ミツバチの童話と絵本のコンクール

梅雨明けの夏空

受賞東 里見 様(神奈川県)

 七月中旬の学校の休み時間、夏奈は憂鬱だった。
その理由は一つ。
雨が降っているからだ。もう梅雨はとっくに明けたはず。でも、空を見上げても、やむ気配は全くない。たとえ止んだとしても、校庭が乾かないから、外で遊べないのだ。
「あーあ。」
外に向かっていってみても、雨はやまなかった。こんな雨の後は、虹でも見たいものだと、夏奈は思った。
 学校の帰り夏奈は、明日は雨がやみますように、と祈った。明日も雨に降られては、困ってしまうから。夏奈が水色の傘をくるくる回しながら、ぱしゃっ、と水溜りに入ったとき、近くの花壇に眼がいった。花壇には、きれいな夕顔が咲いている。夕顔は、憂鬱な夏奈の気持ちとは裏腹に、明るく堂々と咲いていた。濃いピンクの夕顔は、まるで真夏の太陽にも思えるほどに。
夏奈は思わず、
「明日晴れにしてね。」
と、夕顔に呼びかけていた。夕顔の花一つ一つを見ていた夏奈は、あれっ、と思った。一つの朝顔に、小さなミツバチが止まっていたのだ。そう勉強のできない夏奈も、ハチは水にぬれたら飛べなくなることぐらい知っている。
夏奈は、自分に見落としがあるのかもしれないと思い、もう一度ゆっくり見ていった。すると、他の五つの花にもハチがいることが分かった。夏奈は、まだ見ていなかった花を見に歩き出した。
すぐに、もう一匹は見つかった。そして、思う。何でもう一匹いると思ったんだろう?と。夏奈は、考えた。考えて、考えて、やっと分かった。虹は七色だからだ。無意識のうちに、虹が見たいという気持ちがリードしてしまったのかもしれない。
夏奈は、止まっているミツバチをもう一度しっかり見た。夏奈の眼には、気のせいか一匹ずつ、赤、ピンク、黄色、と羽の色が虹の色に見えた。
ふと空を見上げると、自分が借りっぱなしの本を返していないことに気が付いた。その本の返却日は、とっくの昔に過ぎている。夏奈は仕方なく、本を返しに再び校舎へと歩いていった。

 図書室に着いた夏奈は、大きく深呼吸した。こんなに遅れて、怒られるのは承知の上だ。
がらっ、と図書室の扉を開く。まっすぐとカウンターへ歩いていった。
幸い、雨の中持っていた本はぬれていない。夏奈は、ほっ、とため息をついた。
「すいません、この本かえします。」
図書委員会の人に、夏奈は声をかけた。
「あー……この本の返却日、もうとっくに過ぎてますよ。今度からは、きちんと返してくださいね。」
図書委員の人は、面倒くさそうに言って、またさっき読んでいた本を開いて読み始めた。
夏奈は、あまり怒られなかったのでよかった、と考えながら図書室をあとにした。

 校舎から出た夏奈の足は、自然とあのミツバチのいる、花壇へ向いた。
さっきより足取りは軽い。だから、地面に溜まった雨水が、ばしゃばしゃ、とはねた。夏奈は、お母さんに怒られることを確信した。
 花壇に着いた夏奈は、驚くべき光景を眼にした。
ミツバチたちの乗っている夕顔が、虹色になっているのだ。夏奈が眼をこすってみても、変わらない。夏奈はこの不思議な光景を、ずっと見ていることにした。
しばらくして、ミツバチたちが、夕顔の蜜を吸い始めた。すると、不思議なことに、夕顔の色がどんどんなくなって、ミツバチに移っていく。
「わぁっ!」
 夏奈は、思わず声を上げた。
ミツバチたちが、一斉に飛び立つ。ミツバチたちが飛び立ったあとには、一匹一匹の、赤やピンクの色が残っている。七匹のミツバチが飛び立ったあとには、虹ができているのだ。そして、その虹が出たところは、切り開かれたように、青空が見える。
夏奈は、この様子を瞬きするのも忘れてじっと見詰めていた。ミツバチたちは、地球の丸い形にそって飛んでいく。雨上がりの空に、大きな虹ができた。
「すごーい!ちょうきれい!」
夏奈は、思わずこういった。
 もうすぐ、夏が来ようとしている。
夏は、夏奈の大好きな季節だ。夏の、あの真っ青な空が、暑さをものともせずに働いている虫たちが、宿題先にやるぞ!と張り切っている夏が、夏奈は大好きなのだ。
夏奈は、夏への第一歩にふさわしい虹だ、と思った。そして、
「ミツバチさん、素敵なプレゼントありがとう。」
と、大きな虹に向かっていった。

明日は、夏奈の誕生日だ。虹色のミツバチは、空から夏奈へのプレゼントだったのかもしれない。

夏奈はもう一度、虹を見た。間違いなく、美しいと、思った。

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