山田英生対談録

地球物語

石 弘之氏×山田 英生対談

年々、増えている「黄砂」の飛来。今や砂漠化は、日本にも身近な問題だ。

地球のことを考えない経済活動が砂漠化を招いている。

石

本日のテーマはそろそろ日本にもやってくる「黄砂」です。養蜂家にとって、黄砂にどんな印象をお持ちでしょうか?

山田

養蜂家は気候の変化には敏感なので春先になると、気になりますね。以前は黄砂が来ると、それを合図にあわててミツバチの群れを増やす準備に、かかったものです。いわば、春の風物詩のような印象だったのが今では夏近くまで続いていますね。

石

気象庁が全国で103カ所に黄砂の目視地点を設けていますが、2000年以降、黄砂の観測延べ日数が増えています。2002年に1116日を記録しました。昨年は451日でしたが、11月から観測されている。しかも西日本に限られていたものが、全国的に広がっています。日本には年間100万〜300万トンもの黄砂が飛んで来ると言われていますから、相当なものです。

山田

中国での砂漠化はすさまじいですからね。

石

日本に飛来する黄砂の発生源は、主に中国の黄土高原、タクラマカン砂漠、それにモンゴルにまたがるゴビ砂漠などです。強風で舞い上がった直径5〜50ミクロンの微細な砂が、偏西風に乗って運ばれてくる。

山田

黄砂というのは、あまりありがたくないイメージがありますが、最近になって功罪の「功」の部分が注目されていると、お聞きいたしましたが。

石

黄砂の成分は、非常にアルカリ性が強い。リンやカルシウム、鉄などのミネラル成分を多く含んでいて、植物にとっては欠かせない栄養素を含んでいます。日本のように火山灰でできた国は、土壌の酸性度が強いですね。そこに黄砂が降って中和され、ミネラル分の豊かな植物にやさしい土壌になった、ともいわれています。黄砂はハワイまで飛んでいきますから、あの豊かな農作物も黄砂のおかげですね。

山田

そういえば、日本もハワイも火山の島ですからね。しかし日本の稲作が黄砂によって成り立っていることは知られていませんね。

石

サハラ砂漠でも年間に2〜3億トンの砂が舞い上がるといいますが、その砂がアマゾンの奥地まで飛んでいる。実はこれが熱帯雨林の生態系に一役、買っているのです。熱帯雨林のなかでは、95%の物質が循環していると言われています。枯れた植物や死んだ動物が分解されて有機物になって、それを養分に植物が成長する。ところが、その有機物の一部はアマゾン川よって海に流れ出てしまう。それを補っているのがサハラからの砂なのです。大西洋を越えてくる砂塵は1ヘクタール当たり1120グラムほどで、これが不足分を補っている。でも、黄砂が多いと、地球全体が砂漠化したのではないか、と心配になりますよね。

いまや地球上の陸地の4分の1が、少なからず影響を受けている。

山田

私どもの会社が、中国・ハルピンの医科大学と共同研究をしている関係で、内モンゴルへ足を伸ばしてみたことがあります。広大な草原というイメージを持っていたのですが、驚きました。草原どころか草木がなくて、荒涼としているのですよ。終日、砂嵐で薄暗い。なぜ、こうなったのか、調べてみると二つ問題がありました。いずれも、中国政府の政策なのですが、一つは遊牧の人たちを定住させたために、本来はひんぱんに移動が必要な、草原での牧畜ができなくなり、過放牧状態となった事。モンゴルの遊牧の人々は、長い間の経験から、それを学んでいて、一定の場所で長期間家畜を飼うことはなかったようですね。もう一つは、漢民族を送り込んで農業を奨励したためです。ところが草原は畑作には適していなかったのです。1年目はまだしも、2年目からは砂漠化がはじまり、実りがなくなる。だから耕作地を放置して別の牧草地を耕す。これを繰り返すうちに、休耕地が瞬く間に砂漠化していったということです。

石

北京の西北から迫ってくる砂漠も同様です。乾燥してできた砂漠地帯の面積は1万4000ヘクタール以上で、北京の70キロ手前にまで達しています。年間、 3キロずつ北京に迫っているので、約20年で到達してしまう計算になります。中国は国土の27%、262万平方キロメートルが砂漠地帯など、利用できない土地になってしまった。日本の国土の、実に7倍ですよ。

山田

早く手を打たないと、日本にとっても他人ごとではありませんね。

石

全世界で砂漠化の影響を受けている土地の面積は、約36億ヘクタール。地球上の陸地の4分の1に相当します。

山田

アフリカのサハラ砂漠も、毎年150万ヘクタールも拡大しているそうですね。エジプトのピラミッドの石には、ピラミッド建設中に書かれたと思われるライオンが寝そべっているらくがきがあったそうですが、かつて、ピラミッド周辺は草原だったということでしょう。

石

4500年前まではサハラ砂漠にも草原や湿地があったのですよ。古代ローマは、見世物として競技場で人間と猛獣を戦わせていましたね。残された記録を調べると、ライオンとかヒョウなど多くの猛獣が、北アフリカから運ばれていたことがわかります。猛獣がいたということです。アルジェリアのタッシリ・ナジェールという遺跡があるのですが、サハラ砂漠のど真ん中の世界遺産です。岩絵には、カバやワニや魚が描かれている。数千年前までは湿地があったのです。

四大文明地域の砂漠化が激しい。それは、なぜだろうか。

山田

アフリカの砂漠化といえば、石さんの論文で、その原因のひとつは、植民地支配にあったという説を発表されていますね。

石

欧州は、19世紀後半からの植民地時代に、ひどい収奪をしたのですよ。家具用材のために樹木を片端から伐採したり、コーヒー、紅茶などの熱帯作物を作らせたために土地が荒れていった。その結果としてアフリカの25%に及ぶ森林が失われてしまいました。干ばつが頻発するようになったのはその影響が大きい、というのが私の説です。

山田

なるほど。私もフランスの植民地だったマダガスカルを空から眺めた時、見るも無残に広葉樹が伐採されているのを見て、驚きました。植民地支配によって森林が金に換えられてしまったのでしょう。

石

考えてみれば4大文明の跡地は、いまやほとんど砂漠化していますね。ナイル、インダス、メソポタミア、黄河や揚子江の各流域。文明が古いほど砂漠化が進行している。

山田

つまり、何千年かけて、土の持つ可能性を人間が収奪していったということですね?

石

1930年代に米国中西部を襲ったダストボールをご存知ですか。砂嵐によって畑や街が砂で埋め尽くされた大自然災害でした。最大の小麦生産国だったロシアが、ロシア革命の混乱で生産が激減して小麦の穀物相場が高騰した。それに乗じて米国がむちゃくちゃな増産に走ったのですね。土壌は荒廃し、乾燥して土が風にあおられて舞い上がり、北米大陸の西半分が砂をかぶる結果になりました。

山田

つまり小麦文化は持続可能な、そして自然共生的な文化ではないということなのでしょうか?

石

そうなのです。最近になって、また小麦相場が高騰し、小麦の生産が増え始めた。オーストラリアの深刻な干ばつに加えて、穀物でエタノール燃料をつくるブームで、さらに無謀な作付けが行われているようです。

山田

その点、水田文化は持続可能な経済システムですね。

石

あらゆる耕作技術の中で水田は持続性がありますね。水によって土壌と大気が隔てられますから、土の中の有機物が分解しにくい。それに水田は、背後に水をもたらす森林が必要です。小麦文明の欧州では、1000年もすると土地が劣化するのに、水田は5000〜6000年も続いています。自然共生的な農業文化でもあります。

日本のカシミヤブームが、さらに問題を大きくしている。

石

内モンゴルの草原が荒れ果てていた、とおっしゃいましたね。その原因の一端は、日本のカシミヤの大量輸入で、中国やモンゴルの生産に拍車がかかっていることがあります。カシミヤはヤギのウブ毛で、1頭のヤギからは150〜250グラムほどしかとれない。セーターを編むには4頭、コートなら30頭。だから、頭数を増やさなければ需要に追いつかない。爆発的に増えた家畜によって、牧草地が荒廃していったのです。

山田

高価だったものが、数年前の半値くらいになりましたものね。安いカシミヤはブームにさえなりました。消費者は歓迎するかもしれませんが、実はとても高い対価を払わされていることに、私たちは気づきませんね。経済的な対価でなく、環境的な見地からみた地球に対する対価です。現地の人の負担やリスクに対する正当な評価も十分ではないと思います。

石

地球に対する対価ですか。面白い表現ですねえ。一方で、日本人ほど、海外での植林に熱心な国はない。山田さんも、植林に力を入れているようですが。

山田

かつて、自分たちの会社で通信販売に使っている紙の量から、何本の成木を使っているかを計算したことがあるのですよ。年間に約1500本でした。その分を植林しようと、7年前からネパールで植林を始めました。これまでに約20万本、年間3万本を植えています。3年前からは、内モンゴルでも始めましたし、今後は、ケニアやアマゾンの熱帯雨林でも始める予定です。砂漠化防止には、植林が一番、効果がある。世界中が協力すれば、20年もあれば、食い止められるのではないでしょうか?

石

アラブの砂漠にどんどん植林をしていったら、ドバイでは、それまでなかった雨季が出現し雨量が増えたという話もあります。街の温度も下がってきたらしい。森林がいかに大切か、わかるでしょう。

山田

それは、素晴しいニュースですね。地球の砂漠化は、一刻も早く食い止める必要があります。私たち日本人が安く購入できるようになったカシミヤが、実は砂漠化を招いていることを知ったいま、自分たちが何をしたらよいかは自ずとわかってくるはずです。一刻の猶予も許されないでしょう。

ものがたりは続く 成果をあげる「緑のサヘル」
「緑のサヘル」はアフリカの現地にスタッフを常駐させて、砂漠化防止活動をつづける数少ない日本のNGOだ。サハラ砂漠の南側に連なるサヘル地方のチャドやブルキナファソなど、活動をはじめて17年目に入った。国内3人、海外26人のスタッフが働いている。この一帯はサハラ砂漠の拡大によって作物が大きな被害を受け多数の餓死者を出してきた。砂漠化防止の植林、住民のための食料備蓄や井戸堀りの支援、薪が少なくてすむ改良カマドの普及などを進めている。活動は住民参加が原則で、最近は住民も積極的になり、チャドでは多くの村で村人が植生保護区をつくって緑を守るようになったという。日本人スタッフの指導ではじまった果樹栽培も成功して、マンゴーの大産地に育った。
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