山田英生対談録

予防医学 〜病気にならないために〜

安保 徹氏×山田 英生対談

病気のメカニズム

時代とともに病気も変わる

山田

私は普段、健康食品をお客さまにお届けしていて感じるのは、現代人の体がどんどん弱くなって、免疫力が落ちているような気がしてなりません。これからは、生命力そのものを強める医療が重要になってくると思っていたところ、先生の「免疫革命」をお読みし、これからの時代は、まさに予防医学の時代との思いを強く抱きました。先生は、「免疫力を高めれば、あらゆる病気は予防できるし、治すことも可能」と語っておられますが、日本人の病気も、最近の食生活や生活スタイルの変化で、ずいぶん変わってきたような気がしますが・・・。

安保

やはり病気の内容も原因も、時代とともに変わりますね。終戦直後の昭和20年代や、その後の30年代になぜ、私たちが病気になったかといえば、重労働や寒さ、ひもじさ、といった生きるうえでの辛さがありました。例えば、コメづくりにしても、すべて手作業で水田の雑草取りもお年寄りが腰を90度に曲げて草を抜いていました。住む家だってすき間風がビュービュー入り込み、食べるものも満足になく、子どもたちはいつもお腹を空かせていたでしょう。こうした過酷な生き方が体に負担をかけ、病気を招いていたのです。

山田

考えてみると、当時の生活は本当に大変なものだったのですね。

安保

今は農作業も家事もすべて機械がやってくれるし、スーパーに行けば、ごちそうの山だしね。寒さだって暖かい家や暖房器具の普及で克服できたでしょう。

山田

生活が楽になって病気の症状もだいぶ軽くなりました。例えば、脳卒中にしても以前なら命を落とすケースも多かったのに、今は回復も早く、重度の後遺症も少なくなりました。

延びる勤務時間新たなストレス

安保

たしかに、重労働、空腹、寒さという生存ストレスは、減りました。だからといって、病気を起こす体の負担がすべて消えたかといえば、そうではありません。安い労働力で、いろんな製品を生産する中国や東南アジアとの競争が激しくなって今、日本のサラリーマンは以前にも増して長時間労働を余儀なくされています。公務員だってそうですよ。こうした長時間労働は、形を変えた重労働であり、その働きぶりは、明らかに行き過ぎですね。過酷な労働は、やがて体力を消耗させ、病気を引き起こす原因になるんです。

山田

最近のインターネットや携帯電話などの普及により、私たちの暮らしは大変便利になりました。便利になると、病気は減るように思いがちですが、文明病というか、時代に即した新たな病気が出てくるんですね。例えば、花粉症とかアトピーですね。

安保

その通りです。私たちがこれまでに克服した生存ストレスとは別の、まったく予期しなかった辛さが押し寄せ、病気の新たな原因になっているわけです。人間、豊かになると穏やかに生きられる反面、いろんなストレスに負けるんですね。例えば、過保護なくらい大事に育てられた子どもたちに蔓延しているのが、アトピー性皮膚炎や気管支ぜんそくなどのアレルギー疾患です。何不自由なく育てられた子どもたちは、リンパ球過剰になって、ちょっとした気候の変化でも風邪を引きやすく、ハウスダストにも過敏に反応し、虫に刺されただけで赤く腫れあがる。心の病気だって増えているでしょう。外部のストレスに過敏に反応してしまうんですね。

山田

私たちは、ともすれば遺伝子の異常が病気の原因のように思いがちですが、先生の提唱される「新しい免疫学」では、人間の病気は、どうして起きるのでしょうか。

安保

今の医学は、人間の遺伝子とか、遺伝子から作られる分子などの分析研究ばかりに目が向きがちです。確かに細胞の働く仕組み自体は実に精妙にできていて、興味深い。しかし、こうした流れの中に病気の謎があると考えるのは方向性が間違っていると思いますね。生命体は38億年もかけて進化してきたし、これからも進化し続けるわけです。そうした生命体が遺伝子異常を繰り返し、生きている途中に破綻してしまう、という考え方は、ちょっと行き過ぎじゃないかと思いますね。むしろ、人間は本来、生まれたら、生きられるような仕組みにできているんですが、生き方の無理や環境の苛酷さ、人間社会のつくり出した複雑な要因によって心と体に過剰な負担がかかり、能力の限界を越えたときに、病気になるわけです。こうした考えを持たないと、いつまでたっても病気の謎にはたどりつけません。

山田

意外とわかりやすい考え方ですね。

安保

そう思うでしょう。あまりにも簡単なので、なぜこの理論に気づかなかったのか不思議なくらいです。私の言う生き方の無理とは、「働きすぎ」、「心の悩み」、「薬の飲みすぎ」などを指すのですが、こうしたストレスが病気をつくるという考え方に立てば、病気はもっと治せるし、病気の予防も可能なんです。

山田

それでは、ストレスがかかり過ぎると、なぜ病気を招くのですか。

怒るのは交感神経が緊張

安保

そのカギは、自律神経にあります。私たちの体は約60兆個の細胞から成り、その細胞を無意識のうちに調整しているのが自律神経なんです。しかし、大切な役割を果たしている割には仕組みは単純で、交感神経と副交感神経の2つの神経が、私たちの心と体のすべての行動を支配しているんですね。交感神経は主に昼間の活動時に働いて体調を興奮させ、一方、副交感神経は休息時や食事の時に優位に働いて心身をリラックスした体調に整えてくれます。例えば一番、交感神経が緊張するのは、頭にきて、怒った時ですね。血圧は上がるし、脈拍も増える、呼吸だって荒くなる。よく体をワナワナ震わせながら、ものすごい勢いで怒っている人を見かけるでしょう。あれは血圧が200を超えて、脈拍に合わせて体が揺られているんです。

山田

無意識のうちに、震えているんですね。

安保

そうです。怒りぐせのある人が、怒っている時は、別に相手が悪いことをしたから怒っているんではないんですよ。自分の気持ちに余裕がなく、感情を抑えられないから怒っているんです。

山田

なるほど、そんな気がしますね。それにしても、人間の体は、実にうまくできていますね。

安保

そう思いますね。私たちは交感神経、副交感神経がバランスよく働いているときは、体調もよいのですが、長時間労働や悩みすぎなど生き方の無理が続くと、交感神経が緊張して自律神経が乱れ、免疫力が低下して病気になるんです。特に日本人は、山田さんのようにまじめで、頑張り屋さんで、責任感の強い人が多い。だから、「会社のため」「家族のため」などと言って、つい働きすぎてしまう。山田さんも短期間で業績を伸ばされ、会社を大きくされたわけですから、これまで働きすぎや無理のし過ぎもあったと思いますが・・・。

山田

先生の言われる言葉が、胸にズキンと突き刺さりますね。別にミツバチを飼っているからではありませんが、たしかに若いころは、「働き蜂」のように働いていました。仕事熱心な父の遺伝子を受け継いだこともあるでしょう。その父が1988年10月、脳溢血で倒れ、その2日後には自宅を全焼するという災難に遭いました。私が31歳の時で、予期せぬ不幸でしたが、私はこの二重の災難を大きな試練と捉え、死に物狂いで働きました。以後10年間くらい、無茶苦茶、働きましたね。結局、この時の経験が思いもよらなかった事業の発展につながったわけですが、今、振り返ってみると、自分でも「無理したなぁ」と思いますね。幸いにも、若かったせいか、これといった病気にはかかりませんでしたが、それでもストレスはずいぶんたまりました。

安保

本当に日本人は働くことを美徳と思っているんですね。日本では公共職業安定所のことを「ハローワーク」というでしょう。あれは、「仕事(ワーク)にハロー」と読めるくらい、日本人は仕事が好きなんですね。その点、欧米では仕事のことを「レーバー(labor=労働)」と呼んでいます。仕事は大事だけど、家族を支えるために働く、という考え方です。だから、最低限の仕事はするけど、時間がきたら家にサッサと帰って家族とともに団欒を楽しむわけですね。まじめに頑張る日本人の国民性は、すばらしいけど、危険が我が身に迫るまで働くのは、ちょっと行き過ぎですね。

リンパ球減れば免疫力も落ちる

山田

耳が痛い言葉ですね。たしかに、稲作農耕の長い歴史を持っていた日本人は、集団や社会に対する帰属、貢献の文化を持っているように思います。では働き過ぎたり、悩みすぎたり、過度のストレスを受けると、私たちの心と体はどう反応するのですか。

安保

免疫力の中心的な役割を担っているのは、血液の中の白血球なんです。私たちが働き過ぎなどで過度なストレスを受けると交感神経が緊張し、白血球の中の顆粒球が過剰に増え、その分リンパ球が減って免疫力が落ちるんです。顆粒球が増え過ぎると、体内の常在菌を攻撃して化膿性の炎症を起こし、活性酸素を出して組織を破壊します。また、血管が収縮して血行障害になり、高血圧や糖尿病、心臓病、胃潰瘍などいろいろな病気を発症する流れに入るわけです。

山田

ストレスは怖いですね。

安保

逆に、リンパ球が多すぎても体によくありません。例えば、たくさん食べて運動しないとか、楽をし過ぎると、副交感神経優位でリンパ球が増え、免疫過剰となって健康が破綻することだってあります。その代表がアレルギー疾患です。

山田

それでは、病気にならないためには、どうしたらよいのですか。

安保
今や国民病ともいわれる花粉症。副交感神経優位でリンパ球が増え、免疫過剰となって起きるアレルギー疾患のひとつといわれる

今や国民病ともいわれる花粉症。副交感神経優位でリンパ球が増え、免疫過剰となって起きるアレルギー疾患のひとつといわれる

まず、働き過ぎや悩みすぎなどの無理な生き方をやめることです。特に、男性は仕事上のストレス、それも働き過ぎで病気になるケースが断然多い。仕事が大事なのはよくわかりますが、ガンや脳卒中などで倒れては元も子もないでしょう。元々、私たちの体は急に大病するわけではありません。大病になる前に、「もう体が大変だ」と悲鳴をあげるようになる。例えば、肩が凝る、腰が痛い、翌日まで疲れが残るといった症状は、悲鳴のサインなんですね。こうした体の悲鳴を聞いたら、「自分は今、無理をし過ぎた生き方をしている。このままでは破綻するかもしれない」と危険を察知するのが大切なんですね。察知したら、まず30分間仕事を早く切り上げ、その分、30分間、睡眠時間を増やす。いきなり1時間も減らすのは難しいでしょう。それで慣れてきたら、仕事の量を徐々に減らす。こうした生き方の改善を、まず心がけてほしいですね。

山田

実はこのような仕事のリズムの改善は、私も実際に試してみました。日ごろから、ストレスのせいか、視力が落ちたり、肩凝りなどがしました。ところが、ある時期から肩凝りがあまりにもひどく、耳鳴りや、眠れない、といった症状が悪化し始めたのです。先生のおっしゃる"体の悲鳴"が聞こえた気がしました。「これではいかん」と思い、それまで夜12時前後まで働いていたのを、午後10時に変え、さらに8時、6時といった具合に仕事時間を減らしていきました。今は、午後4時半に仕事を終える目標を立てていますが、残っていた仕事を片付けていたりすると、結局、午後5時、6時になってしまいます。それでも、ひところと比べたらだいぶ楽になり、自分の時間も確保できるようにはなりましたね。

安保

それはよかったですね。でも、山田さんのような頑張り屋さんには、ちょっと無理かもしれませんが、本当は仕事も人生も「7割主義」をモットーにするのがいい、と私はいろんな人に勧めています。完璧主義でやるから時間がどんどん削り取られ、夜も心が休まらず、眠れなくなるわけです。時には手を抜くことも必要ですよ。

人生楽しむ術知る今の若者

山田

ありがとうございます。なるほど先生のお話を聞きますと、ストレスと健康の関係が非常によく分かる気がいたします。しかし、最近、当社の若い人たちを見ていると、ストレスをストレスと感じていないところがありますね。あいかわらず仕事に打ち込む人もいますが、割と人生を楽しむことを知っていて、仕事だけにのめりこむ人は減ってきたような気がします。さてストレスといえば、職場や学校などでの人間関係も悩みの種ですね。

安保

人間関係が、うまくいかなくても、あまりくよくよ悩まず、軽く受け流せばいいんです。でも本気で対立した時などは解決の方法を探らなければなりません。例えば、職場で折り合いの悪い上司がいて、職場で解決できなければ、もっと別のところへ持ち込むとか、どうしても解決できなければ、会社を休むとか、最悪の場合は仕事を変えてもらうことも考えた方がいいですね。ずっと悩み続けることは、長時間労働に匹敵するくらい危険だということをぜひ知ってほしいですね。

(企画制作、写真提供:毎日新聞社広告局)

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