山田英生対談録

地球物語

石 弘之氏×山田 英生対談

多くの国々での食料不足を尻目に、我々は肥満の進行に悩んでいる。

山田

飽食の時代といわれて久しいですが、日本だけを見れば、私たちは日々の食べ物に困ることはありません。ですが、世界的には、飢餓人口は増えています。限りのある食糧資源をいかに有効に使うか、問われている時代ですが、現実は決して楽観できる状況ではなさそうですね。

石

おっしゃる通り、日本では飽食の時代が続いていますが、世界の飢餓人口は増えています。国連食糧農業機関(FAO)が2002年に実施した調査では、世界で8億5200万人が飢えている。世界人口の7、8人に1人の割合です。毎日、2万5000人が飢餓や栄養失調などで死亡しています。その4分の3までが 5歳未満の子ども。子どもで満員のジャンボジェット機が、1日に40機近くも墜落している計算になります。

山田

それは深刻ですねえ。1人当たりの穀物消費量が、どこまで下がると飢餓状態と言うのでしょうか?

石

年間の平均的な穀物消費量は320キログラムくらいですから、200キログラムを割ると危険信号ですね。

山田

私も調べてみたことがあります。1996年の数字ですが、米国の1人当たりの年間穀物消費量は685キログラム、西ヨーロッパは467キログラムです。これに対して、アフリカは219キログラムと少ないですね。

石

先進国との格差が如実に表れていますね。面白い調査があります。ギャロップ・インターナショナル(スイス)という世論調査機関が、世界66カ国で5万人を対象に「過去1年間で、自分や家族が食べ物に困ったことがあるかどうか」と尋ねた結果、「ときどき」「ひんぱん」と答えた人が46%もいました。調査対象国に限れば人口の半分が食べ物に困っているのですね。

山田

世界有数の米の産地であるタイでさえ、貧しすぎて米さえ食べられない農民がいるのですよ。

石

ギャロップの調査で、食べ物に困っている人の割合が一番高かったのがナイジェリアです。世界第9位の石油の産油国なのに、食糧が足りない。2位がカメルーン。この国も一人当たりのGDP(国内総生産)がサハラ以南のアフリカ諸国の平均を上回っています。

山田

きっと経済だけだと裕福に見えても貧富の差が激しいのですね。最も裕福な層と最貧困層との所得配分の格差(1997年当時)をみると、日本は4倍なのに、南アフリカ共和国は19倍、ブラジルは32倍になっています。国の経済だけでは見えてこないのが、この格差社会の問題で、今まで比較的格差の少なかった日本人には実感が持ちにくいのでしょうね。

石

日本は、そのギャロップ調査では65位で、食べ物に困った経験のある人は1%しかいません。

山田

私も子供の頃から犬や猫も飼っているのですが、最近、特に気になるのはペットフードです。昔は残飯を与えていたものが、貧しい国での食事以上のごちそうになっていますね。今や日本のペットフードは、2400億円市場(2004年)と推定されます。

石

ペットフードも、もとはといえば食糧。多くは人間が食べない肉の部位を使っているのでしょうが、最近は質もよくなって、牛肉、豚肉、最近はダイエットでささみを使う。消費の6割は輸入で、その金額は大豆の輸入額なみ。人間が食べるものさえない国があるわけですから、抵抗を感じますねえ。

山田

そうなんですよ。ある貧しい国ではこのペットフードを買って食べている庶民がいました。

肥満人口が、ついに飢餓人口を上回った。

石

食糧問題を考える上で転機となる数字があります。世界の肥満人口が10億人を超えて、ついに飢餓人口を上回りました。男性では米国、ドイツ、アルゼンチン、英国。女性は米国、メキシコ、エジプト、トルコ、南アフリカに肥満の人が多い。米国では、成人の6割が基準体重を超えている。5000万人は、治療が必要な「肥満」らしいですよ。中国でも6000万人が肥満だといわれています。

山田

最近、中国で肥満気味の子どもたちをたくさん見かけるようになりました。一人っ子政策の影響もあるのでしょうか。

石

30年後には肥満人口がいまの4倍になるといいます。ある中国の病院の医師によると、肥満患者の胃の上部を特殊な器具で締め付けて食欲を減退させる手術がはやっているそうです。南太平洋も肥満が多いのですが、昔はタロイモや魚を食べて健康的に太っていたのが、ファストフードが大量に入ってきて、非健康な肥満による成人病が増えてしまった。

山田

日本でもメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が話題になっていますね。1960万人もいるそうです。

石

小学校でも増えています。厚生労働省の国民健康・栄養調査では、小学1年で4%、6年で10%が肥満傾向の児童といいますね。私がアフリカに勤務していたときは、ジムに通っていましてね。よく運転手にからかわれました。「お金を出しておいしいもの食べて、高い金でジムに通う。どうせなら食べなきゃいいじゃないか」って。

日本は世界第一位の「残飯生産大国」でもある。

石

日本の食糧自給率40%は、世界の先進国のなかでも最も低い数字です。フードマイレージという言葉を聞いたことがありますか?食品が消費者に届くまでの輸送エネルギーを示す指標です。高いほど輸送にかかる燃料や二酸化炭素の排出量が多く、環境への負荷が大きい。日本は5年前の時点で、約9000億トン・キロメートルと世界最大だった。隣国の韓国の2.8倍、国土の広い米国と比べても3倍です。日本は世界中から食べ物をかき集めているということなのです。

山田

世界からかき集めた食糧を、私たちは残しているわけですね。日本は世界最大の残飯生産国でしょう。

石

日本は毎年、2180万トンの残飯を排出しています。どうやってはじき出したかというと、国民1人当たりの1日の供給カロリーと、実際に食べたカロリーとの差が725キロカロリーあった。これは、供給された食糧の4分の1に当たる。これが残飯になったと仮定して推計したのですね。金額に直すと11兆円といいます。

山田

米国より多いのですか?

石

米国を超えて、世界1位です。韓国の話ですが、京畿道の第20機械化歩兵師団の将兵が、「残飯ゼロ運動」を始めたのです。食べ残すごとに、150ウォン(約17円)の「罰金」を徴収したそうです。集まったお金は、貧しいインドの子供たちに贈るそうです。

山田

それはいい話ですねえ。日本は、食べ物を冒涜していますよね。昔は、「いただきます」の心があったでしょう。いまは、食糧が聖なるものじゃなくなりました。そういう教育もされていない。

石

その通りですね。11兆円があれば、食糧援助で助かる人がたくさんいるはず。

山田

「食」への考え方が変わったのは、都市化に大きな原因があると思います。核家族化で、伝統的な食の哲学が消えてしまった。5分走れば何でも買える。食べ物の価値がわからなくなっている。

石

日本人にとって、飢餓は遠い世界の出来事。いまの日本は飽食ですが、グローバルな視点でみると、そんなに安心はしていられないですよ。世界の食糧備蓄量は 1999年には消費量にして116日分あったのが、いまは57日分しかない。60日を割ると高騰するといわれており、事実、穀物相場は高値をつけています。

山田

薄氷を踏むような食糧事情ですね。国際紛争が起きたら、日本へ来る貨物船が数日滞留するだけで、大混乱になりますね。

食物を原料とするエタノール燃料に問題はないのか。

石

今後の食糧事情の行方は、中国とインドにかかっています。両国とも、いまは自給自足していますが、13億(中国)、10億(インド)の民の食糧消費量が増えて、輸入量が増えると大変です。中国では、生活が豊かになり、国民1人当たりの食糧消費量が過去20年で2倍に増えた。ヨーロッパ並みの消費量になると、世界の穀物の40%を中国が独り占めすることになる。

山田

人口抑止政策が本当に必要になりますね。

石

最後に指摘したいのは、食べ物から作られる自動車のエタノール燃料ですね。ガソリンに代わる燃料として救世主のように言われていますが、必ずしもそうは思いません。飢餓人口が増えているのに、食べ物で燃料を作るわけですから。ヨーロッパでは菜種油をエタノールにしているのですが、菜種油を使うマーガリンやマヨネーズが高騰し始めた。人間と車が、食べ物を奪い合っている構図ですよね。

山田

自動車を持つお金持ちにとっては食べ物の値段が上がっても気にしません。ガソリンの値段のほうが大切でしょうが、貧しい人々にとっては、食糧の方が大切。富裕層の文化が貧困層を苦しめる結果になっているのですね。

石

米国では、エタノールに回されるトウモロコシの量が2001年は1800万トンだったのが、今年は5500万トンと推定されています。ブラジルの熱帯雨林が伐採されてエタノール用のサトウキビ畑になっていく。自然破壊につながっています。

山田

私たちの「飽食」は輸入に支えられています。その向こう側にある現実が知らされていないから、食べ物を粗末に扱う。飢餓人口が増えていて、そのためには何が必要なのかをひとりでも多くの人に考えて欲しいものです。残飯やエタノール問題など、きちんと見つめ直した方がよさそうですね。

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