山田英生対談録

地球物語

石 弘之氏×山田 英生対談

年々被害が大きくなる自然災害。これは、果たして天災か。

山田

私たちのように自然の中で動植物を相手にする仕事をしていると、環境の変化がよくわかるんですね。いま地球では、計り知れないほどの環境破壊が進んでいて、その原因が、私たち先進国の人々の文化になっている場合が多いのですが、私たちは「自分とは無関係」と勘違いしているように思います。温暖化や森林破壊といったような問題を突き詰めていくと、私たちがその原因の一端を担っていることに気付かされます。そんなとき、世界の環境問題に取り組み、それを日本に紹介されている石先生の本に出会ったのです。この破壊の現実を多くの人に知っていただくことで、一人ひとりが、もっと関心を持って取り組めば、子どもたちに住みよい地球をバトンタッチできるのではないか。そんな思いで、今回の石先生との対談をお願いしました。

石

世の中で起きるさまざまな問題の背後に環境問題が潜んでいることが多いのです。そして、その裏には、山田さんがおっしゃるように人間の存在があるんですね。

山田

個人ができることは限られていますが、まず知って考えることから始めたいですね。「地球ものがたり」は、いわば「私たち自身のものがたり」なのだと思っています。

石

今日のテーマは「自然災害」ですが、最近、立て続けに大津波や大地震が起きましたね。実は「人災」であることを裏付ける面白い数字があるんですよ。台風とか干ばつなどの気象学的災害は、1900年から10年間で32件だったのが、50年からの10年間は235件、90年からの10年間は2037件。実に90年の間に60倍になっている。地震や津波など地球物理学的災害も過去90年で9倍です。

山田

災害の数が、そんなに増えているとは驚きですね。

石

ところが、この数字にはからくりがある。災害が増えた、というけど、実は自然災害を引き起こすさまざまな事象の件数は、ここ数十年、ほとんど変わっていません。地表4万平方km当たり年約1回。なのに、なぜか「災害」は増えている。これは、国連が災害を、「10人以上の死者」「100人以上の被災者」といった被害規模で認定しているからなんです。

山田

つまり、台風とか地震の起きた数は変わっていないが、それに巻き込まれる被害者が増えているために災害として認定される数が増えているということですね。

石

そうなんです。まさに災害は人災だ、と言われるゆえんです。

山田

温暖化などの異常気象で自然災害そのものが増えているのではないかと思っていましたが。

石

スウェーデン赤十字が「自然災害―神の仕業か人間の仕業か」というレポートを出しましてね。「人口爆発や開発の結果、過剰農耕、土壌の浸食、森林の乱伐、山地の破壊による環境の荒廃で大きな被害につながっていく」と指摘しました。つまり小さな災害でも人間が、その傷口を広げてしまっているのです。

山田

なるほど。企業においても、なにかトラブルが起きたときに原因を検証してみますと、一見、不可抗力と思われるようなトラブルが、実は人が原因、「人災」であるようなことが多い。天災、つまり不可抗力ととらえれば防ぐことは難しいですが、「私たちが、どうすれば問題を防ぐことができるか」という視点で考えると、改善方法はいくらでもあることが見えてくる。これは災害でも同じ事が言えます。阪神大震災でも、戦後間もなく、神戸市が行った専門家による調査の中に、直下型の大地震に備えるべきとの提言があった。でも、生かされなかった。

被害を受けた人たちの背景に隠れている事実。

石

ある意味で人災ですね。米国南部のハリケーンも同じ事です。米国で台風の規模を著す数値は5段階です。ハリケーン「カトリーナ」は、初めは「5」でしたが、上陸時は「3」に下がった。けっして最強じゃない。それが、死者1300人、被災者50万人を超える空前の被災者数になった。

山田

なぜ被害が大きくなったんですか?

石

人口爆発と貧困が大きな要素ですね。カトリーナが襲ったミシシッピー河口のデルタ地帯は低湿地で、昔から洪水の常襲地帯ですね。そこに解放された奴隷たちが集まった。今回の被災者に、その子孫が多く含まれています。スラム地域で低所得者が密集していたから、ひとたまりもない。彼らは政治的な発言が弱いですから、防災を強化してほしいと申し入れても、整備されなかった。

山田

過去の教訓を生かせば防げたのですね。そういう意味でも人災なんですね。

石

大地震に見舞われたパキスタンも人口の爆発的な増加で、日本より多い1億6000万人が住んでいる。土地が不足して災害危険地域である山の急斜面まで開墾していった。もともと地震の多い土地で、今回はそうした村が直撃されたんです。

インド洋大津波の被害に、日本人もつながっている。

山田

アジアのリゾート地帯を襲ったインド洋大津波もショックでしたね。マングローブ林の破壊が被害に拍車をかけたようですね。

石

マングローブ林は、天然の防波堤と言われます。根が複雑に絡み合い、エビや魚の絶好の産卵場所になっている。そのマングローブ林を切ってエビの養殖場がつくられた。世界のエビの9割が東南アジアで養殖されていて、日本もその大輸入国です。

山田

今では日本中に外食産業の店ができて、安いエビを食べさせてくれるんですが、そういったエビも環境破壊に結びついているのかもしれませんね。

石

もうひとつ。日本の高級な炭は多くは国産ではないですよね。

山田

そういえば、マングローブ炭と書いてありますね。ということは、あれも国内で植林されたものではなかったんですね。

石

タイでは過去30年間にマングローブ林の87%が破壊された。インドは85%。国連の調査報告書でも、マングローブ林があれば今回の津波の被害はもっと軽かったはずだと指摘しました。

山田

インド洋大津波の被害を大きくした原因のひとつがマングローブ林の荒廃だとすると、エビ好きで、かつマングローブ炭を輸入している日本人にも無関係だとは言えませんね。

石

その通りです。

山田

実は以前、マダカスカルを訪ね、聞いたのですが、94年に日本は米不足のために、タイ米を買いました。そのため、国際市場で、米の値段が高騰したんです。大半のマダガスカルの貧しい人たちは米が買えなくなり、イモの一種であるキャッサバを食べていたと聞きました。日本人として恥ずかしかったですね、知らなかった事が。

災害と向き合ってきた歴史を日本人は忘れている。

石

日本は異常な地震発生国で、国土は地球の陸地面積の0・3%もないのに、世界のマグニチュード6以上の1割が日本で起きている。

山田

日本は古来から稲作のために、広葉樹の森を大切にしてきた。栄養のある水が、天然のダムとして、豊かに貯えられていました。しかし、最近では、針葉樹が植林された山ばかりで、少々の雨で、川は増水するし、土砂崩れも起きやすい。そして、ダムで防ごうとすると、川の恵みも破壊されてしまいますね。

石

日本人は、昔から災害と共生してきたはずなんです。日本の水田稲作は、水を確保しないと成り立たない。ところが年間に降る雨の3分の1は台風が運んでくる。その対策のためにも防災が発達した。武田信玄は、川の本流の堤に切れ目を入れたんです。大雨が降ると、水が切れ目から逃げるので本流が守られた。水浸しになる土地の周辺の農民には、地租を減免するなど補償しました。

山田

そんなに優れた知恵があったのですね。

石

戦国武将の加藤清正も阿蘇山から流れる2本の川の流れに時差を与えることで下流の流量を調節したのです。ところが、いまの日本の河川は全部コンクリートで固められてね。堤防をつくって逆に水害が増えたところもあるんです。古人の知恵が生かされていない。

山田

地震も多いですし、河川も多い国ですから、過去の知恵を世界に発信できるはずですね。

石

豪雪も災害のひとつ。山間地の高齢化で、雪下ろしや災害に対する社会的機能も失われている。

山田

この辺りも高齢化率が高いんです。青年消防組織である消防団などでも60歳くらいの人もおられます。若者が都会に出て、残された老人が災害に備えねばならない。

石

日本の市町村の財政状況からみて、さらに防災投資が難しくなっていくと思うんですよ。

山田

そういう議論は日本で行われていませんね。自然の変化を肌で感じている私たちのような立場の者こそ、その変化の中に含まれる危険性を社会に訴えていく責任があると思います。今日は、ありがとうございました。

ものがたりは続く「マングローブ植林大活躍」
大津波の後、いち早く現地に調査団を送り込んだ国連環境計画(UNEP)や各国調査団などの報告は、海岸にマングローブが茂っていた場所では被害が少なかったことを指摘している。こうした報告に勢いをえて、日本からもタイ、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、ベトナムなどに多くのボランティアが乗り込んでマングローブの植林を進めている。もともと、日本はマングローブの植林に熱心な国で、これまでもさまざまなNGO、自治体、企業が東南アジアやインド洋沿岸国にボランティアを送りだしてきた。昨年12月には「タイ・マングローブ植林実行委員会」によって10年間の活動記録をまとめた『100万本の海の森―笑顔がささえた十年、千人、100万本』(北星堂書店)という本も出版された。
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