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それから、ぼくらは、何度も魔球の投げそこないをおいかけた。
ぼくが肩で息をするようになっても、キャッチは、もう一球、もう一球と、ピッチングの練習をやめようとしない。ものすごいスタミナだ。
「こんなところまできちゃったね」
ぼくらは、れんげ畑をかけぬけて、小高い丘の上にいた。
丘のむこうに、木造の小さな建物が見えている。ひろい運動場がある。運動場には、てつぼうと、砂場と、そして、野球のボールがころがっている。
「あそこが、ここらで唯一の小学校よ。小さいけれど、ちゃんと野球部もあるわ」
キャッチは、ほらっと、ゆびさした。見ると、ちょうど、ぼくと同じくらいの背丈の子供たちが、校舎からとびだしてくるところだった。人数は、一、二、三、四…。
「部員はたった八人よ。ケン。万年補欠組みを卒業ね!」
キャッチは、ぼくの背中を叩いた。
ぼくもてれながら叩きかえす。
すると、小さな音がきこえた。なにかが穴からとびだしたような。
「ケン?」
ママの声がした。手に持っているボールをふしぎそうにながめている。
「キャッチ!」
ぼくはさみしくなった。
まだ魔球だってマスターしていないし、ひっこしてきて、はじめての友達なのだ。もっといっしょにいたかった。せめて、今度あそぶ約束がしたかった。
「ぶぶぶぶぶぶぶ…」
ぼくの呼びかけに答えるように、一匹のミツバチが、ママのかげから現れた。
ミツバチは、ぼくの鼻の前で、まるを二つくっつけたダンスをおどった。まるで、八の字魔球を、もっと練習しておきなさいと言うみたいに。
「わかったよ」
ぼくがうなずくと、ミツバチは、今来たれんげ畑のほうへ帰っていった。
「ケン。ここにも野球部があるみたい。よかったわね…」
ママは校庭を見おろして、ぼくの頭をくちゃくちゃっとなでた。それから、しんじられないことを口にした。
「キャッチボールでもする?」
「ほんとう?」
ぼくは、おおはしゃぎで手をあげた。
ママは、しんけんな顔でふりかぶった。大きなフォームで、ゆったりと腕をふる。ねらいすましたボールは、ぼくのはるか頭上をとんでいった。
「あちゃー」
ママは頭をかかえた。ぼくの運動オンチはママに似たのだ。
「いいよ。ボールをとってくる」
ぼくは坂をすべりおりて、小学校の運動場にはいった。すみっこの草むらでボールをさがしていると、ふいに、うしろから声がした。
「ボールならここだよ」
ふりむくと、一人の男の子が立っていた。
「ありがとう」
ぼくはボールをうけとった。
すると、その子は、みんなのもとへ走っていってしまった。運動場のまんなかで、なにやら顔をつきあわせて、作戦会議がおこなわれている。もどろうとすると、
「いっしょに野球をやらないか?」
それは八人の声だった。よこにならんで肩をだきあってゆれている。ぼくはふりかえってママを見た。ママは、行きなさいと、手で合図している。
ぼくは、キャッチのくれたボールを、ズボンのポケットにしまった。それから、手まねきしている新しいチームメイトのもとへかけよった。