山田英生対談録

予防医学が拓く未来

渥美 和彦氏×山田 英生対談

数値に一喜一憂。検査結果がすべて?

2014年に発表された健康とされる基準範囲

現代医学の目ざましい発展にもかかわらず、相変わらず増えているのが、がん、心臓病、脳卒中などの生活習慣病です。
これまでの医学は、病気になってから治す治療医学が中心でしたが、これからは、病気になりにくい身体をつくる予防医療が中心になってくるでしょう。
私たちが病気にならないためには、正しい生活習慣を守り、病気の早期発見・早期治療につながる健康診断を受けることが欠かせません。
ちょうど1年前、健康の新基準値をめぐる議論が大きな波紋を呼び、健康とは何かが問われました。
病気を予防するためには、健康診断をどう利用し、検査数値をどう読めばよいのか、
日本の統合医療の第一人者で、東大名誉教授の渥美和彦さん(86)と山田英生・山田養蜂場代表(57)が語り合いました。

検査結果に安心しない。落胆しない。
健康は、何よりも正しい生活習慣から。

「病気」とはいえない「老化」

山田

医療の世界が、治療中心から予防へと軸足を移しつつある中、企業の定期健診や自治体のがん健診、特定健診(メタボ健診)などが定着し、最近の健康意識の高まりから人間ドックを受ける人も増えてきました。診断方法も、これまでの採血や採尿検査だけでなく、CT(コンピュータ断層撮影法)やMRI(磁気共鳴画像法)、エコー(超音波検査法)、PET(陽電子放射断層撮影法)などを使った画像診断も、広く行われるようになりました。特に最近は超小型カメラを内蔵し、カプセルを飲むだけで腸の中が調べられる「カプセル内視鏡」などの検査も珍しくありません。

渥美

近年の医療技術の進歩はめざましく、新しい検査機器や検査方法が次々と出てきましたね。血液一滴で多くのがんやアルツハイマー病が瞬時に診断できる日も近いでしょう。でも今は、検査をしたからといって必ずしも病名が判明するとは限りません。例えば、「老化」は、加齢に伴って起こる心身の不調であり、厳密には「病気」とはいえません。ですから老化に伴う不快な症状は、病院に行っても「病名」がつくことはまずない、といってもよいでしょう。にもかかわらず、自分で「病気」と思い込んで、検査を受け続け、医師の処方した薬を飲み続けている人がいかに多いか、びっくりします。

体への負担が大きい検査

山田

どこの病院に行っても待合室は、お年寄りでいっぱいですね。ひところ、病院のサロン化が話題になりましたが、高齢になると、「足腰が痛い」「眠れない」などの症状を抱え、病院に来るケースが多いようです。

渥美

確かに体に不調を抱えていれば、不安になり、医師の指示に従っていろんな検査を受けたり、薬を飲む人もいるでしょう。でも、「検査疲れ」という言葉があるように、検査で患者さんが受けるダメージは少なくありません。特に高齢者であればなおさらのこと。例えば、内視鏡検査や血管造影検査などは、肉体的には結構きつく、MRIも磁場が生じるので心臓に負担がかかります。また、CT検査による被ばく量も軽視できません。

山田

医師から「念のため」と勧められ、とりあえず受けた検査の結果は、「異状なし」の場合がほとんどではないでしょうか。本当に検査をする必要があるのか、疑問に思うときがあります。なぜ、こうも検査が多いのですか。

「エコ医療」を目ざす

渥美

医師も患者も、データに依存しすぎている気がします。しかも、最新の検査機器によって、より細かい分析が容易になったことも一因で、患者も検査によって安心を得たいという思いがあるのではないでしょうか。また、CTやMRIの価格は、1台数億円ともいわれ、導入した病院は、「元を取るため」に最新機器をフル活用しなければなりません。こうした医師と患者の双方のニーズが、検査増加の背景にあると感じます。医療の高度化自体は、国民の健康増進のために大いに歓迎すべきことですが、その一方で、医療費増加の大きな要因になっています。私は、これからの医療のあり方を考える組織として「未来健康共生社会研究会」をつくり、ぜいたくな今の医療を見直し、経済的、身体的な負担を軽減する「エコ医療」を目指すよう提唱しています。

山田

なるほど。医療費の増加が、国家財政を圧迫している一因であることを考えれば、これからは、コストのかからないエコ医療が必要になってきますね。健康診断にしても、医師の勧めに従って「あれもこれも」と不要な検査まで受けるのは、いかがなものでしょうか。

渥美

私も以前、入院した際、いろんな検査を勧められました。中には、何のための検査かわからないものもあり、疑問を感じた私は、医師に「何のために必要なのか」を一つひとつ尋ね、医師がしっかりと説明できない検査は、きっぱり断りました。身体的、精神的に負担を強いられるのは、ほかならぬ患者さんです。「念のため」などというあいまいな理由による検査は、理解できません。事前にきちんとした説明を受け、不安に思えばさらに詳しく説明を受けるのも良いでしょう。

年に一度は人間ドック

山田

なるほど。最近は、職場や自治体による健診だけでなく、もっと詳しい結果を知りたいと人間ドックを受ける人が増えてきました。今では、インターネットで簡単に予約できるうえ、豪華な食事付きや高級ホテルを思わせるような立派な施設も登場してきました。女性の受診者には「子連れOK」や婦人科の健診には女性スタッフだけで対応するなど、至れり尽くせりのサービスをするところも、あるそうです。ところで、人間ドックを受診するとしたら、どのくらいの頻度で受けたらよいですか。

渥美

医者としては、男女を問わず、40歳前後の厄年を迎えたら一度、受けたほうがよい、とアドバイスしますね。この年齢になると、加齢による体質の変化が現れ、若い頃のように無理が利かなくなってきます。それ以後は、1年に1回受ければ十分でしょう。私もそうしています。できれば毎回、同じ病院で受けるようにし、医師が経過を診られるようにしておくと、安心ですね。

山田

健康診断では、「異状なし」の結果にほっとし、「要 精密検査」の結果にガックリする人をよく見かけます。健康診断といえば、日本人間ドック学会などが、昨年4月に血圧やコレステロール値、肥満度などについて行った大規模調査の結果の発表が大きな波紋を呼びました。その発表では、従来の健康の基準値が大幅に緩和され、これまで「病気」とされてきた人が、新基準値では「健康」になる人も出てくるわけですから、患者さんにとっては一大事。どちらの数値を選べばよいか迷ってしまいます。

数値に振り回されない

渥美

少し騒ぎ過ぎのような気もしないではありませんが、健康への関心が高まってきた証拠であり、議論は大いに結構なこと。人間というのは、数字に弱いもので、それまでまったく気にかけていなかったことも目の前に数字として見せられた途端、気になり始める。健診結果などは、その最たる例で、血圧や血糖値、コレステロール値、γ-GTP値などを見て「上がった」「下がった」と一喜一憂している人が少なくありません。患者さんの気持ちは、よくわかりますが、「上がった」「下がった」の目安になる「基準値」とは、健康とされる数十万人の平均値に過ぎません。

山田

でも患者の立場からすれば、「上がった」「下がった」は、とても気になりますよね。

渥美

そうはいっても、人間の体は一人ひとり違っており、体のいろいろな機能を示す数値も人それぞれです。もともと、高い人もいれば、低い人もいる。極論すれば、「平均値」は、統計上の数値です。その基準値に自分の数値を突き合わせ、「正常」「異常」のどちらかと判断するのは、いかがなものでしょうか。基準値から多少ズレたからといって「健康」「病気」と決めつけるのも、考えものです。日頃から自分の身体の状態を把握しながら、数値が変動した場合は、生活習慣を変えるなど、「セルフケア」の思想が大切です。

山田

要は「検査結果に振り回されない」、ということですね。はっきり「異常」と出た場合は、その原因となっている生活習慣を見直し、変えていく。自分の健康を守るため、基準値はあくまで目安として賢く活用していくことが大切ですね。

渥美 和彦(あつみ・かずひこ)
(財)渥美和彦記念未来健康医療財団理事長・日本統合医療学会名誉理事長・東大名誉教授:1928年大阪生まれ。1954年東大医学部卒業後、人工心臓やレーザー治療などの研究に取り組む。1984年、人工心臓を装着したヤギの生存世界記録を達成。東大医学部教授などを経て現職。
◎ホームページ http://www.atsumi-kazuhiko.org/
渥美和彦さん
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