ミツバチの童話と絵本のコンクール

みつばちミツオ、インドへ行く

受賞きり こかぶ 様(神奈川県)

 今日はトラの子どもたちが楽しみにしている「いきなりコンテスト」の日です。その日の朝、校長先生からなにをきそうかが発表されます。
「オッホン!今回は…」
 子どもたちはひげをピンとさせて身を乗り出しました。
「『カレーの大食い大会』です」
 ヤッターというよろこびの声がおこりました。みんな、カレーが大すきなのです。
「オッホン、ただし、とびきり、かれえカレーですよ。一時間で一番多く食べたら、ゆうしょうです。では、クラスごとにせんしゅをふたり出してください」
 ミツオのクラスは話し合いをしました。まず、もんくなしでせんしゅに決まったのは一番の大食いトラゾー。しかし、もうひとりがなかなか決まりません。
「トラキチくんはどう?」
「きのう、やきにくを食べすぎておなかをこわしているんだよ」
「じゃあ、トラゴローくんは?」
「きのう、ライオンとけんかしちゃって…」
 トラゴローはめんぼくなさそうに、ギプスをはめた手を見せました。これではおさらもスプーンも持てません。ミツオは体が小さすぎるし、女の子たちは体重を気にして、ダイエット中だからといやがりました。
「となると、あとは、トラジ…」
 みんなはため息をつきました。気の弱いトラジがかてるとは思えません。トラジもだまったままです。でも、ほかにいないので、けっきょくトラジが出ることになりました。

   カレーがはこばれてきました。火のように、まっかです。
「ぼく、ダメ…」
 トラジはなきそうになりました。
「よわ虫!おれは百ぱい食べてやる!」
 トラゾーが力強く言ったので、女の子たちがキャーキャー言いました。
「トラゾーくんって、すてき。やっぱり男は強くなくっちゃね。それにくらべて…」
 トラジはシュンとなりました。

  「では、はじめます。ヨーイドン!」
 校長先生の合図で、せんしゅたちはいっせいに食べ始めましたが、すぐにさけび声があがりました。
「かっらーい!」
 中には、カレーに水をじゃぶじゃぶかけているせんしゅもいます。そんな中、トラゾーはがんばっています。もう十ぱい目です。
「すてき、トラゾーくん。がんばって」
 トラゾーはハフハフしながら、おさらに口をつけて、ながしこむように食べていきました。トラジの方はというと、なかなか食べられません。口の中が火事のようでした。
「トラジって、本当になさけないわねえ」
 トラ子が言いました。ミツオはトラジがかわいそうになりました。
「ぼく、そばに行っておうえんしてくるよ」
 ミツオはトラジのおさらをめがけて飛んで行きました。それからというもの、トラジの食べっぷりがかわりました。
 パクパクパク、ゴクゴクゴク…。
「おかわり!」
 パクパクパク、ゴクゴクゴク…。
「おかわり!」
 パクパクパク、ゴクゴクゴク…。
「す、すごい、すてき!」
 トラ子はうっとりするように、トラジを見つめました。トラジはどんどん食べつづけました。

   ピッピーッ。おわりのホイッスルがなりました。せんしゅたちはスプーンをテーブルの上におきました。みんな、あせダラダラです。
「では、けっかを発表します。オッホン!」
 校長先生が大きな声を出しました。
「第三位、六年生トラローくん、十八ぱい!」
 はく手がおきました。
「第二位、三年生トラゾーくん、三六ぱい!」
 ミツオのクラスから、ヤッターという声があがりました。トラゾーはちょっとふまんそうですが、三年生で二位はりっぱです。
「ゆうしょうは、三年生の…えっ?」
 あたりはシンとなりました。校長先生は目をこすってから、言いなおしました。
「第一位、トラジくん。ひゃっ、百ぱい!」
「すごーい!おめでとう!」
 ミツオがトラジに抱きつくと、まわりからも大きなはく手がおこりました。
「トラジ、今までバカにしてごめんよ」
「わたしも、ごめんね」
 みんながかけよってきました。
「そんな、あれはミツオくんが…」
 ミツオはあわてて、トラジの足をはりでチクリとさしました。トラジはさけびました。
「イッテー!」
「くれたからなんて、くすぐったいこと言うなよ」
 ミツオが言葉をつづけました。
「みんななかよしでいい子たちね」
 先生はにこにこしながら、子どもたちをだきしめました。

「あらっ、おいしい!これはなんのみつ?」
 お母さんがミツオの水とうを見ながら聞きました。それは、花からとったみつを入れておくものです。みつばちなら、いつも持ちあるいているものです。
「えっ?」
 ミツオも水とうをのぞきこみました。
「ピリッとしていて、とってもおいしいわ」
 お母さんはゆびをなめています。
「どれどれ?」
 お父さんもなめてみました。
「おおっ、うっまい!」
 ミツオもなめてみました。
「あっ、あのとき、カレーが入っちゃったんだ…」
 ミツオはにんまりしました。
「あのときって?」
 お母さんがたずねました。
「ないしょだもん」
 ミツオはにこにこしながら、カレー味のはちみつをぺろぺろなめました。

 あのときって、いつですって?
 そうです。コンテストのときです。トラジがからいカレーを食べられなくてこまっていたとき、ミツオはトラジのおさらに花のみつをたらしてあげたのです。おかげで、からいカレーはまろやかなおいしいカレーに大へんしんしたのでした。
 ないしょのおはなしをもうひとつ。ミツオのお父さんの会社から「カレー味のはちみつ」が売り出されるかもしれません。どこかでみかけたら、ぜひ、食べてみてくださいね。

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