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石 弘之氏×山田 英生対談
熱帯林の深刻な状況が毎日のようにマスコミでとり上げられています。報道された当初は意識していても、されなくなると私たちは忘れてしまいますね。また日本では建築資材はもちろん、私たちがふだん使う割り箸や木炭にいたるまで、膨大な量の木を消費しています。しかし、その8割を輸入に頼っていることはあまり知られていないように思います。
日本は年間に何本の割り箸を使っていると思いますか。なんと、約250億膳ですよ。1人当たり年間200膳という計算です。20年ほど前までは半分は国産だったようですが、いまは9割を中国に頼っている。
なるほど、そうなんですか。
また、やきとり屋や蒲焼き屋で「備長炭使用の店」という看板をあげている店が多くありますよね。備長炭はウバメガシなどを原木とする高級な炭で白炭とも呼ばれていますが、実はこれらのほとんどが中国産だったのです。その中国では2年前、一定の大きさ以上の木炭の全面禁輸を発表しました。さらに割り箸の輸出も、近い将来全面的に禁止するともいわれています。
木炭の原料になっていた樹木は、集落に近い里山に生えている木ですよね。日本で自給できないのは、その里山の循環がきちんと行われなくなったということでしょう。
おっしゃる通り。里山が変わってしまったのですね。中国が相次いで木炭や割り箸の禁輸を打ち出したのは同じような理由があります。1998年に中国の揚子江では、2億人以上が被災するすさまじい大洪水がありました。政府は水源林の破壊が原因だとして、大河流域の木の伐採を禁止してしまった。一方では、高度経済成長で建設ラッシュが続いています。不足する木をシベリアや東南アジアから輸入するようになった。1994年からの約10年間で、木材の輸入量が6倍に増え、1994年当時は世界の輸入量の7位だったのが、おそらくこの1年以内には米国を抜いて世界最大の輸入国になる。東南アジアではこの大量輸入によって、違法伐採が横行しているようです。ここ数年、インドネシアで大洪水や土砂災害が起きているのは、森林伐採が原因だともいわれています。
シベリアからの木材も問題ですね。たしか、シベリアのタイガは再生できない森林ですよね。
そうですね。ツンドラですから地中は凍っています。タイガは地表に近い氷が解けた部分に生えた森林ですから、成長が遅い。高さが2、3メートルの木でも30年もかかっているのです。しかも、地中には大量のメタンガスがたまっている。メタンガスというのは二酸化炭素の約20倍もの温室効果があるといわれています。木を切ると、そのメタンガスが放出されて温暖化につながる。そんな悪循環が起こっているのです。
本当に深刻な悪い循環ですね。うちの会社では中国とネパールで植林をしていますが、きっかけは世界遺産の屋久島で広葉樹が枯れているのを見たからなんです。中国の工業化による酸性雨が影響していると聞いて、日本の国の森林を守るためにはお隣の中国の問題も他人事と思ってはいけないと考えたからなのです。
植林には木材生産のためと環境保持の目的がありますからね。
本来の自然に近いのは、天然林ですね。天然林に育つような植林をすると地元に経済的な価値が生まれにくいので、現地で受け継がれるのが、むずかしい。植林して成長したら、木材として利用するために伐採して、再び植林するといった持続可能な経済システムが必要なのだと思います。と言っても木が成長するまでには何十年もかかりますから、気の長い話ですが。
日本でも70年も80年もおけば素晴らしいヒノキ材がとれるのに、30年くらいで切ってしまう。山も投資の対象ですから、いかに資本を回収するかが山林経営者にとっては重要な問題ですね。日本で本来の自然林をつくろうと思えば、数百年はかかります。江戸時代に熊沢蕃山という陽明学者がいました。彼は「はげ山に緑を戻したかったら、山の斜面にヒエやアワの種をまいて、それをむしろなどで隠しておきなさい」と説きました。鳥がその種を食べに来るでしょう。むしろの中を探し回るから滞在時間も長い。するとそこに鳥がフンをしていく。その中には種が含まれているから、いろいろな木々が生えてくる。エコロジーとは、まさにこういうことをいうのですね。
なるほど。それはすばらしいですね。日本にもそのような人物がいたのですね。
先ほども話しました屋久島の原生林ですが、世界でも最大級の照葉樹林帯だといいますね。小さな屋久島に残された照葉樹の原生林もけっして広いものではありません。これが最大級ということは、いかに人間が世界の森林を破壊し尽くしてきたかということですよね。
2000年以降、森林面積は毎年約730万ヘクタールも減少しています。日本の本州の約3分の1の面積が消えていることになります。かつての日本は、「アジアの森食い虫」といわれて世界中から批判された時代がありました。たとえば、日本の戦後復興は、フィリピンの山を丸坊主にして達成できたのです。だが、いまのフィリピンは木材輸入国に転落してしまった。
そうだったのですか。
ミンダナオの土砂崩れなどいたる所で災害が起きているのも、乱伐のつけが回ってきたのでしょう。日本はインドネシアやマレーシア、パプアニューギニアでも木を伐採し続けた。いま、急速な経済発展を遂げている中国は、まさにあの時代の日本に重なります。
うちの会社も最近、研究所を建てたのですが、工期が3カ月延びました。中国が世界中の鉄鋼を買い集めているから、日本になかなか入ってこないそうです。
2年後にオリンピックを控えた中国は、建築用材が不足しているため、最近になってインドネシアに緊急の木材伐採と製材所の建設を申し入れました。とくに競技場の床に使われる高価な硬材が80万立法メートル、価格にして10億ドル以上を輸入したいというのですよ。
アマゾンの広大な熱帯林もどんどん失われていますね。
アマゾンは世界最大の熱帯林なのですが、その17%が消滅したという公式発表がありました。ブラジルのある環境団体は47%が失われたと見ています。アマゾンに行くとよくわかるのですが、あの薄暗いまでに茂った森林が、あっという間に巨大な牧場と大豆畑に変わっている。
家畜の飼料にするためですね。
かつては肉骨粉を家畜の餌にしていたのですが、BSEの出現で肉骨粉が敬遠されて大豆が注目されたのです。しかし遺伝子組み替えの大豆を日本やEUは受け入れない。そこで遺伝子組み替えをしないブラジル産の大豆が一躍脚光を浴びるようになった。大豆畑は一区画が1000ヘクタール単位ですから、いかに広大かおわかりでしょう。開墾するときの伐採方法も機械化され、樹齢300年の木が30分で切り倒されていく。
遺伝子組み替え作物の問題がかえって、熱帯雨林の破壊につながっていく結果になったのですね。
そうです。ある意味で地球は末期的症状になってきたわけです。ウシにもっと濃い牛乳を出させようとして肉骨粉を食べさせた。BSEでダメだとなれば、今度は大豆。人間は欲望のままに自然を変えてきたわけです。
私たちが食べている牛肉は、実はアマゾンの森林の消失に深く関わっているということに、一人でも多くの人に気づいて欲しいものです。割り箸が使い捨てであることに疑問を持つ。やきとり屋の炭の産地がどこで、その国がどういう状態か考えてみる。環境問題の解決への一歩は、想像力だと私は思うのです。
日本でもマイ箸ブームがありました。私も試したのですが、お店に忘れてしまうことがあって、なかなか身につかなかった。
うちの社員食堂はマイ箸を奨励しています。竹の箸を置いてはいるんですが、それを使うときは10円を募金させて、それを植林のための資金にしております。
それはおもしろい。今、思いついたのですが、コンビニ弁当やレストランでマイ箸を使ったら、お店がそのお客様の代わりに10円を募金する「マイ箸募金運動」を広めたらどうでしょう。
今後は中国産の割り箸が入ってこなくなる可能性がありますから、よい機会かもしれませんね。
昔は箸の製造会社が300社くらいあったのですが、いまは1割くらいに減ってしまった。復活しようにも難しいでしょう。日本では1年に250億膳使っているのだから、そのうち200億膳で10円払ったら、2000億円も集まる。それだけあったら世界中に植林ができます。NPOを受け皿にして大きな運動に広げたいですね。
私たちの生活が、森林と結びついているのだという意識を持つことにつながるかもしれませんね。