ミツバチの童話と絵本のコンクール

世界一のロールケーキ

受賞丹治 花子 様(京都府)

 大親友がいなくなることが、こんなにもさびしいことだとは思わなかった。
 いつもならこの時間、由実と長電話して、それでいっつもお母さんに注意されてた。
 でも、今はだれも話し相手がいなくて、なにもやることがない気がしてちょっと困る。
 全ての原因は今日の学校帰りに私の大親友だった田鍋由実と私、山岡亜夜夏はいつものように、一緒に帰ってた。由実とはおさななじみで家も同じマンションの二つはさんでとなりだった。
「ねぇ、今日の宿題書くこと決まった?」
今日の宿題っていうのは、『自分の夢』を書いてくることで、毎年必ずある。
「決まったよ。」
「へ?うそ!なに、なに。」
「パティシエ。」
「パティシエ?なんで?」
私は由実の言ったことが信じられなかった。自分は何も決まってないのに、私だけ、おいてきぼりのような気がした。
まさか由実にそんな夢があったなんて???

「私ね、おかし大好きなの。」
由実がいった。
「それだけ?」
「ううん、それで、ケーキ屋さんの奥でケーキ作ってる所、見るとさぁ、私もやってみたい!って思うし、自分の作ったケーキがショーウインドウにかざられてる所、一度でいいから見てみたいしね。」
「なに言ってんの、そんなのムリに決まってるでしょ。」
「たしかに今はムリかもしれないけど、これからがんばるから大じょうぶだよ。」
「大じょうぶなわけないでしょ。由実、料理もできないし、不器用だし。」
「そこまで言うことないでしょ!亜夜夏のイライラ、私にぶつけないでよ。」
由実はそう言って走ってった。
 私はすごくくやしかった。それは由実の言ったことが、とても正しかったから。由実はいっちゃったし、私は一人でとぼとぼ歩るきながら考えた。由実の言ったことを。そして、私の言ったことも。
由実は『パティシエになりたい』って言ってたけどなんで私は由実の夢を応えんできないんだろう。自分でもよく分からない。本当にイライラのせいなのか。だいたい、イライラの原因は由実にもある。由実はいつも能天気でなやみもなくて、とうぜん、夢もないと思ってた。でも由実は、考えてたんだ。私より由実は大人だった。
 とか、なんとか、考えてるうちに、家について、宿題して(ぜんぜん手につかなかったけど)じゅくに行って、帰り、私は一人でいたかったけど、
「おい、山岡」(うわっ最悪)
「なに?本田、今いそがしいんだけど」
「お前、今日田鍋とケンカしてただろ。」
「別に、ケンカってほどじゃないけ……」
「人の夢をかってに、きめつけるのはよくないと思うぜ」
「本田、きいてたの」
「あんだけ、声デカかったら、だれでもきこえるよ」
「とにかく、本田には関係ないの、そんなことより、勉強したら。」
「それは山岡もだろ。」
私と本田はじゅくがいっしょで、うちのじゅくはクラスがランク別にわかれてて、私と本田はおちこぼれクラスでじゅけん合格率が0に近い。
「山岡は、ちょっとは反省しようとか思わないわけ。山岡だっていやだろ、夢にケチつけられたら。」
「それは、まぁね。」
「ふぅーん、そっか、じゃっおれ帰るわ。」
はぁ……夢ねぇ。

 その日の夜、一人でじっくり考え直した。私がなにをしたいのか、まだ子供だけど、今やりたいこと、あこがれること。そして由実にあやまろうと思った。じゅくの宿題をすっぽかして、その日はぐっすりねた。
「亜夜夏、早くおきなさい。学校おくれるわよ」
「はぁ〜い、今、いくから」
 朝ごはんをいつもより早めに食べて、由実にあやまる練習をした。学校の授業はぜんぜん頭に入らなかった。由実にあやまるチャンスがなくて、今日は、ムリだなって思った時、
「亜夜夏、今日、学校終ってから、ウチ、きてくれる。」
「へ、いいけど」
びっくりした。由実に声かけられて、あんなに、きん張したのはじめてだ。
 由実ん家のげんかんで三分ぐらいかたまってた。
「ピンポーン」
「はーい、あ、亜夜夏、入って、入って」
由実の声は意外にあかるかった。
「あ、いいにおい」
私の大好きなハチミツのにおいがほのかにした。
「いまね、ケーキ焼いてるの、亜夜夏ハチミツ好きだったよね、ハチミツのロールケーキなんだけど」
「ふーんそうなんだ。」
「うん、それからさぁ、この間はさぁ、ごめんね、かってに、熱くなっちゃって……」
「ううん、私の方こそ、ごめんね、由実の夢応えんするから」
「ありがとう。」
由実はニッコリ笑っていってくれた。うれしかった、すごく。
「チーン」
あっ焼けた。由実がロールケーキをきれいに、きりわけてくれて、私の前に出してくれた。
「練習に焼いてみたの、亜夜夏に食べてもらいたくて」
そっか、私のためにつくってくれたんだ。
「じゃあ、いただきます。」
ケーキを口の中にいれると、とっても甘くて、おいしかった。見た目は少しこげてたけど、由実にしてはよかったんじゃない。こんどは、私の番だ。私があやまる番。
「ねぇ由実」
「なに、あ、ケーキどうだった?」
「おいしかったよ、ちょっとこげてたけど。」
「あー、そうだよね。」
「でも、おいしかったよ。それより、あの……」
「なに?」
「ごめんなさい!」
「由実のケーキおいしかったよ。あんなにがんばってるなんておもわなかったから……」
「いいよ、もう。」
「ありがとう。」
 うれしくて、私の目からなみだがこぼれた。
 それから、私が由実の家に遊びに行くと必ずハチミツロールケーキを出してくれて、私たちは、それを、いつのまにか、『ハチミツロール』ってよぶようになってた。
 あっそうそう、一ついいわすれてたことがあって、例の宿題、私の夢を書くやつ。

『私の将来の夢は、保育士になることです。』

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