山田英生対談録

地球物語

石 弘之氏×山田 英生対談

日本だけではない。世界中で、漁獲量が激減している。

山田

今日は海の話ですが、私たち養蜂家は森や山が専門ですから、海のことはまったくわかりません。魚の生態や枯渇状況を把握するのは難しい作業なのでしょうね。最近は、世界中で魚の食文化がブームになっていることを考えると、おのずと漁獲量も年々、増えているのではないかと思ったのですが、実際にはここ数年、減少に転じているようですねえ。これは水産資源が枯渇の一途をたどっているのか、それとも、いまのまま魚をとり続けても潜在的な資源は持続することが可能なのでしょうか。

石

国連食糧農業機関(FAO)の漁業白書によると、右肩上がりで増え続けてきた漁獲量が00年に9500万dを超えました。半世紀でなんと5倍です。ところが03年には、9020万dと初めて減少しました。零細漁業などの数字が入っていませんから、これを入れると1億2000万dに達しているはずです。水産資源として持続可能な漁獲量というのは年間、1億dくらいと言われていますから、それをすでに超えてしまっている可能性が高い。

山田

それは国家としても深刻な問題ですね。若い人たちが子育ての将来に不安を感じる社会になっているのでしょうか。そういえば、最近、海外の国際病院に行く機会があったのですが、来ている患者の国柄の違いに驚きました。欧米人は、たいていは患者が恋人や夫婦と一緒に来ていて、アジアの人たちも大半が家族みんなで付き添って来ていました。患者が一人ぼっちなのは、日本人でした。経済発展の豊かさの陰で、我々の家族の絆は、いつの間にか薄くなりすぎているのではないでしょうか。

石

世界では、先進地域の25カ国でも人口が減りはじめました。このままいくと、2050年には51カ国で人口が減ると国連は予測しているのです。とくに人口減少が目立つのは、ロシアなど旧ソ連・東欧圏、イタリアなどの南欧ですね。

山田

日本と旧ソ連・東欧圏に共通するものは何なのでしょうか。もしも急激な経済の発展が、旧来の文化や価値観を破壊し、未来に希望が持てない社会となっているのだとすると、手放しで発展を喜べないですね。

石

FAOが漁獲の対象となっている176種類の魚について調査した結果、漁業資源の25%はすでに枯渇し、35%が乱獲されている。全体の60%は緊急に管理する必要がある、と結論づけています。マグロやメカジキなどは激減していますし、日本では30年前には120万dの漁獲量があったスケソウダラが、00年には20万dに激減しています。スケソウダラをすり身にする釧路の加工業者が廃業に追い込まれ、100社ほどあったのが、10社ほどに減ってしまった。

山田

ミツバチの場合、一匹のミツバチが花の蜜を全部吸い尽くさないで残していると言われています。ほかの昆虫に配慮しているのか、花のためなのかは分かりませんが、きっと生態系を維持するための本能的な所作なのでしょう。私たちも魚の食文化を見直さないといけない時期に来ているのではないでしょうか。アフリカの国でも、すしバーがある時代ですし、健康食ブームと相まってまだ続きそうですからね。

石

このすしブームで、マグロなどの値段がものすごく上がっています。それが乱獲に拍車をかけて、国際自然保護連合(IUCN)は、4種類のマグロを絶滅危惧種に指定して、日本が猛反発したこともありました。「マグロよ!お前もか」という感じでしたね。

技術の進歩が乱獲にさらに拍車をかける。

山田

地中海でも魚が激減したと聞きますが。

石

ナイル川がダムでせき止められて栄養分が流れてこなくなり、プランクトンが少なくなってしまったことが原因の一つのようですね。以前はイワシの一大産地だったのに。そのイワシがいなくなると、それを食べる大型の魚も姿を消す。一方で周辺の人口の多い国々から汚染物質が川へ流れ込んでいる。

山田

私も子どもが釣りが好きで、国内外でトローリングなどの釣りをしたことがあるのですが、小さな漁船までもが魚群探知機を備えているのを見てびっくりしました。糸も自動で巻き上がるし、漁船のハイテク化はすごいですね。

石

魚群探知機もすごいですが、GPS(全地球測位システム)もすごい。魚の集まる場所がわかってしまえば、何回でも正確にその場所に誘導してくれる。魚は逃げ場を失ってしまいます。網も進歩しているし。

山田

底引き網は海底を根こそぎ持っていってしまうからいけないと聞いたことがありますが、魚にも問題があるのでしょうか。

石

インドとかタイの貧しい人々が雑魚をとって食べているのですが、沖のトロール船が根こそぎとっていってしまう。その小魚を養殖業者に売るのですよ。エビの餌にするために。

山田

私たちが食べているエビの裏側では、とんでもない量の雑魚が犠牲になっているのですね。ハマチなどの養殖も同じではないでしょうか。養殖に成功しても、資源の無駄遣いはなくならない。養殖の魚を飼育するには、どれくらいの小魚を餌として与えなければならないのでしょうか。

魚を増やすのに、魚を減らしている皮肉。

石

ハマチを1kg増やすのに、6〜7kg分のイワシが必要と言われています。つまり60kg分のイワシを食べさせてハマチ1匹分ということになります。

山田

ハマチ養殖のために、別の小魚が枯渇していく。皮肉ですね。

石

「混獲投棄」というのをご存じでしょうか。網や針にかかっても、売れないので海に捨てられる魚です。たとえば、はえ縄漁では、イルカとかサメとか、ときには海鳥やウミガメが食いつき、多くは死んでしまいます。この捨てられる割合を混獲率というのですが、それが8%とも25%とも言われる。エビのトロール漁の場合、エビ以外の混獲率は8割以上といいます。

山田

エビはお金になるけど、ほかの魚はお金にならない。だから捨てるというのは、経済的には効率的ですが、生態系から見ると非効率的なんですね。諸外国では、イルカを犠牲にしていないという証拠のマークが入った缶詰がよく売れているそうです。日本も見習うべきですね。ところで、ガラパゴスでアジア船がスープ用のフカヒレを切り取ったサメを捨てていて、問題になったという話を聞きました。

石

そうそう。ガラパゴスではサメが少なくなって、サメを天敵としていたアシカがものすごく増えましたね。島の船着き場が真っ黒に埋まるくらいに、寝そべっている。そのためにアシカが食べる魚が減りました。中国や台湾の所得が上がって、フカヒレという珍味が大衆化したためですね。海の生態系で最高位にいるサメが少なくなった影響は、気がつかないところで広がっているのでしょう。

みんなが知らず知らずに、資源を無駄にしている。

山田

食べるならまだしも、捨てていくというのは私たちには考えられませんね。私たち養蜂家というのは生き物を相手にしていますから、資源を捨てるというということは生物の命を捨てるのと同じことなのです。確かに売れ残ったものは、捨てた方がコストはかからない。捨てずに再利用するにしても知恵を絞らなければならない。だから、捨ててしまった方が経済的には効率的なのですが、私には、なかなかできない。ハチミツ飲料だったら、社員に飲んでもらうとか、安く買ってもらってその費用を社会活動に回すとか。体を維持するために命をいただくわけですから、捨てるというのは生命の冒涜になる。

石

食文化の話ですが、店の水槽で泳いでいる魚を調理して食べる活魚が、アジア全域に広がっていますよねえ。あれ、どうやって捕るかご存じですか?全部ではありませんが、青酸カリや爆発物で魚を一時的にマヒさせて獲ったものも混じっています。しばらく水槽に入れておくと、元気になる。いずれにせよ、付近のサンゴ礁や生態系に影響がないわけない。

山田

私、思うのですがね。海洋資源のような自然資源は、銀行に預けている貯金に相当すると思います。貯金を銀行に預けておいて、その利子である余剰生産物で食べている分にはまだいい。自分たちの周りの海だけでなく、日本が世界中の海に進出して漁をしているのは、まさに元金に手をつけて他人のお金を借りているような状態ではないでしょうか?

石

面白い例えですねえ。持続性を考えたら、利子で生活するのはいいが、元金に手をつけ始めたら資産を食いつぶしてしまう。

山田

そうですよね。借金が借金を呼ぶような漁業がおこなわれると、資源は枯渇してしまい、その先どうなっていくのか、わからない。怖いじゃないですか。

石

その通り。海というのは利子が高いのですよ。うまく利用してあげれば、多額の利子を生んでくれるはずなのです。目先の利益に目がくらみすぎたところはありましたね。

山田

元金を守るためには早く、漁業の環境整備をしなければならないということですね。自然に接している私たち養蜂家は、自然の変化がよくわかります。それが危機的な状況であるなら、声を挙げてアピールする責任があります。海も同じですよね。

石

食文化を含めて、漁業のあり方をもう一度見つめ直す時期はすでに来ています。

ものがたりは続く「ズワイガニは復活の兆しがみえた」
ズワイガニ(松葉ガニ)は京都の丹後地方が国内有数の産地。1960年代には年間約370トンの水揚げがあり、地域経済を支えていた。ところが、乱獲がたたって、80年には59トンにまで急減してしまった。漁期短縮、漁場制限をしたがほとんど効果がなかった。京都府が乗り出して大幅な漁獲規制を提案したが、漁民は反対した。1年間に100回を超える両者の話し合いの結果、1983年に一辺3メートル、重さ13トンの立方体のコンクリート製漁礁を水深 230メートルから300メートルぐらいの海底に入れた。これまで1000個以上のブロックが投じられ、このために底引き網で獲れなくなった。禁漁区が6 カ所設けられ、乱獲を減らすために網も改良した。2-3年後に効果が現れ、カニがとれはじめた。2003年には180トンを超えるまでに回復した。
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