健康食品、化粧品、はちみつ・自然食品の山田養蜂場。「ひとりの人の健康」のために大切な自然からの贈り物をお届けいたします。
石 弘之氏×山田 英生対談
世界的な水不足が指摘されていますが、水問題というと、私たち日本人は、飲み水の問題ととらえがちです。しかし、海外に食料を依存している日本は、実質的には農作物を作るためなどに大量の水を消費していると聞いております。今日は、ひとつグローバルな視点で、この問題をお話しいただけますか。
日本は降水量が多いため、世界で4番目に水資源を持つ国なのです。ですが、それを人口で割ってみると、今度は世界で82番目に下がってしまう。
1人当たりの水資源が足りない分を海外に依存しているということですね。日本が食料の多くを海外に依存していることと関係ありますね。
その通り。バーチャルウォーターという言葉をご存じですか。「仮想水」とも言います。たとえば、1キログラムの米をつくるのに、どれくらいの水が必要だと思いますか。なんと7.7トンですよ。1キロの小麦粉をつくるには4.5トン。牛肉などは、エサや飲み水、そして解体処理に使う水を換算すると1キロ当たり100トンの水が必要なのです。目に見えないこの仮想水が、実は大切な意味を持つんですね。海外から輸入する食料品の裏では、こんな大量の水が使われているということを知って欲しい。
輸入される仮想水の総量はどれくらいでしょう。
年間640億トンですよ。国内で使われる水は890億トンですから、日本人が使う水の量は、仮想水も合わせると1530億トンということになります。このうち4割を食糧として海外から輸入しているという計算ですね。専門家の中には、仮想水はさらに多いと指摘する人もいます。これに加えて、いつのころからでしょうか、若い人は、ペットボトルに入った水を常に携帯していますよね。日本の水ビジネスは1500億円の市場だそうです。
すごいですね。いまガソリンが1リットル150円前後でしょう。水は500ミリリットルのペットボトルだと140円程度しますから、たいていがガソリンより高くなっている。タイなどでは、コーラの方が水より安かった。水は世界中で貴重品になってきているのですねえ。
地球規模で水の話をすると、いかに貴重なのかがわかります。地球上の水のほとんどが海水で、しょっぱくない水は2.5%しかない。その2.5%の大部分が凍った水。実際に真水は0.01%あるいは、0.07%とか0.08%という説もありますが、そのわずかな水に65億人が頼っている。水というのは循環していますから、その量は不変のはずなのです。なのに足りない。
水の使い過ぎですね。
そうです。日本人は1人当たり毎日3トン、使っている。世界中の人が毎日3トン使ったら、地球上で80億人しか生きられない。米国みたいに1人当たり6トン使うと、40億人しか生きられない。私たちは水道の蛇口をひねれば水が出るという感覚なのですが、山田さんもお仕事で世界を訪ね歩いていらっしゃるから、水に対する感覚が違いますでしょう。
そうですね。ペルーやアルゼンチン、アメリカ、オーストラリアの乾燥地帯等を見ました。そのような地方では年々水不足が深刻化し、砂漠化が進んでいますね。日本は古来より「豊葦原の水穂の国」と呼ばれ、たくさんの川のある国と言われておりますし、「秋津島」「秋津州」と呼ばれトンボの島と言われるのも、トンボのエサとなる水辺の虫が豊富であるためですね。その様な日本人には、なかなか想像がつかないかもしれませんね。
中国でも、建国以来5000回も洪水を起こした黄河が途中で絶えてしまうという異常な事態に陥っている。見て驚きました。カザフスタンとウズベキスタンにまたがる塩湖であるアラル海も同じ。干上がって、いくつもの小さな湖に分かれてしまっています。湖畔から湖面まで10キロも離れているところがある。湖畔に立って湖面なんて見えないんですから。船の残骸が転がっている殺伐とした光景でした。
かつてニュージーランドで、レンゲの栽培実験をしたことがあります。日本は冬場でも南半球のニュージーランドは夏場だから、そこで蜜が取れれば、年間を通して安定して供給できますから。しかし、取り組んでみて驚いたのですが、農業国のニュージーランドでさえ、深刻な水不足で農地には、100メートルもの深さの井戸を掘り、灌漑しなければ農業ができないのです。大変に驚きました。
国連は、一人当たりの水の供給量が年間1000トン以下の国を水不足国としているのですが、34カ国もある。多くはアフリカと中東ですが、2025年にはこれに17カ国が加わることになりそうです。こういった地域は農業にも影響が出る。地面の中にある塩分を含んだ水が乾期になると太陽に熱せられて蒸発して、塩分が地表に残ってしまう。すると畑がやられてしまう。日本も同じことがありますが、雨が多いから常に洗い流してくれる。
日本の気候の特徴である季節的な降雨量の多さが農地を救っているのですね。
水不足の34カ国のうち32カ国までが穀物の海外依存国です。世界的に水不足が深刻化すると、表流水だけでなく、地下水が注目され、米国の穀倉地帯では、地下水をどんどん汲み上げていった。地平線の果てまで続く小麦畑は、地下水に頼っているのです。ところがあまりに汲み上げすぎて地下水位がひどいところは 30メートルも下がった。危機的状況です。
私も巨大な感慨装置を見ました。半径数百メートルのパイプに地下水を通して、少しずつ回転しながら水を撒いていました。そのため、農地が円形になっているのです。
そのシステムは中東でもアフリカでも流行っている。
身近なところでは、昔から使っていた自宅の井戸が20年ほど前に枯れましてね。山に針葉樹ばかり植林するものだから、少しずつ地下の貯水量が減ってきたのだと思います。
アフリカの井戸でも20〜30メートル掘れば水が出た場所が、最近では100メートルくらい掘らないと出てこない。アフリカの砂漠地帯の地下水は「化石水」といいましてね、氷河期の終わりに貯まった水なのです。
それを使い果たしたということなのですか?
そういうことです。1万年前、アフリカでも雨がたくさん降っていた時期に貯まった水を使い果たして。アフリカでは最大の仕事が水汲みなのです。最近はプラスチックになりましたが、一昔前は、10キログラムくらいの瓶を頭に乗せて何キロも運ぶんですよ。水を入れると30キロくらいになる。女性や子どもがこの役割を担うのですが体にいいわけがない。
ネパールでも同じですね。女性や子供たちがとても長い道のりを水を汲みに歩いていました。
水不足の国にとって、水は命の綱です。その水をめぐって、争いが絶えません。中東の紛争の遠因には、水争いがある。インドとパキスタンの仲が悪いのも川の水争いと言われていますし。上流下流で争いが起きる。たとえば、ナイル川は7カ国を流れているのですが、たくさんの国を通る場合はやっかいです。上流にある国はダムをつくって水をせき止めたいし、下流域はそれでは困る。こういった水を巡る国際紛争は、もっと深刻化するかもしれません。
国際紛争の背景にはそういった水争いの要素もあったのですね。あまり表に出てこないですが。 地球規模で考えたい、水資源の大切さ。
もう一つ、重要な出来事が起きています。世界ではおそらく今年中に、初めて都市人口が農村人口を上回るのですよ。50%以上が都市に住むという人類史でかつてない事態です。その都市で一番の問題はスラムの膨張です。アフリカの都市の7割がスラムですよ。
南アフリカのスラムは膨大になって数百万人以上の人が住んでいますよね。まずはスラムが出来て公共の設備は後から出来る。水道もトイレも整備されていない。近所の川の水を使い、排泄物を垂れ流しだから不衛生です。煮沸しようにもその燃料さえない。
スラムの最大の問題は水ですね。この対談を読むのに10分とはかからないでしょう。ですが、この10分の間に、世界で75人の子どもたちが汚れた水で命を落としているのです。大部分がアフリカの5歳未満の子どもですね。下痢やコレラなど、水の衛生設備の不備によって命を落とす人は年間1000万人にのぼるのです。
これは是非、みなさんに知ってもらいたいですねえ。大変な数の子どもたちが死んでいるという現実を。日本だけの利益や欲求を考えていたら、水が抱える様々な問題を見過ごしてしまう。