると宣言したことがありました。ただ、同首相は2002年の選挙で落選してこの提訴もさたやみになりましたが。
確か、ツバル政府は以前、オーストラリアとニュージーランドの両政府に対して、海面上昇の影響で住めなくなった場合の予防的措置として、「1000人のツバル国民を受け入れて欲しい」と要請したことがありましたね。
ええ、オーストラリアは拒否しましたが、ニュージーランドは2003年から毎年75人の移住を認めています。ただ、その受け入れの合意内容には、海面上昇の影響は触れられておらず、建前は通常の移民ということですが。
近くの国のバヌアツでは、世界銀行など国連機関が地球環境の保全ための資金を途上国へ提供する「地球環境ファシリティ」(GEF)が、海面上昇に対して正式に支援することを決めたそうですね。
昨年には被害のひどい海岸地帯の村人約100人が、内陸の海抜15メートルの地点に集団移住しました。井戸水には塩水が混じるようになり、海岸近くの農地は塩害で作物もできなくなった。水溜りが増えたために蚊が発生して、マラリアが流行しているという緊急事態だったのです。
私はツバルに来てみて、地球温暖化による海面上昇によって沈みつつある国というより、その温暖化の原因も含めて、現代文明によって呑み込まれつつある島という印象を強く受けました。
そのとおりです。ツバルには海面上昇だけでなく、さまざまな環境問題が凝縮しています。
島の北端には巨大なゴミの山がありましたね。なかには、日本の食品の包装までありました。
ゴミが処理できず、山積みに。
これは、途上国に共通する問題ですね。ほんの30〜40年前までは、廃棄物といってもほとんどが放っておけば土に返る有機物でした。でも、いまや輸入した工業製品があふれている。洗剤、歯みがきのチューブ、ペットボトル、缶詰・・・・・・腐らないままに山になっています。
住民の食生活がすっかり欧米型に変わってしまったのに、他の社会システムが追いついていないのですね。経済的にも、家族の誰かが、フィジーやオーストラリアに出稼ぎに出て、その仕送りで生活していました。こんな狭い島にタクシーが11台もあり、自転車で十分なはずが、オートバイの数が多いのにはびっくりしました。食生活でも伝統的な食事から、欧米よりきた缶詰のハムやソーセージになり、もともと体格の良い民族ですが、今回訪問してみて、不健康な肥満体の人が多かったように思います。住居も伝統的な丸太を組んで草でふいた高床式のものは少なくなって、新しいものはセメントの家ばかりですね。
この生活様式の急変が、実は水没にも関係しているのでは、という話を気象局の科学者から聞きました。フナフチ島の人口は1978年の独立当時、1000人に満たなかった。ところが現在では4000人を超えたそうです。このために、島の樹木は建材として伐採されて姿を消し、今では輸入したセメントで建てている。そのために、海岸の砂が骨材として持ち去られて砂浜がなくなってしまった。政府は何回もその禁止令を出したが効果がなかった。しかも、セメントの家の重みで、もともとサンゴでできた多孔質の地盤が沈下して、島の各所で潮が噴出すようになったといいます。
海面上昇と相乗的になっているのかもしれませんね。現地をみると、その説もよく理解できます。現代文明が地球の温暖化を引き起こしているばかりでなく、同時に独自の伝統的なツバル文化を滅ぼしつつあるということですね。
世界でもっとも貧しく、もっとも脆弱な環境に住んでいる人々に、私たちも何らかのアクションをおこさなければならないことは、私も島を訪ねて実感しました。
規模は違いますが、日本も同じ島国で、資源の有限性を我々の先祖はよく理解していたので、世界でもっとも優れていた江戸のエコロジーシステムが成熟したのだと言われております。文明化によってさまざまなものを失っていくという意味で、ツバルを見ると、決して遠い国の問題ではなく、私たち人類が地球規模で直面している切実な問題を考えさせられますね。